本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

印刷売上を確保するには、2割の電子的事業が必要

塚田益男 プロフィール

2000/11/15

第1回 Print Ecology(印刷業の生態学)序論
第2回 印刷における個体企業の生態学 ニッチ戦略
第3回 環境の激変 パラダイム・シフト
第4回 企業中心社会・工業化社会から情報化・グローバル化社会へ
第5回 市場経済化について
第6回 技術のパラダイムシフト
第7回 経営思想のパラダイムシフト
第8回 コーポレートガバナンスと、印刷業の群集
第9回 経営管理のデジタル化
第10回 個体群と群集のニッチ
第11回 住み分け − 企業規模別ニッチ
第12回 タテ型分業
第13回 印刷産業の群集 ヨコ型分業
第14回 ニッチ(niche)の崩壊 古いパラダイムの崩壊

2) 技術の異変

技術のパラダイムシフトについては前述した通りだが、そのために個体群や群集そのもののnicheが揺らいでいる。CEPSからDTPへの移行があったので、写真植字業界が消滅し、製版業界のnicheがどんどん小さくなる。ディジタルプリンティングの普及はこれから本格的になるだろうが、そうなれば一般印刷の小企業群やグラフィックサービス印刷業のnicheは小さくなり、存続そのものが困難になる。

いま世界の印刷機材メーカーたちはCIP3というコンソーシアムを作っている。Collaboration for Integration of Prepress,Press, Postpress というもので、印刷の全工程をコンピュータコントロールしようとしている。まだ完成するには3年以上の年月が必要だろうが、完成しなくても、できる所から生産のループ化、ロボット化、ライン化が行われるだろう。その過程ではプリプレス業、製本業、光沢加工業、紙器加工業などのnicheも小さくなるだろう。

DTPは8年ほど前に印刷業のプリプレス技術として誕生した。私が全印工連の会長時代、JAGATの諸君を動員し、「電子化3部作」のパンフレットを作成し、日本全国を飛び廻って普及に努力したので、私にとっては思い出の深い業界指導だった。そのDTPも2〜3年前に印刷業の固有技術のリストから消えた。文字組版にしろ、カラー画像編集、デザインにしろ、それらの技術は印刷人から離れて一般社会人、特にデザイナー諸子に開放された。

その時点で印刷会社への入稿形態は、文字は原稿用紙から文字入力済みFDに、カラーフィルムはカラー分解済みのMOに代わり、今日では70%以上がFDやMOの入稿形態になった。もう2〜3年もすれば、すべてデータ入稿になるだろう。印刷会社のプリプレス作業はデータ処理作業に変り、得意先のプリプレス作業の価値評価も下がったので印刷会社のプリプレス部門の収益性は一気に悪くなった。数年後にはCTP(Computer To Plate)とかDigital Imaging という言葉が日用語になるのだから、正しく印刷技術が印刷業のnicheを決定することになる。

あるアメリカの印刷研究者が次のようなことを言っていた。印刷業者は従来のオフセット印刷、電子的プリプレス、後加工・製本サービスという核になる事業から80%以上の収入を得ようとするだろう。しかし、この核事業(コア・コンピタンス)は顧客の電子通信需要に合うような設備や技術で補完をすることが必要だ。急速に成長すると思われる20%以上の部門とは次のようなものだ。デジタルプリンティング、Webサイトページデザイン、インターネットサービス、データベースマネージメント、フルフィルメント、そして顧客への教育とコンサルティング・・・・。

さて、この記述は非常に大切なことを言っている。従来の印刷事業をコア(核)と考えているのは有難いが、それでもnicheは20%も減らしている。9月中旬、FAGAT(Forum of Asian Graphic Arts Technology=アジア印刷技術フォーラム)の第5回フィリピン大会があった。私は日本を代表して一時間ばかりスピーチをした。私も将来の印刷界はEC関連の売上げが20〜30%になるだろうとコメントした。
私のスピーチの後でシンガポールの印刷コンサルタントが質問に立った。塚田はECは20〜30%だろうというが、40〜50%がECになるだろうと思う。e-bookはもっと普及するだろうと思うが、如何?という質問だった。私はe-bookはそんなに普及しないと思うし、Web siteのホームページ編集作業なども印刷売上の20%以上にはならないだろうと答えた。もしECの売上シェアが40〜50%になり、従来のink on paperの事業分野が50%近くになるとしたら、それこそ印刷会社の経営は成立たなくなるし、印刷業という名称も変えなくてはならなくなるだろう。

それにしても印刷業のコアビジネスであるink on paper の従来型事業が80%になり、電子的補完事業が20%になると、アメリカでも言っている。そしてそのEC事業は多角的に、多彩な広がりを持っているから、中小企業の印刷業者ではとても対応できないことだ。もし、20%の補完サービスに対応できないとしたら、中小印刷業のnicheはその分20%以上も小さくなるということだ。

次回は、新しい群ニッチを求めて

2000/11/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会