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目的の違うDTP資格制度

6つのDTP資格試験が誕生

 1997年頃まではDTPエキスパートの下部資格として,準エキスパートまたはエキスパート2,3級などの設置希望が多く,JAGATでも準備調査を行っていた時期があった。このころのエキスパートに対する認識は,「合格が大きな目標」で,いきなりでは難しいのでエキスパートまでのステップアップ資格が欲しいということであった。
 今でも受験者からみれば大きな目標ではあるが,明らかに合格は通過点になっている。DTPエキスパートの大半がディレクター,制作コーディネーター,メディアのビジネス開発,テクニカルエンジニア,DTPシステム管理など,立場は違うが『テクニカルスーパーバイザー』として仕事をしている。DTPのオペレーション作業を超えた広がりの中で活動しており,Webの企画制作を担当しているDTPエキスパートもかなりいるようだ。
 一方,DTPの定着,発展の中で,DTP関係の資格試験がいくつも立ち上がった。国家検定として昔からある労働省・技能検定の中に「DTP法」というコースが設けられた(通称DTP技能検定)。また,全国高等学校校長会,日本経営協会などのDTP検定,アップル・アドビなどメーカーが実施する認定制度など,全部で6〜7つあるようだ。対象,試験内容などがそれぞれに異なることから,互いに補完し合うことで,周辺教育が充実することを望みたい。かつてDTPエキスパート試験しかなく,さまざまな要求が持ち込まれ,整合性のあるモデル作りに頭を痛めていたのが3,4年前とは思えないほど時代は変化した。

DTPエキスパートは量・質ともに最もハード

 これからは,各人がそれぞれの分野・立場でDTPツールを利用しながら何を目指すのかをはっきりさせて,最も適切な資格に挑むことが大切である。
 そこでDTPエキスパート試験のコンセプトを企業,個人,学校の受験者ならびに試験関係者,またマスコミ報道からの評価あるいは質問として寄せられた生の声をもとに話したい。 まず,「筆記試験に4時間,課題試験に2週間」「とにかく疲れる試験である」「こなす量が多い」「難しい」という意見がある。
 DTP関連の試験の中で,筆記と課題の2つが課されているのは,労働省の技能検定とDTPエキスパート試験のみである。労働省の技能検定は技能を問うものである以上,実技試験が重視されるのは当然であろう。印刷現場の専門家として年間100〜150人が受験しており,特級から3級まである。2級で3年,1級では12年以上の実務経験が必要である。その他にソフト・ハードの操作・取り扱いに力点をおいた日本経営協会のDTP検定,自社製品を対象にしたアドビ認定試験は,実技内容を筆記試験形式で行うもので,指定されたソフト製品の操作情報を問う試験になっている。
 DTPエキスパートは操作方法自体の技能を問うものでないから,特定のハード,ソフトの縛りはなく,自分が一番慣れているものを使用する方法を採っている。どんなハード,ソフトを使っても印刷物を商品として完成させるにはどう作らなければならないかの知識を実制作の中から学ぶ試験になっている。筆記試験と課題試験は連動させており,筆記試験で問うたものが,課題試験で実務的にこなせているかをみることができる。また課題試験の一部である「制作ガイド」によって印刷物全体の設計,コンセプト,ワークフロー,品質,指示指定などを作品と合わせてトータルにチェックしている。
 筆記試験以上に課題は大変だとよく聞くが,試験のための試験は作っておらず,実際のビジネス同様に取り組めば十分合格できる。慣れない人からすればハードルは高いかもしれない。なぜならDTPエキスパート試験はプロ並の知識を要求しているからだ。つまりプロとは道具をうまく操作することではなく,良い印刷物を作る方法を「知識と技能」で有している人である。

DTPエキスパートはゴールではなくスタート

 DTPエキスパートが受験資格を特に定めていないことから,「誰でも受験できる」「経験がなくても合格できる」「キャリア不足である」「知識偏重型試験ではないか」といった評価・質問がある。
 DTPエキスパートでも経験は重視しているが,経験をどう評価するかの違いは,試験制度のコンセプトの違いである。労働省・技能検定や日本経営協会のDTP検定は受験資格そのものに経験度合いが大きく関係している。これらの資格の目的は,受験者の現時点における作業習熟度を評価するもので,過去の経験を集積した到達点に対する称号である。
 一方,DTPエキパート試験は,DTPという道具を使いながら,企画・デザイン・編集・製版・印刷の仕事に関わるプロの共通知識の範囲と深さを示したもので,その学習の証しがDTPエキスパートである。DTPエキスパートはプロとしてのベースラインであり,到達点の称号ではない。従って受験資格に経験は必要ない。「社員教育制度」として関心が高いのも,多くの企業がこれからのグラフィック産業の基本能力と位置付け,次世代の中核社員にしようと考えているからであろう。
 合格してからが経験(キャリア)となる。DTPエキスパートとして日々の仕事をこなしつつ,受験後2年経つと更新試験を受験しなければならない。変化の激しい情報技術・コンピュータの世界と深く関わっているからで,受験してから2年間の変化に対して試験を行うものだ。更新試験は自宅研修として3週間をかけて実施するもので,時代とともに進むエキスパートであることが要求されている。更新試験を2回クリアすると,4年間の実績に対してDTPエキスパートゴールドキャリアグループとして認証カードがゴールドとなり,☆マークの数で経験を評価・表示している。
 「経験がなくても合格できる」のではなく「経験を評価する試験ではない」のである。経験は合格の後で付いてくるものである。経営者の方もこの辺をご理解の上,有資格者の新人を見ていただきたい。ベースラインを固めた新人である。また「知識偏重試験」という評価についても,筆記と課題を細かく連動させた試験システムは他にはない。これも的外れの評価であることがわかっていただけたと思う。

 最後に,この試験自体,教育システムであると位置付けていることから,筆記・課題の試験結果を「合か否か」のみを通知することはせず,受験者全員の試験分析をできるかぎりフィードバックしている。その質・量のあり方は今も試行錯誤を続けている。試験から合格発表まで約2カ月を要するのもそのためである。

 DTPエキスパート認証・登録制度は,資格試験という形態をとっているが,基本は印刷メディアに携わるいろいろな分野の専門家に共通した「デジタルスタンダードカリキュラム」と考えているが,少なくとも受験者,有資格者の数からいってスタンダードといえるものになりつつある。今年の12月にはカリキュラムは第4版として改訂される予定である。当然このカリキュラムは公開されており,受験用だけでなく,個人,会社での学習用教材として利用していただきたい。

(DTPエキスパート認証・登録事務局)

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2000/07/04 00:00:00


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