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デジタルフォントの世界

タイプフェイス

 一般にDTPでは,文字はフォントという言葉で総称される。入力された文字情報が,ある形になって出力されるまでには,いくつかの異なる技術を経る。それぞれの技術にも歴史と用語がある。今日的にいえば,フォントは出力される文字の形状データであり,文字デザインにはタイプフェイスの世界がある。タイプフェイスからフォントに至るまでには,かなり長い制作の過程がある。

 タイプフェイスは文字のデザインであるが,その訳語として「書体」が使われている。書体とは,いわば文字のビジュアル化のポリシーのようなものである。「明朝体はタテ線がヨコ線より太い」「丸ゴシック系は筆跡の再現はせずに,文字の要素の形状をシンプルにしている」「教科書体は小学校の先生が黒板で漢字の書き方を教える形に近い」など明示的,あるいは暗示的なポリシーが文字デザインの奥にある。

 さらに同じ明朝体でも,いろいろな表情がある。力強いもの,おおらかなもの,幾何学的でモダンなものなどの個性があって,その個性を使って印刷物の文章表現に「味付け」をする。タイプフェイスをデザインする前に,必ずしも用途を厳密に想定しているわけではない。しかし,個々の文字の形を越えた全体の雰囲気としての「表情」なり「味」を明確にすることが,タイプフェイスのデザインである。

 昔は原字を手で描いていたので,何千もある日本語の文字セットを描き始めた時点と,最後のころでは,相当時間が経過して,「表情」なり「味」が変わることもあった。今は,文字のエレメントからデジタルで作るようなツールもあり,一貫したデザインが行いやすくなった。エレメントとは,明朝体の漢字でいえば「起筆」「止め」「払い」などを指す。

 ある程度の文字セットを通しての基本的なデザインができると,それを基にしたバリエーションが作られる。一番重要なのは太さのバリエーションで,文字を組んだ時の「黒み,強さ,重さ」を決める要素である。この作業は文字数の多い日本語では大変なのだが,制作のデジタル化で,最も太いデザイン,中間,最も細いデザインの原字をコンピュータで処理して,それらの間を埋める太さを作り出すようになった。この太さのことをウエイトと呼ぶ。

 一体,何段階の太さのバリエーションが必要かという問いに,答えはない。同じ原字でも出力装置によって太さは異なってくるし,その後フィルムに出して製版すれば,その段階でも太さは変化する。印刷段階ではさらに太くなる。こういう工程変量があらかじめわかっていれば,フォントデザインに補正をかけることもできる。かつては,各社の写植の出力装置に合わせて補正がされていた。工程を経ることでどれだけ文字が太るかは,ケースバイケースで一定しない。そのため,どのような場合にも使えるフォントにするためには,太さのバリエーションが少しずつ変化するように,1つの基本デザインで数段階から十段階のウエイトのフォントを開発する。

 欧文では,イタリックや幅の異なるフォントも,基本フォントのバリエーションとして設計される。これらのバリエーションを含んだ全体をフォントファミリーという。フォントを選ぶには文字組版のテストをして,文字サイズ,行長,行間などとともにウエイトを決める。フォントファミリー一式を手元にそろえていないと,自由な紙面設計は難しい。

フォント

 フォントは,印刷(あるいは表示)のための文字の一式セットを指す。活字でもデジタル化された形状データであっても,英文ならキーボードにあるような範囲のセットを意味する。ここに含まれる文字のレパートリーを字種という。「同じデザインのフォントでも,ドイツ語とフランス語では字種に若干の違いがある」というような表現になる。

 日本語フォントの字種としては,日本語ワードプロセッサの誕生以来,JISの第1/第2水準の文字セットが対象であって,これに合わせてフォントも制作されてきた。近年は,Unicodeに合わせた文字セットも多くなりつつある。Unicodeすべての字種に対応したものもある。しかし,その漢字部分(CJK)や,Jカラム(日本のJIS相当),またこれとは別にJISの第3/第4水準などが,Unicodeのどの部分に対応しているかは,それぞれのフォント制作者ごとに解釈が異なっているのが現実である。

 フォントは印刷(表示)装置に組み込む部品である。活字を凸版印刷機に組み込むように,デジタルフォントはプリンタ,イメージセッタ,RIP,パソコン本体に組み込むソフトウエア部品であり,組み込むことを「実装」という。プリンタやパソコンOSにあらかじめ組み込まれて販売されるものと,利用者が後から組み込むものとがある。後者はアフターマーケットフォントと呼ばれていた。つまりフォントのパッケージソフト商品である。

 タイプフェイスのデザインをデジタルのシステムで行っても,そのままではパッケージソフトにはならない。今日では一般に,文字形状のアウトラインを座標値と関数で表現したプログラムにするアウトラインフォントが使われる。こういった方法をベクター図形といい,原データの品質を崩さずに自由な大きさに出力できるようになる。

 フォントを出力,表示するパソコンや出力機/RIPでは,アウトライン情報から必要なサイズの文字の形を計算し,その中を塗りつぶす。これをレンダリングといい,レンダリングエンジンはアウトラインのプログラム方式に対応する必要がある。

 アウトラインフォントのプログラム技術は,線分情報をどういう関数で表すか,座標値はどういった範囲をとるか,どのような線の種類があるか,ヒントと呼ばれるレンダリング時にどういう補正をするかなどを総合化したもので,これをフォント記述という。Type1やTrueTypeがその代表例で,フォント記述はどちらも公開されている。それと別に,個々の文字図形をフォントファイル内に配列する方法もあり,これを含めてフォントフォーマットという。

フォントの実装

 個々の文字図形(グリフ)のフォント記述から,フォントファイルを構成することがフォント実装である。もともと,欧米のフォントは1バイト256字の範囲に収まったので,そのフォーマットには漢字セットは入らなかった。日本語PostScriptフォントでは,1バイトフォントを2段階経由して,アウトライン情報を取り出すOCFという「階層化した実装方法」をとっていた。

 フォントを使う側では,DTPなどのアプリケーションがページにある文字列から,文字コードと位置,向き,サイズなどの情報を付加してレンダリングエンジンに送り,ビットマップ化された文字図形(グリフ)が表示される。ここでは,同じ文字コードでもタテ組みとヨコ組みで形状が異なるものの処理や,英文のfとiが続けて出現するとfiという合字に置き換えるなど,文字コードとグリフの対応に関する処理も行う。

 AdobeのCIDフォントは,フォント記述はOCFと同じType1であっても,マルチバイトの文字コードに対応している。文字コードとグリフの対応関係を柔軟に処理できるように,実装面で進化させたフォントフォーマットである。ただ,CIDの実装方法は公開されておらず,ライセンス契約のないところでは対処できなかった。長い間,Type1はPostScriptRIPやAdobeATMがある環境で使われ,一方,TrueTypeはMacOSやWindows自体がレンダリングするので,どこでも使えるという差があった。しかし,どのフォント記述にも使えるフォーマットとして,MicrosoftとAdobeがOpen Typeを開発し,それぞれのOSでどちらのフォント記述もレンダリングできるようになる。Open Typeはフォントファイルの構造も公開されている。

 OpenTypeは従来のフォントフォーマットのさまざまな制約を取り払うとともに,マルチメディア対応の機能も盛り込める。そのため,1つのフォントが非常に多くの局面で使えるようになり,「フォントの世界」の活性化につながると期待されている。

2000/12/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会