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間近に迫ったOpenType

PostScriptのType1フォントとTrueTypeフォントを統合するOpenTypeフォーマットは1997年にアドビとマイクロソフトが発表したが,2000年にアップルがMacOS XにOpenTypeフォーマットのヒラギノ書体を搭載することを発表してから実用に向けての関心が一挙に高まった。その後,2001年3月24日にMacOS Xが発売されだが,日本のフォントメーカーはOpenTypeにどう対応しようとしているのか,1月16日のテキスト&グラフィックス研究会のミーティングでフォントメーカー6社に話をうかがった。前半では事前にお願いしたアンケートへの答えを中心に各社の方針を話していただき,後半ではそのお話をベースにディスカッションを行った。

フォントベンダー各社の方針

アンケートの項目は,
   1. OpenTypeを予定しているフォント
   2. 対応機種
   3. リリース時期
   4. OpenTypeに対する基本方針
   5. 今後の提供方針
の5つである。以下,これらの質問への答えを中心に当日配布したレジュメや話の内容から各社の方針をまとめた。

1. イワタエンジニアリング

方針としては全78書体をOpenType化するが,OpenTypeはまだ不透明な部分が多く調査を要する。とりあえず,まず数書体をリリースすることになるだろう。MacはOS8.6以降,Windowsは98以降に対応。MacOS Xのリリースと同時期を予定。
PSフォント,TrueTypeフォントの販売は中止しない。OpenTypeではエンベッドは可能にする。パッケージ,URL直販,ダウンロード販売を行う。字種は当面はシフトJISだが異体字には対応したい。また,順次Pro(Adobe-Japan1-4,15,500字)へ移行する。価格は慎重に配慮する。解像度制限なし,プリンタフォント不要,および15,500字という文字数を考慮すると価格の決定が難しい。

2.ニィス

CID形式のPostScriptフォントやPDFへのフォントエンベッドにも対応してきたように,新技術に対しては積極的に対応する。既存書体については2001年4月までにはOpenTypeを提供できるようにしたい。文字セットはAdobe-Japan 1-4対応は本文用の数書体とする。フォントの名称は混乱を避けるため変更する。他の書体,特に太文字は従来のまま。アップル文字セット17,000字については明確になった段階で検討する。

3. フォントワークスジャパン

OpenTypeは現在開発中で,2001年中には現在リリースしている全CIDフォントをOpenType化する予定。字種はAdobe-Japan 1-4で制作中。アップル文字セット対応は未定。フォント名を変更してCIDフォントとの判別を行うようにする。具体的なリリース時期,製品構成,価格は未定。

4. モリサワ

NewCIDでリリースしている63書体すべてをOpenType化する予定(時期未定)。教科書体までの26書体はPro仕様(Adobe-Japan 1-4,15,500字)でリリースする。勘亭流,楷書MCBK1,タカハンド,学参フォントの字種は検討中。アップルの17,000字への対応は未定。
対応機種はMac(OS8.5〜9.x,OS X;OS X以外はOpenType対応ATMが必要),Windows(98 Second Edition,WindowsMe,Windows2000;Windows2000以外はOpenType対応ATMが必要)。Windows95には未対応,NTは未定。
初期リリースとして2001年夏をめどに,基本6〜7書体をリリース予定。価格は未定。Mac版はOS 9.x版のみ。OS X版は2001年秋をめど。文字種はAdobe-Japan 1-4対応。それ以外の書体については順次リリースする予定。
OpenTypeについては,フォントメニューとPostScriptフォントネームをNewCIDとは異なるものにする(共存可能と考える)。また,Dynamic Downloadに対応し,ホストからのビットマップ出力の解像度制限をなくす。NewCIDに引き続き,OpenTypeでもフォントエンベッドを可能にする。アップルの17,000字には互換性等を確認できれば対応を検討する。ただし,Adobe-Japan 1-4以外の文字種の開発には着手する。
NewCIDとOpenTypeは並行販売を行い,OpenTypeリリース後に出る新書体は両フォーマットでリリースすることを考えている(OpenTypeで安定するまで)。プリンタフォントもDynamic Downloadの安定した出力が確認できるまで販売を継続する。OpenTypeはホストフォントのみで,プリンタやRIPはCIDフォントのまま。ただし,CIDから文字種を拡張しPostScriptネームも変更するので対応フォントは必要になる。再インストールの不便さを解消したい。

