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2001:文字組版・レイアウトの動向

DTPの内と外

既存のDTP関連ソフトは着実にバージョンアップを続けているが,新しい組版ソフトやデザインソフトの噂は,とんと聞かない。DTPに必要な基本機能はXTensionやPlugInを含めて事実上一段落着いたと見てよい。それでDTP周りの関心がどこに向かっているかというと,一方では後工程や受発注まで含めた広い意味でのワークフローへと向かい,他方では,いかに組版しデザインするかという組版論/デザイン論へと向かっている。こうしていわば外部と内部へまなざしが向かうことによって,DTPのDTPとしての求心力が失われつつある。といってDTPがなくなるということではなく,ノウハウやTipsを玉条とする袋小路からの脱出である。

組版やデザインを根本から原理的に考えたり,ワークフローという全体像を構築するということは,ひとり,目の前のMacと格闘するのではなく,技術や方法の歴史的背景を踏まえ,社会的状況に視野を広げてコミュニケーションを確立していくということである。eコマースやデジタルアセットマネジメントなど,ITの波が寄せているが,これらはむしろ現場の担当者が当事者として考えるべきことである。経営者やインフラがお膳立てしてくれるわけではない。

ネットワーク,データベース

ところで,DTPの外へと向かう視線はビジネスに直結するから,主要なベンダーの動向を見れば今何が最もホットなテーマなのかがわかる。アドビシステムズはオンラインパブリッシングやwebビジネスに重心を移しており,そのことはIllustrator 9.0やPhotoshop 5.5のweb対応にも現れている。クォークも,クライアント/サーバおよびデータベースシステムとQuarkXPressなどのソフトを結びつけるQuark Digital Media System(QDMS),QuarkXPressの文書をXMLで保存するavenue.quarkなど,組版/デザインからワークフローやwebへの拡張を目指している。日本でも,大日本スクリーンがSGML/XMLデータベースを利用した自動組版と,きめ細かい日本語組版機能を搭載したAVANAS BookStudioを開発した。

ここでの共通項はXMLである。AVANAS BookStudioやavenue.quarkばかりでなく,Illstrator 9.0がサポートするSVG(Scalable Vector Graphics)はXML準拠だし,後述するワークフローのフォーマットJDF(Job Definition Format)もXMLベースであって,データベースやネットワーク利用においてはXMLが中心的な役割を果たすだろうと予測できる。

外へ向かうという点ではまた,制作だけでなく受発注やマーケティングまで含んだ管理システムに注目したい。例えば方正の,顧客や代理店まで含めたフロー管理を行って,広告マーケット情報を把握するFounder ADや,新聞社向けの管理システムFouderEditorialなどがそれである。大日本スクリーンも,新聞製作システムAVANAS Pressパッケージや,印刷向け統合制作管理システムJobDirectorを発表している。

こうした動向に共通するのは,ネットワークとデータベースがパブリッシングにとって欠くべからざるインフラであるという認識である。これは必ずしも大規模なシステムである必要はない。FileMakerなどを使ったいわゆるデータベース組版という分野も着実に進化しており,ネットワークやデータベースの知識があれば,必要に応じて受発注と制作を連携できることを証明する事例も蓄積されつつある。

フォントはどうなるのか

ここ1年の最大の話題はなんといってもMacOS Xのヒラギノファミリー搭載のニュースだろう。このニュースが衝撃を与えたのは,CID化とPDFへのフォント埋め込みという,いわば外に向かうフォント技術にユーザやベンダーの関心が集まっていたときに,'ヒラギノ'という具体名を突き付けられて,デザインや組版のあり方を考える方向に視点を引き戻されたということではないだろうか。実際,文字組版やデザイン環境の充実という意味で,このニュースを歓迎するユーザも多い。しかし,このニュースには,OpenType(フォントフォーマット)/Adobe-Japan(フォントセット)/Unicode(エンコーディング)をキーワードに,Windowsとの関係や出力環境,さらには他のフォントベンダーの対応まで,さまざまな要素が絡んでいる。したがって,大事なのはヒラギノが良いか悪いかということではなく,だれがどういう立場から,その判断をくだしているかを見極めることである。

