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オンラインで成功するというジレンマ

nexpo2000報告 その1 概括

紙の出版だけでは読者の要求を満たすことはできなくなると考えて、多くの新聞・雑誌・出版社が、自社のコンテンツをWEBで情報発信するようになってきた。アメリカには1500ほどの新聞があり、それぞれ地場での情報センターの役割を果たしてきた。アメリカの新聞協会(NAA)は、85%が5万部以下というローカル主体の新聞社に対して、デジタルメディアへの取組みを積極的にプロモートしてきた。その甲斐あってオンライン化には成功しており、新聞社は地元TV局よりもWEB化が進んで、かつて新聞社がもっていたポジションをWEB上でも保持できている。

6月15日から20日までサンフランシスコで行われた新聞界最大のイベントNEWSPAPERS2000は、従来単独で開催されていた新聞制作のコンベンションであるnexpoや、マルチメディアのカンファレンスであるCONNECTIONS、その他新聞のマーケティングやマネジメントの諸々のカンファレンスを一体にしたメガカンファレンスで、同じ会場で毎秋に開催されているSeybold会議を上回る規模となった。NAA非メンバの登録料金は30万円ほどかかり、実質的には部外者の参加はあまり考えていないイベントなので、内容はNAAメンバのこれからの方向に深くかかわったものであった。

この中でCONNECTIONSとnexpoの展示を取材してきた。まず今日のアメリカの新聞界は、冒頭のようにWEBでの情報発信では実績を上げているので、2年ほど前までのような、WEBでどうやって実現するかという技術問題や、運営の話しはなくなった。当方としてはもともと技術面の進展を調べに行っているので、その視点からするとシステムの変化としては紙とWEBの双方に対してオーサリングできる環境が最も進んだといえる。

従来からWordやDTPで編集した内容をHTML吐き出しするとか、昨年来のavenue.quarkのようにXML吐き出しをして、それをWEB用に使うとか別データベースで管理する方法は旧世代の方法であり、まず原稿を取りこんでエディトリアルシステムで編集した際にXML化して、SQLデータベースなどに保存して、そのデータをレイアウトシステムとWEBのオーサリングシステムがシェアするパターンが圧倒的多数になりつつある。

具体的にはエディトリアルシステムにXMLツールの埋め込むとか、後工程のレイアウトシステムやWEBのシステムからでも、SQLデータベースの更新ができて、時間的にはWEBの上で先に情報がリリースされても、レイアウトシステムで情報が更新されたなら、WEBの方も自動的に新しい情報になるような関係が実現する。この流れを作る上ではエディトリアルシステムが各コンテンツに関する情報管理を先にしなければならず、レイアウトする段にならなければテキストや画像が入ってこないという成り行きフロー(日本には多いかもしれない)は廃しなければならない。

近年は新聞の制作システムと、コンテンツ管理と、購読者管理、さらに広告の入稿・販売管理、さらに広告のトランザクションまでをインターネットの技術で統合システムにする動きがあり、そのような使い方ができるモジュール化されたアプリケーションが多数提供されるようになってきた。そして今年はそれらの提供者が一挙にASP(アプリケーションサービス)をすると言い出した。ご時世だから尤もな傾向ではあるが、小さな専門的なベンダーでもすばやい対応である。売り文句も、コストダウン+能力向上はもちろん、「何日で対応!」などストレートに訴えている。

ここまで行き着くと、残されたこれからのシステムの焦点は何になるのだろうか? その最大の課題はECである。いままでの新聞にとってのECは広告受注のところにしかなかったが、もっと顧客のECに近づいてビジネスチャンスを探そうという努力が見うけられる。例えばWEBの視聴者(?)調査をしている会社を数社集めて、計測方法を聞くというセッションがあった。現状では各社の方法が異なるため、ChicagoTribuneのページを最近見たという人は、28%という調査結果と、9.6%という調査結果があったという。いずれにせよ、マーケット情報への関心は高まっていて、使えるデータは何でも欲しい状態だと思えた。

WEBのモニターに関する話しはいろいろなセッションに出てきた。WEBで売りやすいもの売り難いものの話し、WEBと紙とでのPRの連携の話し、例えばAmazonは連携の効果があったが、AmericanExpressは効果がなかったとか、eToyはトイザラスの倍額WEBに投資したが、需要ピークで最大37%売上が上回っただけとかの話題が次々出ていて、関心はマーケッティングにシフトしている。要するに単に従来のビジネスをネットで展開しているだけの時代は終わって、ネット上で強くならなければならないという意識が見える。

あるセッションでは、現在インターネット関連などの仕事が成長した結果、従来の新聞社の組織と異なった運営が必要になることで、今後の組織のあり方をテーマにしていた。どんな部署は新聞社に統合しておいて、どんな機能は分離するかについて、いくつかの異なるケースの話しがあった。また別のセッションでは過去の新聞社のデジタルへの取組みを振り返って、デジタル化はしたが戦術ばかり考えていたので、ビジョンが新たなものにはなっていない点を指摘し、今後は従来の新聞以上のビジョンを掲げ、新たな戦略を建てなければ、自分自身を将来に向けて引っ張り上げることはできないという話しがあった。

昨今のアメリカ新聞界はマーケッティングに力を入れた結果、確かに売上は上向きだが、同時にこれは同業者が減っていることからももたらされた結果である。それより、なによりも部数総合計で見ると長期低落傾向に歯止めがかかっていない。この面からも脱新聞というビジョンは考え始められるタイミングであろう。

アメリカの新聞界に共通する一つの典型的なビジョンは、ローカルコミュニティを良くしていくことへの貢献である。このために、従来の紙以外にオンラインという強力な道具を駆使できるようになった今、新聞というビジネスモデルはすでに窮屈なものになっていて、自ら新聞を超えなければならないというジレンマにきているように思える。

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これらアメリカでのInDesignの動向と編集システムのこれからの考え方については、7月4日のnexpo2000報告 : T&G研究会拡大ミーティングにおいてもとりあげる。

2000/06/29 00:00:00


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