本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

日本の印刷界の現況とFAGATの課題(その1)

第5回マニラFAGAT
情報交流会講演レポート

November 6, 2000

(その2)
(社)日本印刷技術協会 最高顧問・塚田益男

1.印刷業の現況(統計から見た日本の姿)
2.技術変化と関連業の消滅
3.印刷業の技術予測と業界構造
4.印刷界が現在の困難を脱出し,事態を改善しようとする議題について,
  FAGATメンバー国が意見を交換することに関して・・・・・・

<序 文>

現在は社会全体が情報化社会に突入し, コンピュータとインターネットの時代になった. 社会のビジネススタイルもライフスタイルも非常に早い速度で変化を続けている. 印刷界はこの変化に直撃され,経営と技術の両面で影響を受けている. 変化の内容を要約すると次の様になる.

  1. 顧客のセールスマネージメントやオフィスワークは全面的にコンピュータとインターネットを使用している.
  2. 顧客が印刷会社へ支給するテキストや写真は70%以上がデジタルデータのディスクやインターネットにより伝送される.
  3. 顧客は最近,印刷会社に対する印刷見積りや入札をインターネットを通して行うようになった. この傾向はまだ全体の5%以下だが,次第に多くなるだろう.
  4. 印刷物の生産技術は,プリプレス,プレス,ポストプレスの3分野ともネットワークコントロールになる.世界の40社のサプライヤーが協調し,CIP3という共通したワークフローを開発中.
  5. 印刷会社の経営管理は全分野がネットワークコントロールになる. 人事,財務,会計,見積り,進行,生産,営業活動,利益コントロール,その他
  6. 印刷総需要はメディアの多様化,デジタル印刷の登場により,旧来型の印刷需要は伸び悩む.
  7. 印刷経営は供給過剰による需給アンバランスが常態となり激しい競争,価格下落に悩む.
  8. 印刷業界および関連業
    a) 印刷企業の名目成長は価格下落のため,困難.
    b) 企業数,特に小企業の減少は続く.
    c) 紙,インキは量的に安定,少々は上向く.名目では価格下落のため,成長は難しい. フィルム,印刷機の国内需要は極端に減少.輸出は伸びる.
    d) 企業統合は今後,増加するだろう.

このような日本の印刷界が受けている大きな脅威は,日本だけでなく米国でも,EU各国もみな同じである. そして,この脅威は社会および技術システムの全面的変化から発生しているので,単に先進国だけに起こる現象ではない. アジア諸国にも,1〜2年のタイム差があるだけで,殆ど同時に進行するだろう. それだけに情報社会における印刷界の対応は,アジア全体で急がなくてはならない.

先頭へ

1.印刷業の現況(統計から見た日本の姿)

さて,これからは各種の統計表を使って日本の事情を説明いたします.

a) 企業数
1988199019931995
*印刷業の企業数34,50033,60032,90031,600
製版業の企業数6,7006,6006,3005,700
*印刷業売上高(千億円)60,871,873,773,6

印刷業も,製版業も事業所数はどんどん減っていきます. まだ,発表になっていま せんが,1999, 2000年の数は急速に減っているはずです. 特に製版業は産業分類がで きなくなる位,会社数が減り,経営力も弱くなりました. 理由はプリプレスワークであ るタイプセッティングやカラーDTPの技術が,製版業や印刷業の手から離れ,グラフィ ックデザイナーに移ってしまったからです. 印刷業の数が減るのは主に小企業です. 印刷ビジネスは全くコンピュ−タリゼ−ション に巻き込まれていますが,若い後継者がいない会社では事業変換ができないので廃業し てしまうのです.

b) 規模別分布(1997)
1-3人4-9人10-19人20-29人30-49人50以上合計
事業所数12,9829,8583,3261,596 8941,15129,807
% 43.633.111.25.3 2.93.9 100.0

印刷業のビジネススケールは日本でも,19人以下の小企業が88%です. トナーベース のデジタルプリンティングが社会的に普及すれば,一番影響を受けるクラスです.

c) 経営指標(大日本印刷と凸版印刷 / 1998年4〜9月, 中小印刷1997年)
大日本印刷凸版印刷中小印刷
売上高100.0 %100.0 %100.0 %
製造原価83.785.076.3
営業,管理費11.110.220.4
営業利益5.24.83.3

企業数へ

日本には大日本印刷(株)と凸版印刷(株)という世界的な巨人がいる一方,30,000 社以上の中小企業がいるのです. 大,中,小の規模の会社が,それぞれ「棲み分け」 できる理由は仕事の多様性にあるのです. 大きなボリュームの仕事は大会社が受注し, 小ロットの仕事は小会社が受注するのです. その表現は売上高対一般販売管理費にあります. 大日本印刷(株),凸版印刷(株)の比率は約10%,中小印刷では20%以上にな ります.20〜50人のスケールでは25%,19人以下では30%以上になります.


d) 印刷産業の売上高(製版,製本などを含む)- (10億円単位)
19971998年1999年
4- 9月10-3月合計4- 9月10- 3月合計4- 9月
上場大手10社1225,91255,32481,21138,91196,02334,11138,7
前年同期比4,3▲2,10,9▲7,1▲4,7▲5,9▲0,02
中小企業3024,13271,06295,02916,83133,56050,32829,8
前年同期比▲1,1▲2,3▲1,3▲3,5▲4,2▲3,9▲3,0
印刷産業全体4250,04526,38776,24055,74329,58384,43968,4
前年同期比1,3▲2,2▲0,5▲4,6▲4,3▲4,5▲2,2

e) GDP成長率と印刷産業出荷額(前年比)
199019911992199319941995199619971998
名目7,56,62,80,90,80,83,51,5▲2,5
実質5,13,81,00,30,6 1,55,11,4▲2,8
印刷名目9,77,2▲1,5▲3,1▲3,73,52,4 ▲0,5▲4,5

