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グローバル時代のシンガポール印刷産業(概要)

■ASIA FORUM
第7回マレーシアFAGAT(2004年)
シンガポール講演レポート

2004年10月20日

Mr. Lim Chin Tong/Print&Media Association、Singapore委員会委員

●シンガポールの印刷史

シンガポールの印刷の歴史は古く、19世紀後半に中国から技術を学んだ職人が小さなプリントショップを開いたのが始まりである。1936年現在の経営者の組織であるPMAS(Print&Media Association、Singapore)の前身のMaster Printer Associationが設立された。当時の主旨は中国から学んだ職人技術を生かして印刷を盛上げて行こうというものであった。この流れは今も続いており、多くの中小・家族経営がそれである。1970年になると政府の方針転換があり、海外の多国籍企業の進出を認めたため様子が一変した。これらの多国籍企業が最新の技術を持ち込んだことと、多くの印刷機械メーカーの海外拠点が作られた。PMASの組織を1956年から印刷業だけの集まりからサプライヤーにも門戸を開いたことから、印刷とサプライヤーの相互理解が進んだ。

1970〜80年代に大きく変化した、「大企業の市場への参入によってマーケットが独占され、中小はそのことでルーチン作業の仕事のみをするようになった。大手企業は最新鋭の機器を使うことで、グローバル化したマーケットへ早くから参入した。まず、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアの書籍、雑誌を広く手掛けるようになった。そのころから海外への輸出が増えていった。この傾向は今も変わらず1000社の内、300社は大規模企業、中堅企業で株式を上場したり、中国、アメリカに拠点を拡大したところもある。デザイン、プリプレス部門を持ち、CD制作を含む多様な事業を展開しているし、先端技術も導入している。

●今後の印刷産業

そのような強みを生かして国際市場で仕事を確保している。最近では安い労働力を求めてマレーシアや中国にも進出している。その他の700社は家族経営の小規模規模企業である。2002年の印刷生産額は2.58億シンガポール(S)ドル、付加価値額は1.23億Sドルであった。従業員数は17000人で最新機器の導入で減少傾向にある。

  • Printing Hub構想
    シンガポールの印刷業の特徴を上げると企業がグループ分けされグループ同士が協力し合って活動をする形態が多く、一つの建物にグループ企業が全部入っていることもあり、外注先なども距離的に近い。このような特徴を活かして政府の主導で、プリント・ハブ構想の実現が進められている。各企業が一箇所に集まることで物流コストを削減し効率を向上させ、各企業の特化を進めやすくするためである。
  • 今後の課題
     価格競争による利益が減少している。対応策としては合併あるいは共同購入によるコストダウンが考えられる。 大きな問題は、印刷技術は高度になりITに関する知識等を持った現場作業者が必要だが、印刷に関するイメージが悪く、そのような能力を持った若い人材が業界に入ってこないこと、また後継者が事業を継承しないことが問題である。この問題の対応策のひとつは、現在働いている従業員に向けた適切なトレーニングプログラムを導入することである。また、メルボルン大学と提携して印刷に関して大学レベルの資格をもてるようにした。このようなことをもっと増やすことによって、印刷業界に優秀で意欲のある人材を入れていくことが重要である。
  • 生き残りは規模の適正化
    これからの生き残りの対応の唯一の道は、規模の最適化と利益率の改善が必要であり、経営面で生業から企業への脱皮をしなければならない。今後、紙の印刷需要が減り、電子媒体と共存していくことになるが、だからといって全ての印刷業者が生き残れるわけではない。 これから成功する企業は、規模が大きな企業では国際市場に事業を拡大し、海外への工場進出もしていく。比較的小規模な企業では、業種特化したり、電子メディア分野を含む新しい事業領域に事業を拡大する。またプリプレスの企業は印刷分野に事業を広げつつあるところもある。

    2000/08/02 00:00:00