5. リョービイマジクス

本明朝,ゴシック,シリウス,ナウの各ファミリーをOpenTypeの第1弾として開発したい。Macに対応する。Windowsについてはマイクロソフトの動向を見て検討。リリース時期は未定。OpenTypeをリリースしても既存のTrueTypeフォントやCIDフォントも引き続き販売する。
OpneTypeはフォントエンベッドを可とし,店頭販売の他,印刷機器・プリプレスシステムの営業マンによる直接販売やweb販売を行う。字種は特定の書体についてはAdobe-Japan 1-4をそろえたい。アップルの文字についても対応は特定の書体だけになるだろう。2000年12月にナウ7書体のCIDフォントを出荷したが,当面はナウ以外の書体のCID化を優先し,その後にOpenType化を行う。ただし,OpenTypeについては普及の具合を見て対応する。

6. キヤノン

他のフォントベンダとは違い,先陣を切ってOpenTypeをやるということはないが,対応するとすればWIFEからTrueTypeへと対応してきたFontGalleryの和文が対象になる。しかし,パッケージとしてOpenTypeフォントを出して評価してもらえるかどうかわからないし,バンドルするかパッケージにするかはともかく,マーケットから要望があれば機器と一緒に提供していくのが前提だ。出力環境や他のソフトウェアの対応も考えると,すぐというわけにはいかない。OpenTypeを提供するときにはWindows環境でもPS環境でもユーティリティ等も含めて提供したい。
フォントベンダやプリンタメーカー,ソフトウェアメーカー,およびユーザを含めた調和点を見つけてメリットがあるかたちで提供することを考える必要がある。OpenTypeにはすでにTrueTypeOpenで実現している機能もあるが,いずれにしろ重要なのはWindowsとMac間の互換性や出力の安定性である。そういう点を確認したうえで提供するのがわれわれのミッションだと考えている。OpenTypeをいつ出すかは未定である。今はWindows用,Mac用のTrueTypeとCIDの提供で足りていると考えている。キヤノンはCIDの表示用にTrueTypeを用いていて,ドライバで表示側のTrueTypeとダウンロードしたCIDの互換性がとれており,Mac,Windows両方から同様の環境で使える。

OpenTypeとフォント市場

ミーティングの後半は,上記各社の話を受けて,OpenTypeのメリット,デメリット,文字種,あるいは今後のフォント提供のありかたなどについてディスカッションを行った。
フォントベンダーの多くはCIDとOpenTypeが時期的に重なったためのとまどいはあるが,いずれにしても最低限の体勢は整えなければならない。また,文字種は従来の文字種とAdobe-Japan 1-4の約15,500字を切り分け,アップルの約17,000字はそれとは別対応するという意見が多かった。また,異体字が使えるというようなフォント自体のメリット以外にも,フォーマットが統一されることによって本来のフォントデザインに集中できたり,圧縮率が大きくてオンライン販売に展開できるなどメリットは少なくない。
一方,アップルのMacOS Xに搭載される17,000文字の仕様がまだ捉えがたく,またアプリケーション側の対応も考えると一般に使われるには3〜4年くらいかかるかもしれないという意見もあった。
以下,ディスカッションからいくつかのトピックを拾う。

1. OpenTypeのメリット・デメリット

OpenTypeフォーマットになることでなにがどう変わるのか,フォント市場の将来も含めて,そのメリット・デメリットを聞いた。

ニィス:OpenTypeに関する議論が出ることでフォントビジネスが底辺から嵩上げされるのではないか。またOpenTypeはデータが圧縮されているのでオンライン販売がしやすくなる。

キヤノン:OpenTypeはType1とTrueTypeの垣根をはずす第1ステップだが,ハードウェアやユーティリティの対応も必要である。だが,それは一朝一夕にはできないだろう。

モリサワ:CIDでできることならCIDでやりたかった。モリサワはフォントのフォーマットを変えたいわけではないが,TrueTypeもType1も関係なく使えるというOpenTypeはやはり画期的である。ただ,モリサワの場合,OCF→CID→NewCID→OpenTypeと3回もフォーマットの変更をするわけで,ユーザがメリットを感じて対応してくれないことにはうまくいかないだろう。

フォントワークス:フォントがクロスプラットフォームになればWindowsも広まる。ユーザは新しいフォーマットだから二の足を踏んでいるのではなく,慎重に考えて取り組んでいるのだと思う。OpenTypeに落ち着けばOSに関係なく書体を開発できるから開発側は楽になる。ユーザにフォーマットの違いを説明するようなことでなく,本来のフォント・デザインの仕事に集中できるようになるかもしれない。

