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タテの分業から、ヨコの分業へ

塚田益男 プロフィール

2000/11/7

第1回 Print Ecology(印刷業の生態学)序論
第2回 印刷における個体企業の生態学 ニッチ戦略
第3回 環境の激変 パラダイム・シフト
第4回 企業中心社会・工業化社会から情報化・グローバル化社会へ
第5回 市場経済化について
第6回 技術のパラダイムシフト
第7回 経営思想のパラダイムシフト
第8回 コーポレートガバナンスと、印刷業の群集
第9回 経営管理のデジタル化
第10回 個体群と群集のニッチ
第11回 住み分け − 企業規模別ニッチ
第12回 タテ型分業

c) 印刷産業の群集

群集とは個体群の集りを意味する。印刷産業という経済領域の中で、事業を営んでいる個体群の集合である。
(1)印刷業に属する各種団体群(一般印刷業者、クイックプリンターまたは軽印刷業者、スクリーン印刷業者、グラビア印刷業者、シール・ラベル印刷業者、ビジネスフォーム業者、金属印刷業者、紙器印刷業者など)
(2)工程別専門業者の個体群(製版またはプリプレス業者、製本および印刷物加工業者、紙器および紙製品加工業者、表面光沢加工業者など)
(3)印刷産業資機材を製造し、サプライをする各種個体群(製紙業界、印刷用紙卸業者、印刷インキ製造及び販売業者、PS版、フィルム等感材の製造および販売業者、印刷機械、プリプレス用設備および加工機械の製造および販売業者、各種資機材供給サービス業者など)

・・・・・私は昔から、この群集全体が印刷産業なのだと主張しているが、群集の中には(3)の資機材供給業者のように全く異なる業種(個体群)に分類されているものが多いから単純ではない。しかし、みんな印刷技術を中心にして集まっているのだから、従来のカテゴリーを拡大して、この群集全体を印刷産業と考えたらどうだろう。

最近、コーポレートガバナンス(企業統治の仕組み)についての議論が行われている。企業が最も大切にしなくてはならない関心事は何かということだ。株式会社だから株主(share holder)だという意見と同時にstake holder(利害関係者)も大切にしなくてはならないという意見が大勢になった。すなわち従業員、得意先、銀行、周辺住民のほか、競争相手である同業者、資機材供給業者である。コーポレートガバナンスの観点から考えても、私たち印刷人は印刷産業の群集全体を大切にしなくてはならない。

ヨコ型分業

タテ型分業は一つのものを生産する時の工程別分業だと述べた。従って印刷業なら、企画・デザイン、プリプレス、刷版製版、印刷(スクリーン印刷、ラベル印刷、グラビア、光沢印刷、ホットスタンピング、クイックプリンティングなどを含む)、後加工(製本、製函など)が工程ということになる。これらの工程別専門業者群がタテ型分業を形成する。しかし、それらの専門業者群の「際」が不明瞭であいまいになってきたので「住み分け」をし難くなったと述べた。

それに反し、ヨコ型分業業者とは、一つの物を企画、生産、流通させる時の、全くの異種工程および部品、材料の供給業者をいう。したがって、広告企画業者、宣伝物配布ネット業者、金具・プラスチック類の部品供給業者、用紙・PS版・インキなどの資材供給業者などがヨコ型分業を形成する。

これらの業者群は印刷業者とは異質の生産構造、サービス構造を持っているし、コスト構造も全く異質である。従って、原則として印刷業者と競争関係に入ることはない。勿論、用紙卸商同志とかPS版供給業者同志というような、同種個体群同志では競争関係になるのは当然のことだ。しかし、一部広告業者や製紙メーカーのように印刷業を分社化して創業することを除けば、印刷業とこれらヨコ型分業の業者群とは完全な「住み分け」が成立し、協調関係が生れている。

広告業や製紙業などは印刷業のヨコ型分業業者群であるが、印刷業との関係は限定的だから印刷産業の群集に入れるべきではないだろう。しかし、印刷や、プリプレスなどの設備メーカーや供給業者は深く、印刷物生産に関与しているのだから、私は、前述したように、広い意味での印刷産業の群集の中に入れるべきだと思っている。

2000/11/07 00:00:00


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