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良い印刷物設計とは----いまこそ必要な論理的制作態度

Studio Flash Cube 和田義徳

■やはり印刷物は不可欠

かつては企業の宣伝物と言えばそれは間違いなく印刷物であった。会社案内であれ社内報であれ商品カタログであれとにかく印刷であった。しかし現在はインターネットに代表される情報技術の発展の結果,メディアは多様化している。CDによる会社案内やマニュアルをはじめ,イントラネットによる社内報やメールによるDM,ホームページでのイベント告知など電子メディアを使用した広報・宣伝はあたりまえのものになっている。いうなれば多メディア時代と言えるかも知れない。

では,印刷物はその歴史的使命を終えたのであろうか? いや,そうではない。とりあえず事実を伝えるだけならともかく,「思想や理念」あるいは「情緒や感動」などといった幾分複雑に入り組んだ心理や意味を伝達するのに携帯電話は使えない。客観的な事実の伝達であっても比較検討や詳しい分析にはディスプレイではなくやはり紙媒体が不可欠なのである。つまり目的や用途を踏まえて適切に制作された良い印刷物は今後もますます必要であり効果的なのだ。

■印刷物の存在理由を明確に

「印刷物は必要であり,効果的である」。だが,そのことを適切に顧客に説明できなければ,多メディア時代の波に沈んでしまう。提案しようとしている印刷物は,なぜ電子メディアでは不十分なのか,どうして印刷物として作るのか,なぜその色を使用し,どうしてこのデザインなのか,いわばその印刷物の存在理由を明確に説明できなければならない。

商業印刷物はもとより芸術作品ではない。あらためてそのことを認識し,合理的に的確に制作するとともに,提案に際して正しく説明することが必要となっているのである。これまで主たる伝達手段が印刷物のみであった時代にはある程度そうしたことがあいまいであってもなんとかなっていたのも事実であろう。だがもうそれでは通用しない。 他メディアとの競合がなくなんでも印刷という時代とは違ってきているのである。積極的に良い印刷物を制作し,ビジネスチャンスを広げて行くには,印刷物の存在理由を明確に説明できることが第一条件としてまず必要である。

最近よく耳にする言葉に,アカウンタビリティ(説明責任:accountability)というのがある。たとえば「商品などの安全性や適切な使用方法について消費者にはっきりと説明をしておく義務がメーカー側にある」というような場合に「アカウンタビリティがある」などと言う。その意味で言えばコストもかかり複雑な情報や構成を持った商業印刷物に説明責任がないはずはないであろう。印刷会社やデザイナーはクライアントに対してアカウンタビリティを負っているのである。それに応えるには,制作の初期の段階から一貫して,論理的で適切な考え方で作業を進行させなければならない。論理的,合理的な制作進行なしに論理的,合理的な説明をすることは不可能なのである。「なんとなくこのデザインが良い」とか「この色が好きだから」程度のことしか言えないようでは印刷物は売れなくなると考えた方がよいであろう。このことを営業マンであれオペレーターであれデザイナーであれ関係者一同の共有の認識としておくことが必要である。

■経営には感性,デザインには論理が必要

新聞をひらけばIT(情報技術)という言葉を目にしないことはない昨今である。いわゆるグローバル化の波の中で各企業はITを新たな経営資源とみなし,その開発や整備に余念がない。当然,経営者の感性や資質によって企業ごとに対応は違っているのだが,一部の企業では情報部門の最高責任者(CIO:Chief Information Officer)の役割や地位が変化してきている。単なるIT部門の担当者としてしか見られなかった立場から,経営に参画するべき重要な役割へとCIOの意味が変わってきているのである。つまり企業にとっての情報関連の計画や理念の持ち方,その伝達方法の選択や開発など,いうなれば「情報戦略」の重要性があらためて認識されてきている。こうした視点から社員の再教育が始まったり,優秀なCIOの獲得競争も激しさを増しているともいう。

考えてみればこのような各企業こそが,実は印刷会社の顧客であり,デザイナーにとってのクライアントなのである。そして,印刷やデザインは企業の情報戦略活動の一翼を確実に担っている存在なのである。

関連してDTP時代のレイアウト方法論というテーマで,DTPはレイアウトデザインの向上にどんな影響を及ぼしたのか,レイアウトデザインの考え方や技法はDTPに生かされているか,DTPでデザインを行う際に考えなければならないことは何かをとりあげるセミナーを6月21日に行います。奮ってご参加ください。

2001/06/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会