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技術が利益を生むようにする

Bill Davison (PointBalance, Principal)

PAGE2000基調講演 「ネット上のグラフィックサービス」より その2

ある時点で新しい技術が登場し,新しいツールが出てきた時はどう使ってよいか戸惑う。それは最初は投資に対する回収効果は低いのが普通だからだ.システムの能力は,使う人のスキルで決まってしまう.このテクノロジーの経済効果は投資にしたがって上昇するが,そのうち経済効果が頭打ちになり,それ以上投資しても生産性の向上はもう期待できなくなる.これはどんな技術でも同じである.

1985年から1995年にかけてデジタル技術は画期的な伸びを見せたが,90年代後半になって横ばいとなった.そして,現状はネットワークコンピュータが注目されている.
コンピュータをグラフィックアーツに導入した時代は,自動化はあまり進んでいなかったので,コンピュータ化は従来からあるタスクに対して行われた.つまり,色分解がカメラでもアナログカラースキャナでもコンピュータになっても,タスク自体は変わらなかった. それが,よりインテリジェント化するという変化が起こる.自動化によって,そのタスクの技術は将来的にはもっと利益を生むように変わる.つまり利益を生むような形でこの技術を利用するということは,今までとまったく違った概念である.

現在アメリカにおいて企業の上位20パーセントは,他の残り80パーセント社に比べて5倍の利益を上げている.これは1人あたりの収益性を比較したものだが,ギャップが非常に大きく,さらにその格差は広がりつつあるのが現実だ.上位20社が5倍の収益を上げる背景には「ベストプラクティス」がある.機動力を得て収益をさらに上げるための条件として次の7つが挙げられる.

成功の条件 7+2

第1は,ネットワークがほとんどすべての分野におよんで使われていることである.例えばネットワークのプロダクション環境について,フェイス to フェイスのビジネスが全くなくなり,すべての業務を完全にネットワーク化して行うことを考えてみよう.しかし,これがビジネスとして良いといっているわけでも,これが将来像だといっているわけでもない.ただ,現在の概念をもう一度問い直して,全面的なネットワーク化のためには何が必要かを考えてみることである.

第2は,インターネット,エクストラネット,イントラネットいずれでもかまわないが,ネットワークの上で仕事がすべて関連をもって働いていることである.

第3は,インタラクティブなサービスである.顧客にインターネットを通じてリアルタイムの情報を提供し,顧客からもリアルタイムで情報が戻ってくるのがインタラクティブである.すると,顧客から要求されるものとしては,パートナーシップに近いものとなる.一点ごとではなくビジネスの手続きを標準化することが求められる.

第4は,利益を上げるためにコンテンツに付加価値をつけることである.コンテンツは1つのメディアに対応するものではなくなり,オフセット印刷やバリアブルプリント,CD-ROMの制作,Web上に展開していく可能性が広がる.

第5は,情報の管理は,モノを作るための副次プロセスではなく,第1のプロセスになることである.コアビジネスは,印刷プロセスやプリプレスではなく情報管理になってくる.人々は,基本的には情報をどのように使うかということを考えていくことだ.現在のプロセスをベースに,それをどのような形で動かして,あるいは情報を付加していくかではない.情報を作り,そしてそれをいかに管理していくかという新しい視野が必要になる.

第6は,分散ネットワークが必要になってくる.組織はコンピュータで管理されるが,これは他の組織ともコンピュータで管理され,非常に緊密に関連してくる.そうなると,このネットワークのコアの部分がサーバとなる.つまりサーバが組織のコアとして機能するようになる.これはアーキテクチャーにおいても,フレームワークにおいても同じである.

第7番は,より高度な業界標準の開発が非常に重要な要素となる.これがあれば,システムの開発もより容易にできるようになる.このような業界標準がなければ,仕事のシナリオもうまくいかない.

さらにこのベストプラクティス7項目に2つ追加したい.今後2〜3年のうちにもっと一般的になると思うが,世界的にも優良な印刷会社は,知的所有権に関するトライアルに熱心に取り組んでいる.その知的所有権の処理のために何をしたらよいか.例えば出版業者で完全デジタルのワークフローがあったとすると,デジタル情報を使う許可/認可だけを仕事にする部門を独立させてもつことも必要になる.知的所有権の処理に対する本格的な対応が求められるからだ.これがデジタルプロダクションの1つの現実的な側面だ.

もう1つ追加したい項目は,会計の変化である.従来の機械をベースにした固定資産的なアプローチから別の資産運用に推移しつつある.資産に付加価値をつけるためにデジタルアセットへの変換が求められるし,そのような評価方法が必ず出てくる.例えば出版印刷業界ではおそらく5年以内に,情報の価値は機械や固定資産よりも上回るだろう.コンテンツに1000万ドル投資したとしても,知的所有権を通して,より多くの価値が得られるというのが将来の姿だ.出版印刷業者が現在持っている情報は,おそらく資産の20〜30%とか,50%など,ケースによって異なるだろう.ただ,その使い方が問題で,そこから利益を引き出すアプローチが大事になる.

その3 「デジタルアセットから、eナレッジへ」 に続く

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PAGE2000

2000/09/11 00:00:00


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