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E-コマースは印刷ビジネスを変えるか

インターネットが創る電子商取引

富士通総研 マネジメントテクノロジー研究部 富田正之


インターネットで企業の付加価値はガラス張りに

 よく,「インターネットがビジネスを変える」とか,「インターネットが生活者の消費スタイルを変える」などと表現される。インターネットをビジネスの脅威とみるのか,またはチャンスと捉えるのかは人によってさまざまであるが,インターネットが従来のビジネスで通用していた常識や価値観を,根本的に覆す要素を含んでいることは確かである。
 例えば,消費者向け(Business to Consumer:BtoC)と呼ばれるインターネットビジネスの世界では,「商圏」といった概念が極めてあいまいである。私たちは普段,多少安くなるからといって,東京から大阪まで買い物に行くことはしないが,インターネットの世界ではそういったことが簡単に起こる。買い手は営業時間や物理的距離などの制約から開放されるため,自分にとって最もパフォーマンスの良い商品を求めることが可能だ。「インターネットでは世界がマーケットである」ということをよく聞くが,それは裏返せば,「世界が競合になる」と言っているわけで,その時点で「マーケット」などという既存の概念は吹き飛んでしまう。インターネットを使えば,それこそ世界中のだれもが,世界中のだれにでも販売できるわけである。

 企業の果たす役割や付加価値をガラス張りにしてしまうインターネットが,ひとたび業界のインフラとなった時は,取引先,そしてその最終顧客に自らの価値を認められないような企業は次々に,淘汰されることになる。従来どおりの「ぬるま湯的な関係」に,企業としてどっぷり漬かり続けることはできなくなるだろう。しかし,これは危機であると同時に,大きなチャンスでもある。先を見通して,いち早く本気で取り組んだ企業にとっては,業界の構造変革のなかで大きなビジネスチャンスを手に入れ,業界のなかでさらに這い上がれる,またとない機会をつかむことになるからだ。

BtoBの主戦場はプライベートな調達EC?

 EC化がもたらす効果は,単に業務の効率化だけではない。BtoBを舞台としたEC市場では,これまでの商習慣に捉われずに,売り手と買い手がダイレクトに取引関係を持ち得る構造になっている。もちろん,それだけに企業としての実力はシビアに見定められるようになる。こうした動きについていけない企業は真っ先に淘汰の対象となるだろう。
 EC先進国の米国では,現在,BtoBのEC市場には大きく2つの流れが存在する。
 ひとつは,メタルサイトに代表されるような,第三者が運営するECサイトによって,従来の取引関係を超えて,サプライヤとバイヤーとの幅広いマッチングを実現しようするパブリックなEC市場である。米国では,こうしたECサイトが既に7000近く存在するといわれている。スポット取引や在庫処分など,柔軟性のある直接取引を望む企業などには,特に歓迎されているようである。しかしながら,こうしたECサイトのすべてがうまく機能しているわけではない。活発な取引が行われるためには,力のある企業が複数,参画していることが理想的なのである。
 しかし,実際に有力企業を中心に広く行われているのは,メーカーなどがサプライヤに対して欲しい資材の仕様を公開し,一定基準を満たした企業との間で広く引き合いを求めようという,プライベートなECである。これが,BtoBのEC市場のもうひとつの流れである。
 例えば,年間10兆円近くの売り上げを誇るGEでは,MRO(Maintenance,Repair and Operation:企業の製品生産活動に直接関与しないオフィスサプライや工場内設備部品などのこと)と呼ばれる非生産部品分野を手始めに,自ら開発したインターネットでの公開調達の仕組みを利用している。調達商品点数は,このMROだけでも数万点に及び,98年の調達額はMRO非生産部品で2100億円,ボルト・ナットなどの生産部品で1000億円程度,2000年には年間で5000億円程度になるだろうといわれている。
 GEの調達ネットワークのなかに入れるのは,GEの提示する取引基準をクリアした企業だけである。従来からの取引先はともかく,新規については年商,部品の品質,経営状況,生産性,納期,立地条件など,細かな条件を満たした企業のみが,サプライヤとして参加できるのである。

(プリンターズサークル7月号「特集 E-コマースは印刷ビジネスを変えるか」より抜粋。詳しい内容は記事をご覧ください)

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2000/06/24 00:00:00


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