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印刷のセキュリティ技術のあれこれ

凸版印刷株式会社

セキュリティに求められる条件

偽造防止対策には,(1)真偽の判定が容易にできる,(2)大量不正印刷を防止する,(3)カラーコピー機による偽造を防ぐ,という3つの条件が求められる。これらの条件を満たすために,さまざまなセキュリティ技術を複数組み合わせて,高度な偽造防止策を施すことができる。今回は,偽造難易度としては最も高いホログラムの詳細については次の機会に譲り,「用紙」「インキ」「製版・印刷」の3つのポイントでの偽造防止技術を概観する。

用紙による偽造防止

(1)パールスター用紙
真珠のような輝きのある3ミリ四方ほどのチップを漉き込んだ用紙で,控えめな光沢があり上品な仕上がりを得ることができる。 チップには金・赤・青・緑の4色があり,ランダムに漉き込まれている。カラーコピー機やスキャナで複写すると,チップが輝きを失い,黄ばんで見えるので,偽造券と一目でわかる。株券・債券・商品券・乗車券などの有価証券類に使われる。

(2)ルミスター用紙
赤・青・緑の3色の蛍光粒子を用紙抄造時にランダムに漉き込んだ用紙。紫外線を照射すると粒子が発色し無数の星の様に輝いて見える。見た目には蛍光粒子が漉き込まれていることはわからないため,券面のイメージを変えずに偽造防止を施すことが可能。ブラックライトを使って真偽判定する。有価証券類に使われる。

(3)バイオコード用紙
特殊な抗原「バイオコード」を漉き込んだ用紙。専用の検証キットを使用して真偽判定を行うことが可能。見た目には偽造防止が施されていることがわからないため,外見上全く同じように偽造されても偽造券を発見できる。有価証券類に使われる。

(4)スレッドホログラム用紙
偽造が非常に困難なホログラムを細いテープ状にスリットし,用紙の抄造時にスレッド状に漉き込んだ用紙。ホログラム作成技術と特殊な用紙抄造技術が組み合わされることで偽造防止効果がより高められている。有価証券に使われる。

(5)透かし用紙
紙を透かして見た際,文字・マークなどの絵柄の部分が,周囲よりパルプの密度が低く光の透過性が高いため,白く見える特漉き用紙。 透かし用紙の抄造には専用の抄紙装置と特殊な技術が必要なことから偽造は困難である。これも,有価証券類に使われる。

インキによる偽造防止

(6)OVIインキ(Optically Variable Inks)
角度を変えると色が2色に変化して見える特殊インキ。カラーコピー機で複写しても色変化を再現することはできない。また,用途は有価証券への偽造防止に限定され,厳重な管理のもとで使用されている。 色変化は「緑→青」「赤→緑」「金→緑」の3パターンから選ぶことができる。紙幣等にも使用されている偽造難易度が高いインキである。

(7)ツインカラーインキ
光源によって色が変わる特殊なインキ。太陽光下では淡黄色,蛍光灯の下ではピンク色と異なる光源下で色が全く違って見える。カラーコピー機などで複写すると淡黄色になり色変化はしない。インキの生産は非常に難しく,入手は不可能。耐光性,耐熱性に優れているため,さまざまな用途に使用することができる。

(8)ツインパールインキ
見る角度によって色が2色に変化して見える特殊インキ。真珠のような淡い輝きがありデザイン性を損ねずに偽造防止が可能。ほかの色変化するインキに比べ低コストで偽造防止を施すことができる。カラーコピー機などで複写すると黄ばんで色変化しなくなる。

(9)IVインキ
In-Visible(不可視)インキの略で,ほとんど目視では認識できないインキである。デザインを損なうことなく,任意のマークや2次元バーコードなどの不可視情報を入れることができ,見た目には偽造防止を施していることがわからない。当然,カラーコピー機で複写しても再現は不可能。専用の検証器で判定する。

製版・印刷による偽造防止

(10)コピー牽制製版
コピー牽制が施されている部分をコピーすると,隠されていた文字やマーク等が浮かび上がる。モノクロコピーはもちろんのこと,カラーコピー機にも効果がある。本物をカラーコピーすると,「COPY不可」や,「×」といった文字が現れるため,一目で真偽判別が可能。印鑑登録証明書・住民票等の有価証券類に使われる。

(11)万線モアレ
特殊製版による模様の上に特殊フィルムを重ね,回転させることにより隠れていた文字・マークなどが現れる。印刷パターンは繊細かつ緻密であるため,偽造防止効果がある。複数の画像を隠し込むこともできる。専用フィルムを重ねて回転させることで真偽判定が可能。

(12)マイクロ印刷
非常に微細な文字や模様の印刷のこと。超微細文字のため肉眼では判読困難。コピー機で複写しても鮮明に再現されない。証券製版の特殊なシステムによってのみ作成が可能で,直線・曲線はもちろんのこと複雑なデザインに入れ込むこともできる。ルーペでマイクロ印刷部分をみると,微細文字や模様をはっきりと判読できる。

(13)凹版印刷
印刷された部分のインキが盛り上がっており,指で触ることで真偽の判定ができる伝統的な偽造防止技術。凹版印刷は,紙幣の印刷にも多く使用されている印刷方法で,重厚かつ精巧な仕上がりをえることができる。

(14)凹版潜像印刷
凹版印刷の特徴である凹凸と特殊な製版方法により,正面からはほとんど何も見えないが,角度を変えて斜めから見ると隠れていた文字や絵柄が浮かび上がる技術。券を傾けるだけで真偽判定が容易に可能。

(15)ニューオパール印刷
金銀のアルミ蒸着紙に絵柄を印刷し,絵柄に同調させた特殊エンボス加工を施こす当社独自の技術。通常の印刷では表現できないさまざまな光の動きやチェンジング・立体感・高級感を得ることができる。カラーコピー機等で複写すると独特な輝きやチェンジングは再現できず,容易に真偽判定が可能。入場券やトレーディングカードなどにも使用できる。

以上,簡単ではあるが,当社の偽造防止技術をご紹介した。今回は割愛したが,ホログラムについても,一見してすぐに真偽判定ができるという視認性,製造工程の複雑さにより偽造意欲を削ぐという偽造抑制効果のどちらも優れているので,ほかの技術と組み合わせて利用することで,一層のセキュリティ対策を施すことができる。最近では,写真のように自然な色を再現することができる「フォトカラーホロ」を開発するなど,より効果の高い偽造防止技術の開発に,日々磨きをかけている。

JAGATinfo 2001年5月号より

2001/05/10 00:00:00


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