印刷産業の売上高

f) 印刷材料出荷量
199619971998
出荷量対前年比%出荷量対前年比%出荷量対前年比%
塗工印刷紙(千トン)4,077100.04,346106.64,30199.0
オフセットインキ(千トン)128100.0138107.813799.3
製版フィルム(in Ku)69,4100.067,4 97.158,6 86.9

印刷産業の主要材料は紙とインキです.製版フィルムも5年前までは主要材料でしたが DTPが普及し,今後CTPが普及しますので,急速に使用量が減り,主要材料にならな くなりました. 紙とインキの出荷量を見ると,印刷売上高ほどに減少していないこと が分ります.この表にはありませんが,1999年の対前年比は塗工紙116.5,オフセット インキ 108.0とはげしく増加しています. 材料の使用量と印刷売上との乖離には2つ の理由があります.

  1. 仕事の量が実質ベースでは増加しているが,それ以上に印刷価格の下落が激しい.
  2. 増加している仕事はチラシやマニュアルなどで,オフ輪の仕事だけです.
    ところが後述するようにオフ輪の印刷価格は5年間で半分以下に下落してしまった

g)価格競争の現状(Web offset)下請け値段

* A1 サイズ 1 パス(8色)0.016 米ドル - 1色0.002米ドル
* B2 サイズ 1パス(8色) 0.012米ドル - 1色0.0015米ドル

この表の価格は下請契約価格ですが,直受け(元請)の場合でも20%位高いだけです. 5年前の価格水準に比べると1/2,10年前と比べると1/3になっています.オフ輪の生 産性は確かに良くなりましたが,現在の価格レベルはインキやガス,機械償却額という ランニングコストだけで,作業者のコストは入っていません. まったく低価格という べきです.日本のオフ輪は全く供給過剰で価格競争がいかにはげしいかということです. そして大手会社の圧力が非常に大きいということを意味します.

先頭へ

2.技術変化と関連業の消滅

a) 30年前1970年活字よさようなら(good-by hot type)
コ ールドタイプこんにちは (hello cold-type)
(消滅業種)活字鋳造//鉛版鋳造/活版業者
b)7年前から今日までこんにちはコンピュータ,こんにちはDTP
(消滅業種)写真植字業
(衰退業種)写真製版業/小規模業者

私は1963〜1994年まで,約30年間,日本の中小印刷業の近代化計画を作成し,指導 してきた. その内容は次の様なものであった.
a)手差しさようなら→自動給紙こんにちは
b)活版印刷さようなら → オフセット印刷こんにちは
c)カメラ作業さようなら → モノクロスキャナーこんにちは
d)レイアウト(ライト)テーブル作業さようなら → CEPSこんにちは
e)CEPSのワークステーションさようなら → DTPこんにちは

この30年間に日本の印刷界はすばらしく成長し,近代化した. その一方,沢山の会 社や業種が消滅したのも事実だし,大きな犠牲を払った. そして21世紀に入れば, また新しい変化が待っている.

先頭へ

3. 印刷業の技術予測と業界構造
日本の印刷業界の技術構成と明日への構築

  1. 通常のビジネスライフは インターネットに接続したデスクトップ・コンピュータやモバイル・コンピューテングのネットワークを使って仕事をするようになる.
  2. DTP, CTP, デジタル印刷,ネットワーックを使った技術システムは印刷界の日常の ワークフローになる.
  3. '紙とインキ'という仕事は,今後とも印刷会社のビジネスの基盤だが,競争力強化と事業領域拡大のためには,データマネージメント,コンピュータ関連の設備マネージメント,アプリケーションソフトの作成,各種サービスのパッケージ化,そしてコンテンツビジネスなどにも力を注がなくてはならない.
  4. 従来型の印刷会社の30% 以上が5年以内に消えるだろう. 印刷会社の役員は会社の 生き残りのために努力を集中しなくてはならない.
4. 印刷界が現在の困難を脱出し,事態を改善しようとする議題について,FAGATメンバー各国が意見を交換することに関して…….

FAGAT情報交流会の議題
本来,FAGATはグラフィックアーツテクノロジーのフォーラムであるから,議題は技術的なものであるべきだ. ところが'紙とインキ'に関する技術は,プリプレス,プレス,ポストプレスとも成熟し,一部の技術を除いて殆どがコンピュータのマイクロチップの中に入ろうとしている.印刷界における現在の最大の関心事は下記のような議題である.

  1. 供給過剰から発生する業界の諸問題
    過当競争, 価格の下落,印刷会社数の減少,会社経営のリストラ
  2. ISO採用工場の普及
  3. コンピュータエキスパートの教育
    アプリケーションソフトの作成能力,ネットワークの管理能力などに関する教育と人材の採用
  4. CTPシステムの普及と関連する技術環境
  5. 技術情報の普及と図書の発行
  6. Eビジネスへの取り組み
これらの議題は'紙とインキ'の技術とは関係が薄いが今後数年間は続くものだ.各国は毎年2つ以上のものについて各国の事情を発表することが望ましい.
先頭へ

2000/11/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会