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デジタルコミュニケーションの新たな地平

広告販促ツールは,Webサイトや携帯電話などモバイルメディアの発達普及により,旧来の媒体へのマスコミュニケーションだけでは,不十分になってきている。柔軟性のあるマルチ加工・配信サービスが必要になっている。そのためには,われわれの生活そのものに関わってくるデジタル環境の変化に対応することが求められている。
今回は,このたび設立された(株)デジタルパレットの代表取締役渡辺竜介氏と取締役副社長の星名勧氏にデジタルコミュニケーションについてのお話を伺った。

電通グループと富士ゼロックスによるJV設立

(株)電通テック,(株)電通ドットコム,富士ゼロックス(株)の3社は,2001年4月2日付で,共同印刷(株),大日本印刷(株),凸版印刷(株)と共同出資による新会社「デジタルパレット」(本社・東京都中央区)を設立した。デジタルコミュニケーションコンテンツの統合管理サービスを提供することを目的としている。資本金は4億円で,出資比率は,電通テックが52.5%,電通ドットコムが20.0%で,富士ゼロックスが20.0%,印刷会社3社がそれぞれ2.5%となっている。
出資各社のもつノウハウを集結して活用していく方針である。デジタル広告の制作技術,ハード面でのシステムサポート協力,オンデマンド市場の拡大,印刷技術,顧客企業ネットワークの活用などにより,業務を推進していく。
コンテンツビジネスにおいて,印刷大手の3社が同時に資本参加する例はほとんどないだろう。出資した印刷企業3社の新しいビジネス領域に対する今後の期待があるからだという。
社員数は20名程度だが,そのほかに外部の制作会社と業務委託契約を結び,今のところ合計57名が常駐している。初年度売上高は15億円を見込み,3年後には電通グループ以外からの受注も増やし,売上高40億円を目指すという。

クライアントのニーズの変化に対応

新会社設立の背景には,デジタルを核にした環境変化がコミュニケーション業界にも浸透してきていることが挙げられる。インターネット,モバイル,BSデジタル放送の開始などメディアの多様化が進んできた。それに伴うハード・ソフト両面のデジタル技術も進歩している。また,2001年は「ブロードバンド元年」ともいわれる。印刷に耐え得る画像の送稿・配信も可能になるだろう。
そのような状況において,当然のことながらクライアントのニーズも変化してきている。その流れは大きくは2つに分けられる。1つは,多様なメディアを使い,立体的で多面的なコミュニケーション活動を展開したい,というものである。またもう1つの流れは,より直接的に販売促進に結びつくマーケティングが望まれているということである。データベースマーケティングやCRM(Customer Relationship Management)の手法などを展開したいというニーズが増えてきている。
「当社は,こういったニーズに応え得る実行部隊としての制作会社であり,単純にホームページの制作会社ではない」という。

相反するマーケティングが同時に可能

同社の具体的な事業内容は,(1)印刷物,出版物,ホームページ,映像ソフトなどの制作管理および加工,配信,(2)コンピュータのソフトウエアおよび通信ネットワークシステムに関する企画,開発,(3)デジタルコンテンツの制作に関わるオンラインサポート,(4)広告代理業,各種マーケティング業務および経営一般に関するコンサルティングを行うことである。
もう少し詳しくいうとコンテンツをメディア別,顧客別に制作加工して,それぞれカスタマイズ配信,オンデマンド印刷のサービスを提供する。加えてWebサイトのコンテンツや販売促進用印刷物の制作からPDFによるデータ配信まで,インタラクティブメディアのコンテンツと印刷物とをトータルに連動させ,クライアントのワンtoワンマーケティングやCRMの活動を実践的にサポートするサービスを提供していくのである。
今後はマスとも連携していきながら,新しいマーケティングにトライしていく。相反するマーケティングを同時に行うことが,e-ビジネスの世界で可能になるという。

「e-Marketplace」を構築

さらに中期的な事業計画として,インターネット上でデジタルコンテンツ管理を行う「e-Marketplace」を構築し,運営していくことも明らかにした。デジタルコミュニケーションコンテンツ制作に必要なサービスの中継機能をもつハブ・コミュニティサイトを構築していきたいという。
渡辺氏は1997年から1999年までアメリカに滞在しており,e-ビジネスの研究と調査を重ねてきた。その結果「日本にはいまだ本格的なECサイトがないことがわかった」という。もちろん印刷関連のECサイトもいくつか出揃ってきている。ただ,一般的にどうしてもECに対する誤解がある。初期のECにはオークションサイトが多かったため,そのイメージが強いのだろう。いまやアメリカではオークションサイトは成立しないとまでいわれている。ダンピングに拍車がかかり,値段の叩き合いがe-ビジネスを低迷させることになりかねない。また印刷の場合は,納期と金額だけでない,クオリティの問題がある。紙の質感も触ってみないとわからない。オークション自体が悪いとはいえないが,適正なルール化や標準化がなされていないことが問題であろう。そのほかECといえば,オンライン受発注システムやeカタログを指すというイメージが,何となく浸透している。
本来のECサイトは,ワークフローのオンライン化をサポートしていくことを目的にしていくべきだという。「インフラを作ればおしまいというわけではなくて,ニーズベースであることを忘れてはいけない」と語った。e-Marketplaceとは結果であって,仕組みそのものではない。自動化するためにはITを活用し,業務の効率化を図る。そのノウハウの蓄積がいつかMarketplaceに育っていくという考え方である。
最初に仕組みありきで,利用者の使用目的やメリットが明確に提示されなければ誰も使わなくなるだろう。そこが通常いわれているe-Marketplaceと同社の場合の違いだという。同社の考えるe-Marketplaceでは,(1)クライアントや広告会社と印刷・デザイン・企画などの関連会社,スペシャリストなどを理想的に結びつけるジョブマッチングサービス,(2)制作の進行管理とコンテンツの品質管理とをトータルに行うオンラインワークフローサポート,(3)デジタルコンテンツのデータ管理サービス,(4)広告やデジタルコンテンツ関連の業界団体・教育機関・企業の情報提供を行う。電話やFAX,MOやバイク便を使っている部分が,e-Marketplace上で実現すれば,理論上は広告制作物をネット上で完結させることができるはずである。
「デジタルワークフローの先鞭を付け,業界に貢献していきたい」と抱負を語ってくれた。(上野寿)

JAGATinfo 2001年5月号より

2001/05/30 00:00:00


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