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Seybold参加者はDTPからどこに向かうのか

SEYBOLD SF 2000 報告6

SeyboldSF2000は、母体がSOFTBANK/ZiffDavisからKey3mediaに変わって最初の会議/展示会であったが、成功したといえる。基本的にここ2年ほどはセッション構成は同じで、テーマの変化は昨年のeBookくらいしか新しいものはない。人が増えている理由は、従来の紙の出版をしていた人がどんどんWEBに関わるようになったからである。そしてストリーミング系などを身近な課題に思うほどになった。このことは展示にも影響を与えていて、動画編集などは人だかりである。かつてのSeyboldにおけるDTPの熱気の延長上にあるものは、XMLとかECではなく、むしろMacromediaやAppleのiMovieの方が近いかもしれない。

SeyboldSF2000の参加者の関心をアンケートしたもので、ここ1年で重要視するものはという問いに対して、トップがDRM(デジタル権利管理)やStreamingMediaで35%、eBookは25%であった。しかしセッションではeBookが派手に扱われている割には、ストリーミング系のテーマは少ない。これはストリーミング系のものはアプリケーションをどう使いこなすかという結局職人的な作業になってしまい、会議にはならないからであろう。つまりマルチメディアの部品作りという力技の世界は、与えられた道具を使っているだけで、技術的には創造的な面が少ない。

eBookに対する関心は根底では深いのだが、これは長期戦とみているのか、すぐに行動しようという感じではない。最も関心が高いのはワイヤレスの41%であり、いろいろなセッションでも日本におけるiモードがよく引き合いにだされる。アメリカのモバイルはまだ猫も杓子もというほどでもないので、日本の普及台数に圧倒されているようだ。しかしインターネットがモバイルになった時にどのようなことが起こるか、どのような問題に気をつけなければならないか、などについては日本は無関心であるのと対照に、アメリカの方が議論が進んでいるようにも思える。

最も往年のSeyboldらしいセッションは、オープンの前日の夜に行われた Trusted Agents というテーマで、キーワードはCredibilityであった。メディアビジネスには優れた分析力のあるMark Anderson がモデレータで、WEBのもつ不透明性の問題をとりあげた。ECが伸びると盛んにいわれているが、ECサイトがうそつきである例証は次々にでてきているので、OneToOneで儲ける皮算用よりも、顧客に信頼されるようになることを考えることが大事だという。最近のWEBサイトにはプライバシポリシが掲げられていることがあるが、そのサイトの運営者は何物であるのかとか、居場所をはっきりさせるとか、そのサイトが顧客を守るという姿勢をポリシーで示さなければならない。

またそのポリシーの変更も通知しなければならない。WEBはカオスだからとか、バーチャルだからといって、怪しい雰囲気を許していては成長しないので、自ら情報公開していく。特にこれから携帯などが盛んに使われるようになって、その人の位置もトレースして、行動をモニタすることもできるようになる。誰がいつどこで何を買ったかなどは販売側が把握してはダメで、それらの処理は中立の第3者(例えば銀行など)に任せるべきであるといい、今のOneToOneに冷や水をかけるようなセッションであった。

このセッションは日取りが悪いにも関わらず200人以上は集まっていたように思う。その一方で、QuarkXPress vs Adobe InDesign のセッションは昼の時間帯なのに、その半分ほどしか集まっていなかった。このテーマは語り尽くされたからだろうか、DTPの中心的な話題なのに不思議な気がした。ヨーロッパでもDTPの6〜7割ほどはXPress3.nのままで、ここ数年でコンピュータの環境が変わってきていることとのギャップがある。両社の比較は結構立派なレポートも出ており、ここでは触れないが、興味深い点としてつぎのような指摘があった。XPressは現場の保守性に守られてシェアを保っているが、ITマネージャはInDesignでやり直したい。大手の出版社では水面下でInDesignのプロジェクトは動いている。AdobeはWEBツールに傾倒しているが、QuarkはXPressの次にどこに向かうか見えない。

結局Adobeが大きいユーザを一つ一つInDesign側に落としていかなければ進まないように思えた。Adobeにそれだけの粘りが残っているかどうかの問題である。AdobeはPDFを企業情報の標準にしようとしてFrameMakerやDataLogicを買収したが、企業文書システムの側からPDFを普及させることは失敗に終わり、ネット配布中心となった。今度のInDesignも出版社ニッチで進めていこうとすると、InCopyに続いてInScopeというワークフローツールを出さざるを得なくなったように、またQuarkがQPS、QDMS、avenue.quarkと出版ニーズを追い駆けているように、どんどん深みにはまっていくだろう。これをAdobeの株主がどう評価するかに興味が持たれる。

ここ何年間かのコンピュータ環境の激変が、ベンダーもユーザもDTPに留まっているわけにはいかないようにしてしまったのだろう。

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2000/09/19 00:00:00


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