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XMLを顧客獲得の切り札に

XMLをベースにしたインターネットビジネスが注目されている。そのオープン性とインターネットとの相性の良さは,文書管理やBtoBのためのソリューションに適しているといわれている。
今回は,XMLを活用して,電子データの加工,処理,翻訳からeコマースにも取り組んでいる(株)アイ・ビー・エスの代表取締役桜井恵三氏に同社の姿勢を伺った。

ドキュメントビジネスとの出会い

 アイ・ビー・エス(東京・八王子市)は,1983年9月に翻訳を行う会社として設立された。当時から経理システムにはパソコンを使用していた。それにプリンタをつければ,英文のワープロ機能が備わる。「そこからパソコンに目覚めた」という。それまで翻訳者が原稿用紙に手書きで行っていたものを翻訳者本人が直接入力するようにした。パソコンベースによる人間の手ではスピードにも限界があるため,翻訳ソフトを導入して作業の機械化を図った。翻訳量が増えるに従って外部スタッフもパソコン使用者が増え,やがてパソコン通信でのやりとりが当たり前になった。またパソコン間通信では通信専用のホストマシンを導入した。
 しかし,バブルの崩壊とともに仕事量は減るし,安価な翻訳ソフトも登場して,「われわれの特殊性がなくなってきた」という。何かしら差別化を図るべきだと思っていた。
 そんな時期,ドキュメントビジネスに出会った。翻訳ソフトを使う際は,英語や日本語のテキスト化をする必要がある。もちろんテキスト化自体が目的ではなく,翻訳に付随する作業である。だが,次第にOCRだけを依頼される仕事が増えてきた。最初の頃は,翻訳会社にOCRだけ頼むなんて,という気持ちもあったそうである。しかし,需要が見込めることもあり,それなら思い切って,テキスト化作業の部分に力を入れてみようと思った。翻訳業務を介さないデジタルドキュメントのビジネスはこうして始まった。それが意外と順調に軌道に乗ったという経緯がある。現在では会社売り上げの15%が翻訳業務で,あとはドキュメントに関するものである。
 1996年の4月から電子出版部を創設して,本格的に印刷文書の電子化を開始した。金融関連会社や保険会社の規定集などを印刷文書からOCRで文字認識をしてテキスト化,それをWordで編集し,印字したものを版下代わりにした。また他にも行政関連で大量文書のOCRとSGML化にも実績を残した。
 数年前にXMLが出てきたときに,もしかしたらドキュメントデータ,印刷,翻訳をも包括的に変えるものではないか,と思った。そして今年3月から本格的にXMLの調査研究を始めた。

XMLの柔軟性に魅力

 同社は,それまではSGMLに多くの実績があった。だが,SGMLはネットワークの対応ができていない。HTMLでは,階層構造を示すことができず,BtoBなど今後のインターネット利用を考えた場合には,機能不足であるという。その点XMLは柔軟性に優れていて,魅力を感じたという。 XML文書はプレーンテキスト,つまり文の構成要素へ用途に応じてタグを適用する。タグのスタイルを設定してスタイルシートを作成することにより,自動組版や自動索引など自動化が図れる。
 一番理想的なスタイルは,XMLでデータを作ったらそれをそのまま印刷物にすることである。しかし,かんじんの印刷の部分が避けて通れない。そこがまだネックになっている。だからスタイルシート記述のためのXSL(eXtensible Stylesheet Language)やソフトの研究に余念がない。
 スタイルシートでそのまま印刷できるようになれば,印刷と同時進行でWebサイトにもっていくことができる。今までと変わらないコストで,印刷のみならずWeb,CD-ROMに展開していきたいと抱負を語る。
 現状では印刷が先でそのあとXML化している。最初の段階でXMLにしていかないとコスト面でも効果が得られない。そこが今後の課題だという。XMLは大量になればなるほど活用範囲が広がる。フォーマッタやスタイルシートを用意しておけば時間も費用面でもコストが削減できる。

電子本出版への参入

 また同社では,将来のインターネットのコンテンツビジネスを見越して,既に3年前から(株)イーブック・シーオー・ジェイピーを設立し,eBookビジネスにも参入している。 電子本を作りやすく,売りやすい環境作りを設定し,インターネットによる電子本販売・低コストの電子自費出版サービス,電子本普及のための各種サービスを提供している。
 アイ・ビー・エスをコンテンツ作成の会社と位置付け,イーブック・シーオー・ジェイピーはコンテンツの配信を目的としている。
 現況では,著者没後50年を経過した著作権切れの文芸作品電子本を配信することが多い。今後は出版社側の協力のもと,著作権問題をクリアして有名作家の作品も扱っていく予定であるという。また印刷本として絶版となったものは電子化し,電子本として恒久的に保存していきたい意向もある。
 作品はシンプルテキストまたはHTMLで作成しているが,今後はXMLへの対応も検討している。 MicrosoftReaderの日本語版など気になる情報もある。本の電子化に影響を与えるだろうし,出版のあり方そのものも変わってくるかもしれない。こちらもより充実させていく予定である。

印刷会社との提携で体制強化を

 当面の課題はどうやったらスタイルシートの作成が早くできるか,どうやって覚えるか,という教育の問題である。同社では,コンピュータの好きな若い人がいて勉強がてらに実践しているが,もっと広がることを期待したい。
「新しいグループの人たち,つまりC++など従来の言語にとらわれない人たちが中心となって活躍していけば,XMLはもっと身近になるでしょう」と語る。
 また印刷会社と提携していきたいとも思っている。印刷会社がXMLに本格的に取り組もうと思えば,自分たちの印刷のビジネスを基盤にしながら他の媒体にも使える強みがあるという。
 「XMLが面白いのは,結局印刷するにしてもWebサイトにもっていくにしても,データベース上のデータを作っていくことです。蓄積していくことで,いわばナレッジマネジメントのようなスタイルになります。印刷の経験を踏めば踏むほどお客様への提案ができることです」。
 これからは各企業がドキュメントの管理をアウトソーシングしていくのではないか,と桜井氏は考えている。ドキュメントマネジメントを任されれば,会社全体の一番重要な情報を握ることになるし,さまざまな提案もできる。XMLというのは顧客の懐に飛び込む有効なツールになる。大いなる可能性を感じているゆえんである。(上野寿)

『JAGAT info』2000年10月号より

2000/10/14 00:00:00


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