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大きく動き始めたeBook

SEYBOLD SF 2000 報告2

10年ほど前にCD-ROMが登場して、百科事典がその中に収まってしまうと言われた時は、出版界にとっても衝撃であって、その後1990年代の前半はCD-ROMの電子出版というのが頻繁に議論されたし、期待もされてさまざまな取組みがあった。そして今、どのパソコンにもCD-ROMくらい付くようになって、電子出版は広まったのであろうか? 確かに紙の百科事典は姿を潜めるようになったが、その他の書籍雑誌は殆ど影響を受けていないように見える。このことがeBookを考えるに際しても気にかかることである。

1999年のSeyboldSFでeBookに火がついたのは、それまでは専用装置を使って見るスタイルが主で、限られた分野であったのが、MicrosoftのReaderの登場で何億というPCが電子出版の対象になったからである。さらに2000年3月だったかにスティブン・キング氏の Riding the Bullet という短編小説がインターネットでダウンロードできるようになり、最初の2日で40万部出るという反響の凄さで、一挙にアメリカの出版社がやる気になった。Amazon.comだけでも無料だが50万のダウンロードがあったという。

この熱気を引き継いでSeyboldSFは開かれた。WEB会議のキーノートスピーチでは昨年と同じくMicrosoftのDickBrassが本の過去から未来までをビデオで見せて、紙が無くなるまでのシナリオを説明した。今年はそんな未来話しや技術的なことよりも、出版社が不安がるコンテンツの無断複製配布(海賊行為=パイラシ)についてどうなだめすかすかが中心で、この間問題になっているMP3音楽ファイル交換のNapsterのようにeBookがならないために、DRM(DigitalRightManagement)を強調していた。

Mocrosoftは厳格なコピー防止技術は意味がないという立場で、海賊対策でeBookを複雑にしないつもりなので、少し話しの歯切れは悪い。作家側の保護を主張しながらも、コンテンツのコピーは泥棒であることを啓蒙するという結論になる。Readerの仕組みとしては、リードオンリーというレベル、次に所有者の名前が入るレベル、その上にオーナーしか閲覧できないレベルのどれかを設定できるようになっている。この暗号技術以上のものを組みこんでも、破る人は破るし、だいたい本はもともとOCRとかタイピングしてしまえばコピーできるものなんだと説明した。まあこんな説明でも何十の出版社とPocketPC向けeBookの約束をとりつけられたのだから、現実的な考え方なのかもしれない。

あまり起伏のないプレゼンであったが、最後にStephen Ambrose 著のeBookを、Dick Brass のPocketPCに入れて著者サインをもらったものを示し、これがe-Authorがe-signをした最初の例であるといった。

Microsoft vs Adobeの対決図式

MicrosoftはWindows用Readerを無料で配布し、そこにはClearTypeが含まれる。将来はOSに組みこむ。出版社の違いを超えて同じように使えるようにする狙いだが、Windows以外は??である。AdobeはアプリケーションとしてAcrobatReaderを各OS用に無料で配り、CoolTypeもアプリケーションでありさまざまなOSで使える。ClearTypeはOpenTypeが対象であるが、CoolTypeは今のTrueTypeやType1も使えるという。

MS-ReaderはOpen-eBook(OeB)仕様で機能が非常に限られるが、XMLを使った編集環境に対応しやすい。Adobeの方はPDFでありどんな内容も盛りこめるが、XMLが弱いのでiUniverse社と提携し、また本のReaderとしての機能強化のためにeBookの先駆者のひとつGrassBook社を買収した。テキストの読み上げや、2ページ表示、回転表示などができるようになる。

MicrosoftはAmazon.com用のReaderを作ってオンラインのeBookStoreで配布してもらう提携をした。今大躍進中のPalmを巡っても両社の違いがある。AdobeはPalmOS用のPDFのReaderを発表した。MicrosoftはPalm対抗のPocketPCを出して、そこでReaderのデモをしている。
しかしこういったことが本当に対決なのか、それとも別の狙いの努力なのかわからない。だいたいeBooksとは何ぞやと考えると、個々の会社の狙いはかなり異なるのが現状である。そもそも本屋にある本を定義しようと思っても難しい。どうもアメリカでは大まかには、カラーで高価な本と、マス向けのペーパーバック、教科書、小説などの4つに分けているようである。

