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ハイエンドデジタルカメラの普及状況

株式会社電画 代表取締役 有明ABCスタジオ ディレクター 早川廣行


ハイエンドデジタルカメラ業界の現状と将来

 コンピュータの有効活用が一般社会のみならず,写真業界という狭い世界においても,第2の産業革命を巻き起こすと,10年前からいい続けてきましたが,技術的には既に到達点を迎えたようです。
 各社から発売された600万画素超ハイエンドデジタルカメラも,35mm一眼レフタイプ,中判タイプ,ビューカメラタイプと出そろい,必要十分な画質を備えています。ハイエンドデジタルカメラが高額過ぎて,普及のネックになっていた時代も,1999年9月29日のニコンD1の発売を端緒に,終わりを告げようとしています。
 業務用途写真レベルのデジタル化促進に,ニコンD1は大きな貢献を果たしました。
 それから1年たって,富士フイルムのFinePix S1 Pro,キヤノンEOS D30が発売され,より普及を促進しています。計画レベルではD1が月産3000台,S1が同1万台,D30は同8000台と,従来のハイエンド機とは普及台数がけた違いで,さらに業務用途デジタルカメラのすそ野を広げ続けています。
 来年度に発売予定の高画素デジタルカメラも,1600万画素コダックプロバックを筆頭に目白押しです。価格的にも,600万画素クラスで実売150万円程度で,数年前に「その程度の価格になったら購入したい」と言われていた希望価格になりつつあります。また,技術的な問題ではなく,商業的な理由で永久に無理かと思われていた,国産高画素大サイズ受光素子の開発も実現しそうです。
フィリップスの35mmフルサイズ600万画素CCDの小型化(35mm一眼レフに組み込めるタイプ)と,DSP(画像演算回路)の完成,リーフCMOSTやSONYのAPSサイズCCD,コダックのCCD外販体制強化などによって,カメラメーカーのハイエンドデジタルカメラ開発参入における最大のネックはなくなったといって良いでしょう。

デジタルデータ入稿の現状

 今,最もホットな話題は,デジタルカメラで撮影したデジタルデータの入稿問題です。
 昨年,D1の発売時点で予測した問題が現実のものとなって,プレス・プリプレス側に押し寄せてきています。日ごろ,製版や印刷など考えたこともない製作者,カメラマンの元にもフィードバックされ,大騒ぎになっています。特に大ヒットしたD1が,DTP業界が採用しているAppleRGBカラースペースではなく,ビジネス標準のsRGBでもなく,ビデオ業界で普及しているNTSCカラースペースを採用していたことが,騒ぎを大きくしました。
 カラースペースを適切に変換すれば何の問題もないのですが,大半の人々(撮影者も製版サイドも)はCMS(カラーマネジメントシステム)の知識が皆無なものですから,問題になったわけです。  CMSを中心にしたRGBワークフローが標準になれば,解決される問題なので,ここ1〜2年の間にスムースな流通が確立されるはずと期待しています。
 デジタルフォトデータの入稿に関しては,この2年間で大きな変革期を迎えています。
 筆者の環境では,75%を超えていたポジフィルム出力での入稿が,数えるほどに減ってきているのです。かつて,デジタルフォトデータを受け取ることにためらいをみせないデザイナーやクライアントは極めて少数派でした。しかし,現在はためらう人のほうが少数派であり,しかもその人々は自分たちが遅れていることを自覚し,データを受け取れないことを恥じるようになっています。
 筆者の環境では,6〜7年前にポジフィルムの月額現像料支払いが,デジタルによるポジフィルムの月額出力料支払いを下回るようになりました。その後,加速度的に減少した現像料&フィルム使用量が,現状ではほぼゼロになりつつあります。ポジフィルムの出力量も,この1〜2年で急速に減少し,ラボとの取引量はかつての10分の1以下です。
 筆者のみならず,デジタル化を推進している写真家仲間全員についても同様の傾向です。もちろん,その分,データでの入稿が行われているわけです。データ入稿には,プルーフで使用するプリンタの低価格化,高精度化が一役買っているのですが,CMSの普及や運用技術の成熟も寄与しています。
 印刷・製版サイドのデジタル知識・技術の普及も大きな要因です。CMYK入稿だけではなく,RGB入稿も増え始めていることが,印刷・製版サイドの技術力向上の確かな根拠になります。  RGBもしくはLabでデジタルフォトデータを流通させようという筆者らの提言は,ここに来てにわかに賛同者も増え,現実味を帯びてきています。
 2001年初めに発売予定の「Adobe InDesign日本語版」が,マルチプラットフォームとして定着することになれば,RGBデータ流通も当たり前のこととして受け入れられることになるのでしょう。

RGBワークフローの確立が決め手

 各種のデジタルカメラやスキャナなど,多様なRGBカラースペースのさまざまな入力手段によって,デジタルフォトは取り込まれます。そのデータの色管理を正確に行うためには,CMSを採用しない限り不可能です。現在のところ(多分,将来的にも),入力から出力まで一貫したCMSを行うためには,RGBワークフローであることが必須です。RGBはわからないといって,いつまでもCMYKワークフローにしがみついていては,デジタル時代に生き残ることは不可能です。

デジタル革命は意識改革

 デジタル革命は単なる技術革新ではありません。むしろ,意識改革という面が本筋なのです。
 CMYKワークフローからRGBワークフローへの意識改革が,製版・印刷業界に求められています。写真業界でも,実用的なデジタルカメラの登場で,写真の撮影技術が大きく変わろうとしています。それ以上に大きく変わろうとしているのが,写真の流通形態です。インターネットを利用した写真流通のシステムは,数年後には主流となり,商業的に写真を利用する人々の大半は,ネット上のアーカイブ(フォトデータベースのライブラリー)からダウンロードするようになるでしょう。
 商業写真の世界でも,「注文服」(オーダーメイド)の時代から「既製服」(レディメイド)の時代を迎えようとしているのです。そして,既製服がブランドで差別化されているように,既成写真もブランド化されることは目に見えています。
 考えてみると,商業写真におけるイメージフォトほど,レディメイドに向いたジャンルはありません。オーダーの場合,結果は採用した写真家の力量と被写体の選択によって決まります。いくら金をかけても,期待した結果が得られるとは限らず,クライアントに納得してもらえるとも限らないのです。極めてリスキーな手段だといえるでしょう。
 一方,既製品であれば使用する写真そのものを,ほとんど経費をかけずにクライアントに提示し,決定してもらうことができます。そこには何のリスク負担もありません。問題があるとすれば,求める写真が既製品の中に存在するかだけであり,あとはそれを探し出す手間と手段だけです。
 アナログにしがみついている写真家の存在感は希薄になっていくでしょう。

ハイエンドデジタルカメラ技術の普及啓蒙活動

 ハイエンドデジタルカメラの運用技術普及のために,4年前から月1回,有志が集まって公開の勉強会「デジタルカメラ学習塾」を行ってきました。
 その成果を踏まえて,2000年12月2日(土)の午前10時より,虎ノ門「発明会館」にて「第4回電塾大勉強会」が行われます。
 また,電塾の事業部が独立した会社Lab Inc.が毎週,実践的な「電塾デジタルセミナー」を行っています。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

●電塾のページ http://www.denjuku.gr.jp/
●Lab Inc.のページ http://www.HelloLab.com/


月刊プリンターズサークル2000年12月号PC企画特集より


2000/12/02 00:00:00


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