本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

drupaはダイレクトイメージング(DI)印刷機のラッシュ

(JAGATのドルッパ情報はここへ)

JAGAT客員研究員 泉 和人

出揃ったダイレクトイメージング機

今回のdrupaで特に目立ったのはダイレクトイメージング(DI)印刷機で,オフセット印刷機のメーカーのほとんどがDI印刷機を出展していた。
先行していたハイデルベルグは,クイックマスターDIとスピードマスターDIの実績のある2機種を実演した。

KBA社とサイテックス社の合弁会社として発足したカラット・デジタル・プレス社が開発した74カラットは,1本の版胴に2色分の刷版を装着し,用紙が3倍径の圧胴を2回転することで4色の印刷を行うというユニークな構造をもったサーマルCTP方式の水なしオフセット印刷機である。
1997年の「PRINT97」でプロトタイプ機による実演が行われその完成が待たれていたが,今回のdrupaでは,欧州と米国8カ所でのベータテストを完了した実用機として,2台を使った実演が行われた。

昨年の「IGAS'99」で発表された大日本スクリーンのトゥループレスは,A3サイズ544に加え,B2サイズの744を2台連結し,片面4色・両面2色兼用機として実演を行った。 今回のdrupaでDI機を初出展したメーカーとして,小森,リョービ,サクライ,アダストが挙げられ,それぞれ特徴ある機械を実演していた。

小森のプロジェクトDは,新規設計の斬新なデザインのベースマシンにクレオサイテックスのイメージングヘッドを付けたもので,観客に印刷する絵柄を選んでもらい,それからわずか4分で刷り出すという実演が人気を呼んでいた。リョービの3404DIは,一つの版胴で2色を受け持つ胴配列で,生版は版胴内部に収納し巻き出していくスプロール方式である。2色を一つの版胴にまとめることで,高価なイメージングヘッドやブランケット洗浄装置の数を半減できるという利点が生まれる。サクライのオリバー474EP・DIは,PS版とDIの両方に対応するハイブリッド機で,片面4色・両面2色の兼用機。DI機構はイメージング時以外は下部へ収納するというアイデアを採用している。

生まれ変わったダイコウェブ

マンローランドは,前回のdrupaで,刷版交換不要のDI機のプロトタイプ機としてダイコウェブを発表し注目された。今回のdrupaでは,すっかり生まれ変わって再登場した。これはDI機としてはdrupa唯一のオフセット輪転機である。刷版交換不要のDI機として今回も注目の的となった。
Forget your plates.(刷版のことは忘れて下さい)というキャッチフレーズのもとに行われた1日4回のデモは大人気で開始直前に行ったら近付けないほどであった。
印刷ユニット間をシャッターで覆った斬新なデザインは事務機械をそのまま大型化したイメージで,デモの時だけシャッターとユニット扉を開け,内部を公開していた。
特殊樹脂を転写することで,親水性の表面が親油性に変化するスイッチャブルポリマーを利用して刷版交換を不要としている。対象ロットは500部から3万部といっており,耐刷力は3万部程度のようである。

プリプレスのワークフローから流れた画像データは,クレオサイテックスのスクェアスポット・リボン転写技術を使って版面に転移される。転写リボンはビデオテープ程度の幅で,カセットケースに収納されている。
画像転写後,耐刷力を高めるために加熱され,非画線部の親水性を向上させるためのコンディショニングを行う。前の仕事から,わずか10分で次の印刷が開始できる。
印刷が終了すると版に残ったインキと熱転写物質が羊毛ブラシと洗浄液により除去され,再び新しい画像をイメージングする準備が整う。
前回から基本設計が一新され,版とブランケットを交換可能なスリーブとして可変サイズとなった。版胴,ブランケット胴の1胴ごとに一つの駆動モーターを備えているため,胴間の距離を簡単に変えることができるので,このようなフレキシブルなオフ輪が実現している。

イメージングユニットはプレステックがリード

話題の中心のDI印刷機であるが,コア技術となるイメージングユニットは,プレステックかクレオサイテックスが提供し,印刷機メーカーはそれを自社の印刷機に組み込んでいるだけである。
例外として大日本スクリーンは自社でイメージングユニットを開発し,サクライ・グラフィクス・システムズの印刷エンジンに搭載してトゥループレスを完成させている。トゥループレスは,版胴を印刷位置から製版位置へ移動させて,カセットマガジンからフレキシブルプレートを引き出して装着し,イメージング後,現像定着を行い,再び印刷位置へ戻すというユニークな構造を採用している。

大日本スクリーン以外のメーカーは,イメージングユニットをプレステックかクレオサイテックスに依存している。
最近,プレステックを採用するメーカーが急増しており,今回のdrupaでは,ハイデルベルグ(クイックマスターDI),カラット,リョービ,サクライ,アダスト,ゼロックスの各社がプレステックの共同開発によるDI機を実演していた。
また,drupaには間に合わなかったがプレステック技術でDI印刷機を開発中のメーカーとして,アキヤマ,篠原商事,ディディーなどが挙げられる。

一方のクレオサイテックスは,ハイデルベルグ(スピードマスターDI),マンローランド(ダイコウェブ),小森(プロジェクトD)の3機種に採用されている。プレステックと比較すると機種の数としては劣勢であるが,「世界のトップメーカー3社が揃ってクレオサイテックスを選択した」と宣伝していた。

DI機はこれからの主流となりうるか

今回のdrupaでは,ダイレクトイメージング機に焦点が当てられ,これからはDI機の時代なのかと考えさせられた。
しかし,DI機の採用を検討している印刷会社はまだ一部であり,DI機はdrupaの客寄せの手段で,ビジネスの中心は段取り時間を短縮した従来型の印刷機と位置付けているメーカーも多かったようである。

ハイデルベルグは,既存のGTOにイメージングユニットを搭載したGTO-DIでDI機をスタートし,次にDI専用機として35版まで刷版交換不要のスプロール方式のクイックマスターDIへと発展させた。しかし,次のDI機スピードマスターDIは再び既存機にDIユニットを搭載したものとなり,しかもPS版も取り付けられるハイブリッド方式としている。DI機が万能のものではないと考えているからだろう。

高価な印刷機を効率良く稼働させるためには,印刷機上で刷版にイメージングするより,外段取りでCTP版を焼き,自動的に刷版交換したほうが合理的との考えも成り立つ。
そういう意味では,通常の印刷機にイメージングユニットを搭載しただけのDI機は過渡的技術として比較的短期間で消え去るのではないかとも思える。

2000/07/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会