MS-ReaderはPDFなどと違って、1段組で字ばっかりの紙面の印象であるが、操作はシンプルで迷わない。テキストデータを流し込めば瞬時にできあがる。100ページ以上読むに耐えると言う。これからもっとデバイスがよくなれば紙とかわらなくなるという。
一方Acrobatはすでに1億6000万ダウンロードされて、もうスタンダードだとAdobeはいうが、ボタンがいっぱいあって使ったことのない人にとってeBookとしては複雑であるとの意見もある。
どうも一つのeBook標準を考えることは意味がなく、複製問題も含めて普及の条件の整った分野から、それぞれの分野にあった標準が順番に出てくるのかもしれない。

DRMという大きなハードル

8月28日は引き続いてeBookDayというのがあって、これも全体としては流通やDRM問題に終始した。まずオープニングはSeyboldの Mark Walter が、Seyboldが7月に過去の参加者や出版業界の人にeBookについてサーベイした結果を発表した。ここでのeBookとは紙の本を電子版にしたものという定義である。

ひょっとすると数字に聞き違いがあるかもしれないが、15%が読んだことがあり、33%ほどがこれから1年以内に買いそうで、買わないだろうが40%いた。見たことのある人の方が肯定的であるが、見たことがなくても、読みたいものなら画面でも読むというのが53%あった。
今後5年のうちにeBookがポピュラーになるというのは29%であった。デバイスについては、51%はReader専用機よりもPC関連汎用マシンで読むようになるといった。専用機は仕事用で、小説用ではない。PDAは地図・旅行関係用というのが40%で、eBook用の28%を大きく上回り、内容によってデバイスは変わりそうな様子だった。
今後20年間で紙から電子の本に変わってしまうというのに同意したのは10%で、64%が否定した。業界人が多く、保守的な印象もあるが、全体として良い兆候があるというもので、5年経てばかなり変わるとみられている。

続いてアメリカの標準化組織であるNISTがeBook/OeBに熱心なので、そこのVictor Mcraryがモデレータで、この2000年がeBookの大きな節目であるという話しをした。eBookは物理的な製造費や管理費が不要なため、紙の本の半額で販売できて、著者のロイヤリティも大きいという。あと、最近eBookに力を入れている出版社のSimon&Schusterがコストや販売のことを、流通のBarnes&Noble社がビジネスモデル全般の話しをした。

ネットビジネスは流通革命でもあるので、さまざまなビジネスモデルが登場しているのだが、超流通の話しまで出てきたのは驚いた。やはりNapster問題は誰でも大きな関心のようで、他のセッションでも従来のセンタから分散させる配布ではなく、peer to peer が無視できないという論調になってきているように思える。まあB+Nの話しは、どんどんeBookをやれ、という結論であった。

午後の標準化のセッションはDRMが中心で、Xeroxから独立したContentGuardなどいくつものDRMはあるものの、利用者にとってはeBookを買うたびに異なるDRMに付合わされるのは煩雑なので、異なるDRMでも運用上の互換性をとるためのEBX話しが話題の中心であった。出版社の団体でもあるAAPも調査会社とともに、出版管理からDRM、市場開発まで含めてeBook戦略を練っている。OeBそのものについては大した話しはなかったが、一緒に参加していたイーストの下川氏によると、OeBは機能が少なく、もうbehindであるとのことだった。

その後、実際にeBookに携わっている人々の話しがあったが、長くなるので割愛する。まだほんのわずかの経験しかない段階なので誤解を招くといけないということもある。肝心のDRMだが、モデレータのMark Walterは、暗号と鍵による権利管理というよりも、マーケティングツールとして見る必要性を説いた。つまり、暗号化し、利用者に配達し、どのような使い方をするか追跡し、権利に関する秩序を打ち立てるものであるという。

また買った人は、そのコンテンツをWindowsで見るだけでなく、出先ではPalmで見たいとか、他のOSやデバイスでも見たくなるだろうから、デバイス間の移し変えができるDRMが必要であるともいった。まだDRMに関してはすべてがこれからという気がする。先行する専用機のNuvoMediaとSoftBookのライバル同士両方がGemstarに吸収されて強化されているが、DRMはこれからである。こういったことも、もっとeBookの流通量が増えないと熟成しないだろう。書籍のオンライン販売自体が、98年には全体流通量の0.4%であったのが、1999年は5.4%にまで10倍以上の成長をし、オンライン販売の比率の高い出版社ほどeBookにも力が入るようだ。NISTはeBookは1年で20倍くらいになる話しをしたが、それ以上か以下か、半年先も読めないのが実情である。

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2000/09/09 00:00:00


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