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複雑系としての印刷経営

塚田益男 プロフィール

2000/12/6

Print Ecology(印刷業の生態学) 5章までの掲載分のindex
6章第1回 印刷経営のシステムは複雑系

2 複雑系のシステムとは!

1.複雑系とカオス

従来の予測ができない事態が次から次へと起ること、すなわち不連続な事態のために経営予測、経営戦略が立てられない状態を非線型系、複雑系またはカオス(Chaos)という。その意味でも、いまの印刷経営は複雑系のシステムであり、カオス、カタストロフ(catastrophe)(激変)の状態ということができる。こうした非線型、複雑系に関する学問は20年近く前からはじまったばかりで、まだ一般解があるわけではないが、印刷界は印刷界として、何とかカオスから脱出する道を考えなくてはならない。さて、複雑系について別の角度からもう一度考えてみよう。

・自然界や生物界では自然淘汰という予測しうる進化や展開だけでなく、突然変異も発生する。その結果、一時的にしろ自然の秩序が破壊されることがある。経営体の場合では、経営外部の撹乱因子により、内部システムの各種機能が阻害され、予測不能、経営不能になることがある。そうした状態を複雑系とかカオスといっている。

いまの社会、特に1997年秋から2000年秋の現在までの経済社会は、1930年前後の金融恐慌、経済パニックと同じように、平成恐慌、平成パニック、平成カオスと呼んでもよいのではないだろうか。大手銀行、生命保険会社、大手百貨店などが次つぎに倒産する。ゼネコンは銀行に不良債権累積で生じた借金の棒引きを要請し、銀行は国の要請で棒引きを承諾し、銀行は資本不足になる分を国からの資金注入で賄う。

国民に相談もなく税金が湯水のように流れ、政府や自治体の国民からの借金は700兆円以上にもなっている。それでも政治家にパニックの意識がないから国民の苦しみは分らず、経済不況は脱出の見通しもない。平成不況は1990年代の当初からだから、景気の多少の変動があったにせよ、10年も続く不況で、それが97年から一層悪化したということだ。

その上、社会は情報化、グローバル化の時代になったから、自国はもとより他国の景気変動も急速に伝播する時代になった。予測不能、不確実性の社会構造になってきた。従来の学問は対象を単純化することによって、その対象の本質を明らかにしようとしてきた。しかし、そのような要素還元の方法では理解できない事態が世の中には多数存在する。経済、生物、地球環境なども時として非連続で、偶発的で予測不能な動きをする。そうした複雑な対象を扱うための学問分野が複雑系の研究分野である。

またカオスとは本来は地球創世期の混沌という意味である。このカオスの研究は複雑系を扱うための有力な手段である。多くの自然現象は初期条件を与えると、その後の状態変化は一義的に決定され、偶然性の入る余地は全くない。すなわち普通の状態なら経済にしろ、経営にしろ、生物の動きにしろ、現在の状態が明確に分っているなら、次にどのようになるかを予測することができる。

ところが、しばしば時間経過の中で、現在と次の状態とが非連続で不規則な変化によりバラバラになり、将来を予測することができなくなる場合がある。このような挙動をカオスと呼ぶ。天気予報がしばしば外れ、長期予報については不可能といえるほど誰も信用していないのも予測撹乱要因が偶発性の中で発生するという、カオスによるものである。

2000/12/08 00:00:00


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