本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

デジタルコンテンツの不正利用対策と管理

凸版印刷株式会社 法務部 小関知彦

一般的な印刷物の制作・製造における責任

 紙媒体への印刷を行った場合,印刷会社の責任は通常,得意先の指定どおりに印刷がなされているか,という部分に絞り込まれている。むろん,企画・制作を印刷会社が行っている場合には,そこでの著作権処理などについても責任を負うことになるが,得意先の原稿を印刷している場合には,いかに元原稿に忠実に印刷がなされているか,という部分に最大限の注意が払われていたわけである。
 不正利用とは話が多少それてしまうが,印刷されたものの内容についても,印刷会社は通常,責任を負うものではない。その内容については,もっぱら発注者である出版社などが責任をもち,印刷会社の関与するところではなかった。印刷内容について,印刷会社の責任が問われた例としては,ピンクチラシを刷った印刷会社が売春防止法違反の幇助罪に問われたことがある(昭和63年4月18日東京地裁判決)。しかし,一般の印刷物の場合は,その内容については印刷会社としてはチェック機能をもたず,また,印刷会社が判断していいものではなかったのである。
 それでは,世の中に印刷物が配布された後に生じた,その不正利用に関してはどうか。印刷メディアにおいて,不正利用に一番神経質であるのは,証券関係の印刷である。証券関係の印刷においては,不正な複製を防ぐために,さまざまな偽造防止技術が駆使されてきた。
 しかし,そのようなものを除き,ほとんどの印刷物には,偽造防止技術は用いられていないし,また,それにより大きな問題が生じることもなかった。網点で構成される印刷物の場合,複製によって画質が相当に劣化するというメディア上の特性もあるであろう。また,万一不正利用されたとしても,それは,やはり印刷会社の関与するところではなく,得意先が,当該不正利用者に対してクレームをつけていたわけである。

デジタルコンテンツの制作・配信における責任

 しかし,デジタルメディアの場合には,多少様相が異なってくる。それは,複製によって劣化しないというデジタルコンテンツの特性によるところが大きい。例えば,グラビアのデジタルコンテンツなどでも,全く劣化することなく不正複製をすることが可能であり,それをインターネット上に再アップロードされたような場合には,その画像配信によりビジネスを行っている者にとって,大きな脅威となる。
 従って,当該デジタルコンテンツを発行する得意先としては,当該不正利用行為を止めたいわけであるし,また,そのような不正利用ができないような仕組みにしたいと当然,考えるわけである。

 しかし,印刷会社がその提供の仕組み自体を構築している場合,すなわち,印刷会社の構築したインターネット上の情報提供サービス上に得意先のホームページが掲載され,そこからデジタルコンテンツの発信が行われるといった場合,不正利用に対する技術的保護手段は,印刷会社の構築する仕組みに頼ることになる。そのようなビジネスを行う場合,印刷会社としても,得意先がデジタルコンテンツを安心して預けられるような仕組みを考える必要が出てくる。また,不正利用が発生した場合,1次対応を行うなどの必要が出てくるわけである。

 また,プロバイダとしてデジタルコンテンツを配信するような場合,その内容について責任が生じる可能性もある。プロバイダに一定の責任を認めた事例として有名なものに,ニフティサーブ事件がある。ニフティサーブが提供していたパソコン通信上のフォーラムにおける名誉毀損の事例である。被害者からの申し立てがあったにもかかわらず,直ちに当該情報を削除しなかった当該フォーラムのシステムオペレータとニフティサーブ社に,一定の責任を認めたものである(平成9年5月26日東京地裁判決)。

 従来,印刷会社は,ほとんどの場合,情報を発信する主体にはなり得なかった。しかし,インターネットの世界では,容易にそれに近いポジションに立つことになる。従来の印刷メディアのビジネスとは,違った常識が必要となってくるのである。

月刊プリンターズサークル 2000年10月号より

2000/10/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会