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第3フェーズに入った枚葉印刷機の進化

平版印刷機械は、この40年間で2つの大きな進化のフェーズを経てきた。第1のフェーズは、品質の安定とスピードアップを中心とした性能アップの段階で、現在の平版印刷機の基盤を作った時である。第2フェーズでは、各種調整機能のリモートコントロールから始まり、これを土台としたプリセット化や刷版自動交換装置のような脱技能、省力化が進められた。この第2フェーズの進化によって、平版印刷機はコンピュータがコントロールするメカトロニクス化した機械になった。
そしていま、印刷物制作のデジタルワークフローによって、プリプレスから後加工工程までを統合的に管理するCIM(Computer Integrated Manufactuering)システムを目指した第3フェーズの進化が始まった。

将来を睨みながら、いまも有効な新技術

CIMの実現には、非常に広範囲の技術が一つのシステムとして統合化されなければならないから、一朝一夕にして出来るものではないし、必要な全ての要素が揃ってある日突然CIMシステムが出来ました、ということにもならない。また、実用技術は、ある部分だけが優れても全体の効率が上がらないから一部分だけが突出して進むことはない。
したがって、技術の進歩は螺旋階段を上るようにいろいろな技術要素がそれぞれ一段進歩し、それが一巡するとより高い次元での改善の新たなサイクルが始まる形で進んでいく。 その過程で、品質向上や生産性向上に役立つ要素はどんどん実用に供されていくことになる。CIP3対応インキコントロールシステム、DI印刷機あるいは新しい印刷物品質管理システムも、それぞれに今現在の生産現場の中でその有用性を発揮しながら、印刷物生産のCIMの重要な要素技術として磨きが掛けられていくことになる。

進化の第3フェーズにおける品質管理システム

いま話題のカラーマネジメントの考え方自体は古くからある。印刷機械での色再現を基準として、印刷段階の工程変量(ドットゲイン量など)を刷版工程、校正刷り、フィルム工程にフィードバックして、原稿を忠実に再現しようとするものである。

現在のカラーマネージメントは、プリプレス工程でDTP用 CRTモニタが使われ,校正ではDDCPが使われ,印刷についても従来のウエットインキでの印刷以外にインキジェット方式などのデジタル印刷が行なわれるという環境を前提として考えなければならない。したがって、さまざまな設備の再現特性をCIEのLabで表される色空間に引き当ててその差をICC(International Color Consortium)プロファイルとしてデータ化し、色を合わせていくというやり方になる。
従来のように、校正刷りと本機刷りを合わせる範囲であれば、熟練の印刷機械オペレータが印刷機を調整して色を合わせるということも可能だったが、合わせるべきものとしてDTPのモニターまで含むと、データに基づいた仕組みで合わせる以外の方法は通用しなくなる。

応用用途が広いプロファイル作成システム

カラーマネージメントを行なうための印刷側の問題は、機械の再現特性を捉える(プロファイル作成)のコストと手間であった。そこで、プロファイル作成の繁雑さや実際の仕事を止めてまでカラーチャートを印刷することの非現実性を排除し、実際の仕事をやりながら、印刷機のオペレーターにほとんど負担をかけずに各印刷機のプロファイルを作成できるシステムが開発された。
本システムの基本的な目的は、各印刷機の再現特性を捕らえて刷版工程にフィードバックすることであるが、それ以外に、各印刷機が印刷再現を保っているか否かの確認や印刷機械毎の差を知ることにも利用できる。

より有用性を発揮する自動インキコントロール

カラーマネージメントシステムが機能すると、印刷機は「オペレータが校正に合わせて印刷機を調整する」ものから,あらかじめ作られたカラープロファイルに合うよう調整された状態で運転されることになり、印刷段階における色再現管理のポイントは、本刷り中の色の安定化が焦点となる。したがって、印刷結果を読み取って、その結果をインキコントロール等にフィードバックして自動調整するシステムは、以前にも増して有用性を発揮することになる。
カラーパッチの濃度測定からインキキー調整までを自動で行う品質管理システムは既に出されてきたが、絵柄そのものからLab系の色情報を採取,制御するシステムは、印刷機もカラーディスプレイへの出力を含む多様な出力の一部として扱うという大きな転換を視野に入れたものである。

印刷機のリモート診断

オフセット印刷機をネットワークの端末出力機と位置付けると、印刷機械の予防メンテナンスを通信を通じて監視するような機能も持たせることが可能になる。
機械停止の要因とトラブルシューティングが集中コントロールシステムに表示される「オンサイト故障診断支援」機能とともにメーカーの工場あるいは販売会社からインターネットまたは電話回線を通して印刷機械の状態をモニタリングし、その結果をメンテナンスアラームとして情報提供する機能を持たせた印刷機も出始めた。

DI印刷機は必然のコンセプト

印刷機の第3フェーズの進化にとって、CTPとプリプレスと印刷工程を統合するCIP3の意義は大きい。CIMでは、ジョブファイルに含まれる印刷データ,管理情報が、通信ネットワークの上を縦横に流れ、それぞれの役割りを果たす生産機械、管理システムのコンピュータに伝えられる。

CIP3のインキコントロールシステムは、CTP用に作られたデジタルデータでインキ量コントロールをするが、ジョブファイルに含まれるデータであれば、印刷機のインキ量調整以外の調整や後加工機の各種調整も可能である。インキ量コントロールがまず実用化したのは、既に画像面積を読み取ってインキ量をコントロールするシステムが実用化されていたこととCTPシステムが確立されていたからである。CTPとCIP3とをベースとしてCIMの要件である統合化を目指すと、DI印刷機のアイデアは必然的に出てくる。

CTPは、フィルム工程を省くことによって、材料費削減、時間短縮、人件費削減の効果をもたらすとともに、品質を左右させる変動要素を取り除くことによって、システムとしてより安定したものにするというメリットがある。多くの印刷会社は、メーカー,サイズさまざまな印刷機械が設置され、刷版設備も持っているからDI印刷機よりCTPの方がメリットがあると考えるだろう。

しかし、CIMへの展開だけでなく、サテライト印刷等を含めて考えるとDI印刷機はCTPとは異なる意味を持つシステムであることが理解できる。
現在、DI機については、主要印刷機メーカーだけでなくプリプレスメーカーがも含めてさまざまな方式のシステムが発表されている。大きくは、版としてCTPを用いるが、仕事ごとに版を取り付ける必要がないハイデルQM-DIのタイプと、いわゆる版ではなく印刷機のシリンダーに直接画像を形成、印刷終了後に画像を消して次の仕事に使う「リライタブル」方式に分けることができるだろう。

出展:プリンターズサークル 2001年1月号より

2001/01/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会