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2001:画像・製版の動向

デジタルカメラ

コンシューマ用デジタルカメラの画素数が急速に増大している。25万画素から始まったデジタルカメラは,1999年にはメガピクセル(100万画素)になり,2000年はついに数メガピクセル(300〜600万)での競争になった。
ソニーは対角線8.93mmの334万画素CCDを開発し,デジタルカメラ各社が採用し始めた。また,富士写真フイルムから発売されたFinePix4700Zは,スーパーCCDハニカムという8角形セルにより,423万画素(2400×1800画素)を実現し,12万8000円で発売された。FinePixS1 Proという613万画素(3024×2016画素)のカメラは,ISO1600相当と高い感度を持つニコンFマウント対応の一眼レフタイプである。価格は39万8000円である。
プロ向けのデジタルカメラとしては,主に報道写真用途としてニコンやキヤノンの35mm一眼レフにカメラバック式CCDユニットを組み込んだ,コダックのDCSシリーズが有名である。スタジオ撮影用途では,4×5あるいはブローニーのカメラバックにCCDユニットを装着するタイプが多く使われている。

drupaでは,ハイデルベルグからデジタルカメラバックのColorcamとLinocolorCamが発表された。629万画素(3072×2048画素)でRGB各色16bitで取り込む。LinocolorCamは,スキャナの入力ドライバであるLinocolorのデジタルカメラ版であり,撮影データを正確な色でモニタに表示するとともに,カラーマネジメントされたデータをワークフローに取り込むことができる。デジタルカメラのワークフローでは,RGBからCMYKへの変換を,いつ誰が行うのかというのは大きな課題であるが,LinocolorCamはこの課題の解消をねらったものである。同様のソフトに富士写真フイルムのPICTUNEがバージョンアップされ,PICTUNE21として発売された。画質や生産性の向上と前述のFinePixS1 Proなどプロファイルの対応機種が増加しているほか,Windows対応版も登場した。

スキャナ

主要ベンダーのラインナップに大きな変化はない。中心はフラットベッドスキャナで,XYズーム機構を採用しているものが多い。従来のフラットベッドスキャナは,ズームレンズで原稿台の横幅いっぱい(Y軸)をカバーしながら,縦方向(X軸)にのみスキャニングヘッドが動いていた。この方式だと大サイズの原稿の拡大倍率に限界が生じ,また原稿台の隅の方(Y軸に対して)に置かれた原稿の入力データは品質が劣化する傾向があった。XYズーム機構とは,スキャニングヘッドがX軸方向だけでなくY軸方向へも稼働するものである。これにより原稿をどこに置いても,最大倍率や解像度での入力ができるようになっている。

ワークフローツール

WYSIWYGによる作業が中心のDTPでは,作業効率に個人差が生じやすい。職人体質が強い業界ではあるが,裏技を駆使する達人がいたところで,全体の作業効率が向上するわけではなく,作業の標準化による全体のレベルアップの方が効果がある。そして,なるべく人に左右される要素を取り除いていき,できれば自動処理させることが望ましい。そのためには,汎用ソフトだけですべて処理するのではなく,処理に応じた専用のツールを組み合わせるのが効果的である。切り抜きは,DTPオペレータにとって負荷の大きい作業であるが,いくつかの専用ツールが用意されている。富士写真フイルムのDoToPは,Macintosh上で稼働する切り抜きレタッチソフトであるが,線(直線,曲線,円弧)を対象とした切り抜きだけでなく,テニスラケットのガットや自転車のスポークなどのような背景と入り組んだものに対しても効率よく切り抜くことができる。切り抜きソフトとしては,その他にScissros Hands(サカタインクス扱い)やPhotoshopのプラグインソフトであるExtensis Mask Pro(ソフトウエア・トゥー扱い)がある。

ワークフローの効率を落とす最大の要因は,修正による工程の戻りである。クライアントの指示によるものは,ある程度やむをえないが,単純ミスによる修正も少なくない。版下やフィルムの場合は,目視によるチェックが中心であったが,データ入稿の場合は,ファイルを開いて絵柄を確認するだけでは不十分である。使用されているフォントがPSフォントかTrueTypeか,PSフォントでもOCFなのかCIDなのか,画像ファイルは,CMYKなのかRGBなのか,十分な解像度を持っているか,自社のRIPが対応している画像フォーマットなのか等々,チェックすべき項目が非常に多くなってきている。そこで,プリフライト(フライトチェックとも言う)という入稿段階でチェックする工程が重要となる。デジタル化が先行しているアメリカではプリフライトを専門に行う部門を置くことは常識である。プリフライトを行う代表的なソフトに米国のMarkzware社のFlightCheckとExtensis社のPreflightPro(いずれもソフトウエア・トゥー扱い)がある。両者は機能的にはほぼ同じだが,FlightCheckはドキュメントに問題があったときには,作成したアプリケーションを起動させて,問題の場所をダイレクトに表示させ,その場で修正することができる。QuarkXPress,PageMaker,Illustrator,Photoshop,FreeHandなどのソフトに対応している。

カラーマネジメントシステム

アプリケーションソフトのCMS対応はさらに進んでいる。AdobeのIllustrator 9.0では,カラーマネジメント機能が大幅に強化され,Photoshop 5.0の仕様に近くなっている。またAcrobat 4.0では,PDF作成時にICCプロファイルが埋め込めるようになっている。
このようにCMS対応は進んでいるものの,例えばPhotoshopで作成した画像をQuarkXPressに貼り込んで,PostScriptカラープリンタで印刷シミュレーションを行うような場合,各アプリケーション,プリンタドライバ(RIP)おのおのがCMSに対応しているので,かえって具体的な手順やメニューの設定をどうすればよいのかわからないという事態になっている。
さらに,ICCプロファイルがエンベッドされた画像データが入稿してくるとなると混乱に拍車がかかることになりそうである。CMSをきちんと理解しないまま,知らず知らずのうちに画像にプロファイルがエンベットされてしまうということが十分起こり得る。

プロファイル作成ソフトでは,大日本スクリーン製造からLabFitが発売された。印刷機のプロファイルが85色のパッチで作成できることと,作成したプロファイルを作業結果をモニタで確認しながら再編集できることが大きな特徴である。
本来,測色結果だけで人手を介さずにICCプロファイルを作成するのが理想的だが,ソフト任せの自動作成では精度に限界があるというのが,最近の定説である。自社の設備(モニタ,プリンタなど)にきちんとあった高精度のプロファイルを作成するには,プロファイルの編集(チューニング)が必要となる。
プロファイルの編集は,トーンカーブをいじったり,カラーコレクションを行うといったスキャナのセットアップに似たインタフェースで行うものが多い。
ここで注意が必要なのは,画像レタッチとの切り分けである。カラーマネジメントの目的は,原稿に忠実な色を再現することであり,印刷したときに望ましい絵をつくるというレタッチの機能はもともと考えられていない。極端に色をいじるときは,プロファイルの編集ではなく,元データを変更するほうが得策であろう。

CMSに対して消極的な意見が多くなってしまったが,印刷会社にとって,校正,特に色校の合理化はコスト・納期の大幅な改善が見込める数少ない分野の1つである。ネットワークの進展とカラー出力機の高性能・低価格化により,リモートプルーフもかなり現実味を帯びてきている。いずれにしてもカラーマネジメントの技術が前提となることはいうまでもない。
また,CMSを突き詰めていくと,印刷工程の標準化は避けて通れない。目視による主観評価から数値管理への転換と機械の保守点検や印刷環境の維持など,地道な日常管理が求められてくるだろう。

2000/08/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会