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書籍組版の考え方

4月のT&Gミーティングは「組版処理はどれだけ進化したか?」というテーマでEDICOLOR 5.0とInDesign 1.0の組版機能をとりあげた。
日本エディタースクールの小林敏氏にテキストと組方を指定していただき,それぞれのソフトで実際に組んでもらって評価するというかたちをとったが,本稿では小林氏の考える書籍組版に必要な処理のポイントをまとめてみた。

小林氏は現在,出版教育関連のカリキュラムや教材の開発,単行本の編集・執筆をなさっている。いつもDTPを行っているわけではないが,QuarkXPress 3.3Jを使って単行本の組版も行なっている。その場合はあらかじめXPressタグを挿入してQuarkXPressでの作業時間が少なくなるようにしている。データベースソフトを使うこともあるが,その場合も先にXPressタグを挿入して,できるだけ自動処理を行なうようにしている。というわけで,小林氏のコメントは,あくまでも氏ご自身の方法で書籍の原稿整理や原稿指定を担当する立場からの意見であることをお断りしておく。

書籍の組版とDTP

いま実際に出版社などで使用されているDTPソフトのほとんどは,広告や雑誌,書籍などあらゆる用途に使用できる万能型である。万能型DTPソフトの必要性は十分にあるが,私が行なっている書籍組版に限っては使い勝手が悪い点もある。万能型だけでなく各種用途に特化した専門型のソフトがあってもよいと思う。以下ではそのような書籍専用のDTPソフトで実現してほしい事項を挙げた。ソフトによってはすでに実現している機能もあるが,あくまで基本的かつ一般的な要望と考えていただきたい。

書籍組版のポイント

1. バッチ処理
書籍の体裁は組見本(テスト組)を作成して確認することが多い。原稿の内容だけでなく,版面,柱・ノンブルの位置や大きさ,約物の組方,見出し,図版・表などあらゆる項目について見本を作って点検し,それをもとに原稿指定を行う。もちろん実際に組んでから本文との関係を見たい場合もあるが,校正は校正で行なうから,その前にできるだけ問題が出ないような原稿指定をしておきたい。したがって,複雑な組方がなく定型的な組方が多い書籍であれば,なるべく指定通りに実現できるバッチ処理ができるとよいだろう。

2.行の維持
通常,和文組版の本文は正方形の和文文字をベタ組にしている。1行の字詰(行長)は使用文字の倍数で指定し,行送り方向の幅は使用する文字の大きさ,行間(または行送り)および行数で指定する。索引なども同様で,半端があれば版面の上下左右に平均にとるようにして版面を決める。版面の決定は紙の裏表で行がずれないこととも関連する。つまり,行は,本文でも索引でも特別な組方が出てこない限り,指定された文字の大きさと行間で組んで,できるだけ決められた行を維持するのが基本だと思う。そしてこの版面に沿って台紙を作る。
見出しや図版・表なども台紙を基準に配置するが,その際,行を維持するために配置スペースを行どりで指定する方法がある。「台紙上の何行を占める」と指定すれば他の部分への影響を防ぐことができる。ちなみに,図版・表などの場合はキャプションや周囲のアキも含めて考えなければならない。私がQuarkXPressで図版を組み込む場合は図形ボックスを二重にして,回り込み用のボックスを「本文の文字サイズ×整数」で指定している。
DTPソフトでも行どりができるものがあるが,以上のようなことをベースに,簡単に行数を指定すればその通り処理してくれるようになっていればありがたい。

3. ルビ,割注
行を維持するという考え方からすれば,各ページの先頭行のルビは版面よりはみ出して組むことになる。ただし,はみ出すのは行送り方向であって,字詰方向は行頭・行末ともに飛び出すのはおかしいだろう。圏点や注の合い印も同様である。割注の場合は,先頭行だけでなく末尾行でも行の幅よりはみ出した部分は版面より外に組む。上ツキや下ツキ,縦中横などが行の幅よりはみ出した場合も同様である。このような場合,DTPでは特別な工夫をしないと版面の外に組む処理ができないことがある。

4. 見出し 別行の見出しは本文の整数行で指定したいが,指定した行数のどこに配置できるかまで指定できればよい。同行見出しでは,見出しが1行の場合は同行見出しの下の本文を2行,見出しが2行の場合は同じく3行にすることがある。吊見出し,窓見出しなどと呼ばれているが,これが簡単に指定できる組版システムがあるがDTPソフトではどうだろうか。
見出しではさらにページ末処理がある。横組ではページ末にくる見出しは次ページに追い出すが,縦組では奇数ページ末では追い出し,偶数ページではそのままにすることが多い。ただし,ページ末に中見出しがあって次のページ冒頭に小見出しがくるようなときは追い出したりするが,このような組方の自動処理はむずかしいだろうか。

5. 約物 柱などでは読点や括弧類を体裁上の理由で詰める場合がある。DTPソフトでもカーニングなどによって処理できるが,二分スペース,マイナス二分スペース,四分スペース,マイナス四分スペースなどのスペースがあるとよいと思う。横組でアラビア数字と欧字の単位記号とのアキを四分を原則とするような場合の自動処理はなかなか難しいが,四分スペースがあれば処理も楽になるのではないか。

6. 図版・表 図版・表の数が少ないときは,原則だけ示して「対応する本文に合わせて適当な位置に入れる」という指定を行なっている。原則的には,縦組では「本文版面の天・小口寄り」と指定する場合が多いが,横組では図版・表の左右に本文を組み込まないことが多い。その場合は対応する本文のある段落の直後に図版・表を入れる。その結果,図版・表が版面からはみ出すときは,そのページの最下端に入れて本文を次ページに持っていくか,図版・表を次ページの最上端に組んで,空いた部分に次の段落の文章を持ってくる。
本文の文章に挿入や削除があれば図版・表は移動する。この場合も原則だけ示しておいて,あとは本文とのリンクによって自動処理できるとよい。キャプションも同じだ。現在でもアンカーボックスなどの方法があるが,思うような結果を得るのはなかなか難しい。

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紙数の関係で小林氏のお話の半分も掲載できなかったが,いずれにしてもこれは複雑でない一般的な書籍における小林氏の考え方に基づいた組方のポイントであって,当然ながら絶対条件などではない。しかし,DTPソフトの機能だけを取り出して何ができるかというより,具体的な立場からの要望に基づいた議論が有益だと思われる。今後も引き続きこのテーマを取り上げていきたい。
(テキスト&グラフィックス研究会)

2001/06/08 00:00:00


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