リョービイマジクス:Mac/Windows間のデータ互換のニーズは多く,フォントの完全互換性の要望は強い。またOpenTypeは圧縮効果が高くオンライン購入に有利である。さらに放送業界ではBS化が進められていてビットマップフォントからアウトラインフォントの要望が高まりつつある。つまりフォントにはまだ未開発の市場があり,そういう意味でもOpenTypeフォントのメリットは少なくないと思う。

イワタエンジニアリング:OpenTypeがどういうものなのかまだよくわからないところがあり,それをクリアにしないと本格的に取り組むのは危険だと考えている。もっとも,どんなものでも出始めはリスクがあり,だからといって手をこまねいているわけにもいかない。対応は積極的に行うつもりである。OpenTypeで字種が増えると,それだけ多くの文字を作らなければならないという問題がある一方で,異体字をサポートできるなどのメリットもある。結局,いかにうまく商売に結び付けるかが重要だと思う。また,いくら文字だけ作ってもアプリケーションが対応してくれないとどうしようもない。アプリケーションメーカーにはぜひ対応をお願いしておきたい。それから,OpenTypeはMacとWindowsの完全互換がとれるというが,外字のマッピングの違いや位置がずれるというような問題が本当にクリアになっているかどうか調べてみなければならない。

2. OpenTypeの文字種

本文用の書体の字種はAdobe-Japan 1-4の約15,500字を採用するという意見が多かったが,そうなると,ディスプレイ書体と本文書体を区別することになる。フォントベンダーの意見を聞いた。

モリサワ:Adobe-Japan 1-4に基づいた文字セットをPro(プロフェッショナル),従来のものをSdt(スタンダード)という名前で識別する。例えば勘亭流ならSdt,明朝やリュウミンはProという具合に各フォントをどちらで出すか決める。

ニィス:ニィスもモリサワと同じような形にしたい。ただ,アップルの17,000字が出てくるとトリプルスタンダードになってしまうから,それは外字のセットとして扱おうと思っている。

モリサワ:アップルの文字種については互換性がとれるかどうかまだわからない。文字種が決まった時点で検証する必要がある。アップルには17,000字を3月24日のOS Xのリリース時に入れてほしかった。われわれとしてはその文字種にほんとうに価値があるかどうかを検証してから最終的な判断を下したい。

3. コピープロテクト

会場からコピープロテクトをどうするのかという質問が出た。

イワタエンジニアリング:Windowsは実質的にはコピープロテクトをかけられずTrueTypeはいわばコピーフリーである。だから,あまり積極的な態度ではないが,ユーザの倫理に期待するのがベンダーとして正しい行き方だと思う。ユーザとベンダーの信頼関係が重要だ。

キヤノン:協力してもらっているベンダーが希望すればプロテクトする場合もあるが,ほとんどはしていない。ユーザの利便性や,問い合わせやクレームへの対応のコストなどを考えると,プロテクトしないほうがトータルなメリットがある。OpenTypeになってもとくにプロテクトする考えはない。それに違法行為に対しては技術的な対応を提案できる段階が近づいていると思うので,プロテクトのことはあまり心配していない。

ニィス:プロテクトの話は簡単には論じられない問題だ。フォントベンダはユーザのフォントに対する評価があってやっていけるのだからユーザは大事にしたいが,一方,不正コピーも多い。例えば賞味期限のような日付を入れるという案もあるが,今はなんともいえない。文字に対する著作権的な法律の必要性もあるかもしれないが。

フォントワークス:会社の方針の詳細は答えられないが,使う側はプロテクトがないほうがよいに決まっている。嫌がらせでプロテクトをかけているわけではなく,われわれの仕事を守るためにやらざるを得ない側面があることを理解してほしい。

モリサワ:じつは今いちばん苦労しているのがプロテクトである。いちいちFDをやりとりするような手間がかからないよう,クラッシュしたら再インストールできるという条件でOpenTypeをリリースしたい。違法コピーの対応については他社と同様だ。ユーザがみんな正規に買ってくれるならプロテクトをかける必要もない。ただフロントエンドに全部の書体を揃える場合と,プリンタにフォントを入れる場合ではユーザによって差が出る。フロントエンドにフォントを揃えれば間違いは起こらないが,必ずしもそのほうが安くつくとは限らない。

リョービイマジクス:うちはプロテクトは緩いほうでユーザからは便利だと評価されている。ユーザのためになるようなやり方を基本的なスタンスにしているが,書体に関する著作権というというような法的保護は必要だと思う。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2001/04/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会