フォント埋め込みといえば,Acrobat4.0日本語版が出てから1年たつ。PDFはオンラインのデータ交換のフォーマットの標準として定着しつつあるが,印刷での本格的利用はそう大きくは進んでいない。なにかがネックになっているというより,基本的にはインフラと体質の問題だと思われる。しかし,そのような大きな壁に抗して,PlugInなどのさまざまなツールを組み合わせて着実にノウハウを蓄積する試みが現場で進められている。こうした地道な努力はいずれ大きな実を結ぶだろうが,そのための鍵はなんといってもワークフローのありようである。

RIPからワークフローへ

Extremeの出現はRIPそのものの意味を問い直す側面があった。つまり従来まではRIPはいわばブラックボックスとなっていて出力するまでは結果がわからず,失敗すれば最初からやり直しという状態が続いていた。だからこそ各ベンダーが安定した出力ワークフローを確立すべくそれぞれシステム提案を行って,独自フォーマットを使ってきたのである。ExtremeはPDFを使うことでRIPの機能を分散し,インテリジェント化して,RIPをボトルネックとするワークフローから,RIPが生産性向上の鍵を握るワークフローへの展望を開くものだった。ところが,当然ながら既存ユーザの存在やPDFのハイエンド適正の問題などもあって,すぐにすべてがPDFワークフローになるとは考えられない。ApogeeにしてもBrisqueにしても,あるいは現時点ではもっともExtremeコンセプトに近い形でPDFをベースフォーマットとするPrinergyにしても,今のところ必ずしも完全に統合的なワークフローシステムとは言えない。本当の意味でオープンなワークフロー環境が実現するのはまだ先である。

drupa2000で発表されたシステムでは,例えばIPTech社はアドビExtremeベースのワークフローnActをベンダー向けに開発しているが,これはwebブラウザインタフェースやOPI機能を備えたものである。webブラウザインタフェースは他の多くのシステムも採用していて,一種のトレンドとなっている。また,クレオサイテックスのPrinergy2.0は同社のBrisque Extremeとデータのやり取りが可能になった。さらに富士フイルムは,Valianoを発展させたRIPシステムを大日本スクリーンと協同で開発し,またCelebraNTのExtremeバージョンを発表した。これらは今年後半から話題になることだろう。こうしたベンダーの動きは,RIPがワークフローシステムという,より広い括りの中で捉え直されていることを示している。大日本スクリーンのTrueflowが'インテリジェントRIP'というように,RIPはワークフローのボトルネックから,ワークフローをドライブするものへ変わろうとしている。このところRIPのハードウエアメーカーや,ワークフローのソフトウエアのメーカー間で新たな提携や協同開発の動きが活発なのも,そのような流れの表れでもあろう。

標準フォーマットの模索

そこで問題となるのが,ワークフローの標準フォーマットである。現在,ほとんどのシステムがプラットフォームにWindowsNTを採用し,入出力フォーマットとしてPDFをサポートし,webブラウザインタフェースによる処理設定やジョブ管理を採用しており,基本的に同じ方向へ向けて競合しているのだが,肝心のジョブチケットの標準化は模索が続いている。

今回のdrupaで注目されたのはJDF(Job Definition Format)というフォーマットである。JDFはアドビ,アグフアゲバルト,ハイデルベルグ,マンローランドの4社の協同開発によるもので,CIP3のPPFとアドビのPJTFを統合し,さらにオープンで拡張性のあるフォーマットとすべくXMLをベースとしている。現在,2000年7月19日付けの仕様バージョン3が公開されている(http://www.job-definition-format.org)。一方,プリントオンデマンドの分野では,やはりXMLベースで,各ベンダーのハードウエア/ソフトウエアで利用できる可変データ印刷のためのマークアップ言語PPMLが発表された(http://www.podi.org)。アドビ,アグフア,バルコ,EFI,ヒューレットパッカード,IBM,サイテックス,ゼロックスなど主要なベンダーがサポートする。JDFとPPMLは別もののようだが,CTPやデジタル印刷まで見込んだ広い意味でのワークフロー統合が,道は遠かれ,もはや夢ではなくなりつつある。

2000/08/16 00:00:00


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