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独自技術がなくなったら、小企業の存在理由は?

塚田益男 プロフィール

2000/11/3

第1回 Print Ecology(印刷業の生態学)序論
第2回 印刷における個体企業の生態学 ニッチ戦略
第3回 環境の激変 パラダイム・シフト
第4回 企業中心社会・工業化社会から情報化・グローバル化社会へ
第5回 市場経済化について
第6回 技術のパラダイムシフト
第7回 経営思想のパラダイムシフト
第8回 コーポレートガバナンスと、印刷業の群集
第9回 経営管理のデジタル化
第10回 個体群と群集のニッチ
第11回 住み分け − 企業規模別ニッチ

2)タテ型分業

同種個体群の中の「住み分け」の一形態がタテ型分業である。アダムスミスは著書「国富論」の中で分業は生産効率を一気に向上させると書いている。彼のいう分業は労働の分業(division of labor)であり、例としてピン作りをあげている。ピンを作るのに針金を切る、先端を尖らす、頭を丸める、という三つの作業があるが、一人で三つの作業をやっていては効率が悪いから、三人がそれぞれを分担すれば生産効率が一気に上がるというものだ。
このことは別の観点から見れば工程の分業を意味する。タテ型分業とは一つの生産 ラインの中の工程分業を意味する。現代ではライン化やロボット化で機械的に自動化できるものは、すべて機械化しているが、prepress, printing,postpress のように工程が分断しているものは、分業になり専門化する。

数年前まではこの三つの工程はそれぞれ独立した技術大系を持っており、専門業者も確立していて、それぞれの業者団体を持っていた。勿論今でも専門業者と業者団体は存在しているのだが、CIP3というデータ思想が考えているように、3工程のデータは共通になろうとしているし、その中で三工程の境界がボーダーレスになりぼやけてきた。その中でもpostpressの製本工程だけはまだ独立性が少しは残っているが、全体としては境界融合が行われているので、prepres 業者が印刷工程の設備を導入したり、印刷業者が製本設備や製函設備を導入したりということが当たり前のように行われている。

●分業と外注工費(下請)

分業工程の技術、設備、経営などについて独立性が強い時は、料金体系も独立性を主張できるので、高めの料金設定ができる。1990年代の前半までの製版業界や製本業界は独自技術を主張できたので、料金も高めで経営も豊かだった。後半に入るとprepressではDTPが普及し、入力やページ編集作業は印刷会社も通り越してグラフィックデザイナーの方へ移ってしまった。勿論、印刷業者もprepressを内製化するようになる。
こうなれば製版業者の独自技術は主張できないから、料金水準はどんどん下降するし、経営そのものも維持しにくくなるし、業界団体そのものの存在理由も危うくなる。製本業にも、印刷業にも部分的には同じような事態が存在する。社内印刷の設備がどんどん高級化し、普及しはじめたので、一部の印刷業者は存在理由を主張しにくくなってきた。すなわち小企業のニッチがなくなってきたのである。

外注という経営行為がある。最近ではアウトソーシングと呼ぶことがある。外注にはいろんな動機がある。1)自分の会社にその生産工程を持っていないから、それに該当する仕事は全部を外注する。特定部品の外注も含まれる。 2)経営資源の選択と集中のため、異質な生産工程を分社化したり、資本的に親しい別会社に外注する。3)自分の会社にも必要な生産工程を持っているが、納期が重複した場合に外注する。4)受注価格が安く、自社で生産すると赤字になるので外注工場に赤字を押しつける。

1)のケースでは特定協力会社を持っており、親会社は下請に対し、厳しい合理化とコスト低下を要求する。その見返りとして日常の外注作業量は保証する。現在の印刷界は作業量の保証をせずにコストの低下のみを要求する。またカンバン方式のように、納品回数をオンタイムに少量ずつ何回も行わせ、自社の在庫負担を極端に下げ、外注会社には運賃負担を大きくするようなことも行われている。

2)のケースが本来のアウトソーシングである。自分の会社は本社機能(総務、会計、人事など)企画、設計、技術などの機能に集中し、生産、配送機能をはじめ、場合によっては営業機能さえ別会社にし、アウトソーシングする。

3)のケースは印刷界で普通に行われる相互依存関係であるし、4)のケースは大手企業と中小下請会社の関係である。
1)2)は一種の「住み分け」分業という形態であるが、3)4)は一種の生産活動であって、分業という名に価しない。

2000/11/03 00:00:00


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