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ECでオンデマンド印刷の新たな可能性を追求

ITソリューションへの関心は,もはやコンピュータにおける通信技術などの基盤技術を問題にするのではなく,いかに効率よく利用できるかに視点が変わっている。ネットワークやインターネットの急速な進歩は,ビジネスはもとよりわれわれの日常生活レベルでの変化をも意味している。当然ビジネスプロセスも従来とは違ったものになり,多くの中小印刷・複写業もサービス業への変化が求められている。
しかし,現実問題として1社だけで変革を試みるには,たくさんの阻害要因がありすぎる。
今回は,サービス業としてのオンデマンド印刷の実現のため,単独では困難な「コスト・技術・ノウハウ・市場育成・ブランド力向上」といった課題をITを活用し解決するアライアンス(提携組織)を紹介する。

常に新しいドキュメントサービスの革新に邁進

printing@lliance.net (プリンティング・アライアンス・ネット)の運営準備事務局は,東京都大田区の(資)開明社の新事業企画開発部内にある。同社は1948年に創業された複写業である。1968年には,国内で初めて図面用大型電子複写機(ゼロックス1860型)を導入するなど,時代の先端をいく事業を展開している。1996年1月にはデジタル事業部を設立しデジタル業務の充実を図っている。現在では多くの企業と業務提携し,常に新しいドキュメントサービスの革新に邁進している。同社の岡本幸憲氏が中心となって,2〜3年くらい前からprinting@lliance.netの構想をずっとあたためていた。通信環境やインターネット環境など,ある程度システム上の環境が熟してきたこともあり,今年に入ってから本格的に運営へ向けて動き出した。

複写業のビジネススタイルへの疑問

岡本氏は10年以上アメリカでデジタルベンチャー系ビジネスに携わってきた。数年前に日本に戻り,複写業の現実を目の当たりにして,そのビジネススタイルに疑問を覚えたそうである。
オンデマンドという言葉はあっても,オンデマンド市場を研究している人はいない。ハードを導入すれば,それでオンデマンド印刷ができるというのはあまりに安易である。何が目的でどういう市場があるのか,どう開拓していくのか誰もわからない。複写・軽印刷業がその中で何ができるのかを考えた場合,何もできないことに気づいた。
コピーやドキュメントの出力は,多くの場合「無駄なコスト」と捉えられがちであった。企業によっては,社内のプリンタ出力で代用したり,内製化による方法でコストの削減を図るところも増えてくるだろう。しかし,内製化することがすなわちデータの有効活用につながっているとはいえない。ビジネスが動くところに,情報が発生する。大切なことは,こうした情報を「必要なときに必要な部数」出力することであり,それがドキュメントの力を引き出すことになる。今後,デジタル化されたデータは,ワークフローの変化に伴い対応しなくてはならない。コスト競争以外の差別化として付加価値をつける,そのひとつとしてのオンデマンド印刷である。
そのために必要なことは,的確なサービスの仕組み作りの提案であり,オープンで汎用性の高いシステムの構築,そしてこれらのサービスを広く社会に認知させることである。
「われわれは商品を販売するのではなく,サービスや仕組みを提供するのです」という。

自らが主導権をもって新しいビジネスに挑戦

今まではメーカー・ベンダー主導型のビジネスだった。機械の活用にふりまわされ,ノウハウや知的アドバイスが全く評価されていなかった。製造加工業の位置付けでは,大きいところが勝つのは当たり前である。いくら機械を新しくしたところでサービス業としての高い付加価値がなければ,右肩下がりの現状は打破できず何も変わらない。
これからはベンダー主導ではなく,自分たちが立ち上がり,主導権を握り,サービスを主体とした新しいビジネスモデルを確立していくしかない。そのためには市場を開発してアピールしていく何らかのエンジンが必要なのではないか,それをインターネットベースでバーチャルなブランドとして作っていくことを念頭に描いた。オンデマンド印刷のプロ集団であるというブランド作りと潜在的な市場を拡大していくこと,それこそがprinting@lliance.net発足につながっている。
とはいえ,多くの中小企業では,生き残りをかけサービス業への変革を図ろうにも,ノウハウやブランド力がなく,従って交渉力ももてずに苦しんでいるのである。その解決策としてアライアンスの「本当に自分たちが自由に発散できる市場が欲しい。その市場で自由競争しましょう。」という提案がある。

オンデマンド印刷の可能性を追求

具体的にprinting@lliance.netが目指しているものは,一言でいうと「ITがもつ今後の可能性を的確に把握して,業界に必要なエンジンになる」ことである。参加企業が同業者に限られ,共同受発注による価格交渉力の強化やコスト削減に主眼をおいているような他の組合組織とは,性格が自ずと違ってくる。他産業からの協力も受け入れ,B to Bマーケットに対し,ドキュメントワークフローの仕組みを提供していく。各社共通の課題であるオンデマンド印刷の可能性を最大限に追求することであり,ITを絡めればその威力は計りしれないものになる。
参加企業各社の積極的な情報交換,連絡・打ち合わせなどの交流ができる。自社のみでは対応できずに今まで断ってきた仕事も,専門能力をもつ他社とのアライアンス機能で受注が可能になる。
参加企業のメリットとしては,各企業がe-commerceに参画できる基盤としてのASPモデルを利用することができる。また,printing@lliance.netとしてのマーケティングチャネルの利用により,ビジネスチャンスの拡大が可能である。さらに,参画企業の増加によりコミュニティの力が増加し,市場を取り巻く環境に対して,より強い影響力をもつことが可能となり,より必要な環境を自らの力で整備していくことが可能であろう。

顧客の購買意志を支援

顧客側から見た機能としては,「自動見積もりシステム」「業者斡旋システム」がある。いずれもホームページ上で,さまざまな条件での検索が可能である。データ受け渡しやEC実現に伴い,利便性向上のみならずトータルコストの削減にもなる。
そして何よりあらゆる情報,ノウハウ,受発注から工程管理まで提供し,顧客ニーズを満たす考え方で臨む。ワンストップショッピング化して顧客の購買意志を支援するドキュメントマネジメントに関するディスティネーションサイトを提供していく予定だ。
現在,9社で準備中だが,既に問い合わせも多く参加企業の増加は見込める。運営事務局ではprinting@lliance.netの考え方に共鳴し,アライアンスを結びたいという企業を募集している。
後戻りではなく常に前進を続けていく姿勢に,大いなる期待を感じた。初夏にはWebを立ち上げていく方針である。一度ホームページを覗いてみる必要がある。(上野寿)

『JAGAT info』2000年6月号より

2000/07/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会