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データ管理がコンテンツ活用の基本

凸版印刷(株)  多田 耕司

 2000年末にはBSデジタル放送が始まり,2003年からは地上波デジタル放送が開始される。こうなるとこれまでは常識だったデジタルコンテンツのあり方も,また様変わりするだろう。
 過日,あるコンピュータグラフィックス展で行われたセミナーで,NHKのキャスターの方が『TVML』なる「番組記述言語」で制作した『バーチャルTV番組』(正確にはTVMLを紹介するプロモーションムービー)を紹介されていた。何でも誰もが簡単にTV番組を作れるツールだそうで,音声やスーパーなども絶妙なタイミングで挿入することができる。『TVML』は既に特別なクリエイター向けだけではなく,ライト版ならばフリーウェアとしてWebサイトから誰もが無償でダウンロードし,使用することが可能である。

 印刷物を含むデジタルコンテンツも様変わりしていくことだろう。すべてのワークフローを統括しようというJDFなどは,非常に興味深いものがある。 先程の『TVML』やJDFはXMLベースである。今後はXMLについても理解を深めることはどうやら必須項目のひとつとなるかも知れない。しかしながら,こうした技術やアイディアに代表されるような,未知であるものについても翻弄されることなく,何を目指して制作するのか,伝えたいことは何であるか,実現させるために必要な要素とポイントとなる管理や運用フローについてを考えていけば,立ちはだかる問題は相当に減ってしまうだろう。こうした考え方は,Adobe InDesignのような製品をみても明確なように,コンテンツ制作者も身につける段階に入っている。良いデザインとコンテンツはトラブルを防ぐ技術とのバランス感覚によって生み出されるものといわれるようになってくるだろう。

 ここで,一つの例として(株)デジタル パブリッシング サービス(以下DPS)のデジタルコンテンツビジネスが,どう展開されているかを見てみよう。 DPSは,出版流通を扱う(株)トーハンと凸版印刷(株)が合弁で設立したオンデマンド出版やデジタルコンテンツの管理・運用などを行っている企業である。  DPSでは,オンデマンド書籍などの企画・製造・販売やデジタルデータの蓄積・管理・運用を行っている。また,注文情報のデータベース,出版者から供給される各種コンテンツ,デジタルコンテンツ配信に向けたマルチデータベースを扱うが,注文情報のデータベースは(株)トーハンの物流システムと,コンテンツデータベースは,凸版印刷(株)とそれぞれ連携されている。

  エンドユーザーである読者は,まずWeb上で公開されている出版物の情報についてを閲覧・入手することと,欲する出版物の問い合わせや注文を,出版社や特約書店に対し発信することが可能になっている。こうした問い合わせや注文を,出版社や特約書店で受けたのち,処理され正式に発注となったものについてはDPSに依頼される。これを受けてDPSでは,オンデマンド書籍の製造を開始する。実際にオンデマンド印刷・製本を凸版印刷で行い,出来上がった製品は,(株)トーハンの物流システムから特約書店に納品,代金回収がおこなわれる。また,直接ユーザーである読者へ宅配便を通して納入することも行われている。

 読者からのニーズに応えるものとしては,
1. オンデマンド印刷によって実現できる,絶版や在庫切れなどで入手困難となった本の提供
2. これまで困難とされた小ロット印刷(ショートラン印刷)による重版の実現
3. コンテンツのデジタル化
4. 出版コンテンツを紙媒体,CD-ROMなどのパッケージ媒体,ネットワーク配信で提供できる
5. e-Commerce(電子商取引)をもちいたオンタイムな検索・発注システムによるサービス
6. 複数のデリバリー形態の提供
7. 自費出版等の受託
などが挙げられる。

 また,パートナーである出版社や特約書店に対しては,オンデマンド出版を生かした休眠コンテンツの活用や自費出版,限定出版市場参入など新しいマーケットの開発や在庫・返品リスクからの回避をはじめ,オリジナル商品の販売など出版物の販売に対するさまざまなバックアップサービスなどを提供できるとしている。

 さて,このようなユーザーを意識したサービスとしては,出版分野だけではなく通販業者や百貨店,量販店などの流通業,旅行代理店や自動車ディーラーなどが発行するカタログやDMなども含まれてくる。このような分野でも同様のサービスが展開されている。それぞれに構築された顧客データベースを活用して,多岐に及ぶ小ロット印刷やオンデマンド印刷によって,一部単位でも内容を差し変えることを目的としたバリアブル印刷などはもちろんのこと,これらの形態に充分な対応ができるように製本,梱包,発送についてもデータベースを用いたシステムが登場している。これらはともすれば複雑化する工程の合理化とコスト軽減,迅速な納入を実現することでクイックレスポンスに対応した販促効率の向上などを可能なものとしている。

(多田耕司著「印刷データ管理のAtoZ/JAGAT発行」より抜粋)

2000/08/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会