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CTP導入と自社業務の再確認

VSM-Japan 久米正次(1997)

CTP導入の最終目的は、プリプレスから印刷、ポストプレスまでを統合したFA工場の実現に向けた運用にある。フィルムを前提としたシステムとCTPワークフローは多少異なった面があるのも確かで、フルデジタル化されたプリプレス作業といってもCTPを最適化に向けたワークフローへ組み替える必要がある。

導入検討の第一ステップは, 自社プリプレスと刷版工程の現状把握である。特に顧客の動向と自社との関係を確認しながら解析を進める必要がある。

1 自社事業の再確認

(1) デジタル化の推進

顧客の持ち込み資料、原稿はどの程度デジタル化されているか?
顧客からのアナログ原稿はどのように処理しているか?
どうすれば顧客側でデジタル原稿を作成できるか?
あるいは、なぜ顧客側のデジタル化は進まないのか?
自社作業のデジタル化率:ページ組版、大張り等の段階で評価
保存データの管理:ディスク、サーバ、フィルム、刷版、LAN、通信回線

これらのデータを過去数年間にわたって追跡調査をすることが望ましい。これにより将来の予測ができる。デジタル原稿が増えているのは、常識的には理解されているが、それを定量的に確認することが重要である。
また、デジタル原稿を細分化して、テキスト、イラスト、画像、写真等に仕分けし、件数だけでなく、データ量、サイズ、処理時間、工数、処理コスト等をアナログ、デジタル別に分類しておくことも肝要である。
プロセスカラー、スポットカラー、モノクロ等の種類別に、年間の処理ページ数、経費、時間、工数の状況も明確にする。
上記の業務分析に際しては、アナログ、デジタルといった視点以外にも、外注、内製、あるいは、顧客依存(持ち込み)等の調査も重要である。これにより、内製化による原価低減効果も予測が可能になる。できれば過去数年分のデータも欲しい。

これらの調査結果が纏まった段階で、これらの推移と自社の業績との対比、日本全体の市場成長率等とも比較、検討する。デジタル化が進捗していなくとも、業績が伸びていれば、誠にめでたい話になる。デジタル化が進んでいても、全体としての受注量が減っていては何にもならない。印刷産業全体のパイは大きくならない以上、その取り合いで、業績をGDP以上に伸ばさないと、未来は見えてこない。

(2) 顧客側でのデジタル化への熱意と取組

顧客側でのデジタル化の取り組み状況の把握も重要である。その主な内容は以下のようなものである。

顧客側のデジタル化の進捗度:自社よりも進んでいる、遅れている、チョボチョボ
CTP導入に対する顧客の態度:協力的か、批判的か
顧客側の業績(年間成長率)は全体として、GDP以上か、以下か、並みか?
自社への発注量:顧客業績に比例している、それ以上の延び、それ以下である。

自社のデジタル化は把握しやすいが、顧客側でのデジタル化の進捗状況を注意深く観察する必要がある。顧客が一般企業であれば顧客が作成しているデータはWindows、あるいはメインフレームに対応している。これらのデータの印刷業務が自社に発注されていない場合には別のルートで処理されている可能性が大である。つまり顧客側での選別が進んでいる可能性がある。受注量が顧客側の業績の伸びと対応していない場合には、顧客側の不満の赤信号が点滅している。
それで過去において問題を起こした仕事、あるいは、取り逃がした仕事の分析が極めて有効である。これらの逸失した仕事を解析することにより、顧客の動向、ひいては、市場の変化が見えてくる。
それで以下の症状はよく吟味する必要がある。営業マンは意外に顧客の全体像を見ていないので、情報入手のパイプは太くし、離れた位置から観察する必要がある。

非常に複雑で、自社には合わなかった。
現有の設備では処理が難しかった。
品質的に対応できなかった。
高度にデジタル的な仕事であった。
納期が合わなかった。あるいは、遅れた。
価格が折り合わなかった。

このような解析を通して、顧客サイドの仕事の変化と動向を把握することができる。これにより、自社に発注されなかったばかりでなく、引合いすら来なかったというような、恐ろしい話もみえてくる。顧客の全体業績の推移と自社への受注量、競合他社への発注量といった観点の調査は常に怠ってはならない。

これらの診断で自社の受注量が減っている/伸び悩みと判定された場合には:

顧客の方がデジタル化が進んでいる。
他社にデジタルの仕事を取られている。
つまり、デジタルの仕事を逃している。

という可能性を検討する必要がある。顧客サイドでもデジタル化、あるいは、内製化等によるコストダウンに努力していることを忘れてはいけない。自社のデジタル化の推進が受注量の拡大に繋がることを確認しながら、そのための戦略を立案する。

(3) 校正を巡る問題

校正は重要な顧客サービスである。校正は無償サービスと心得ている向きもあるが、デジタル化時代を迎えると校正の目的と経費負担についても、検討しなければならない。校正は最終印刷物に対する品質保証という概念は変わらないのだが、中身は大きく変わってきている。

最終印刷物の品質保証、校正に関して、事前の契約、合意があるのか?
校正の目的、品質、納期、提出に対して、合意があるか?
 (顧客からの要求があれば提出するという習慣は止める)
入稿から最終校了までに、校正に要した仕事量、所要時間、工数、経費等をテキスト、写真、カラー原稿について、算出をする。
校正と最終印刷物との品質標準について、顧客との合意があるのか?
あるいは、この問題について顧客からのクレームはなかったか?
これらの校正に対する費用負担について取り決めがあるか。
顧客は校正物の品質、処理方法、納期に対して、満足しているか。
顧客からの訂正要求と校正責任について、取り決めがあるか?

顧客との間で、上記項目のどこに問題があったか? 
もし、あった場合、どういうふうに収拾したか?

これらは、往々にして、一種の潜在的クレーム、あるいは、不満となっている。 顧客は、常に高品質の校正を要求しているわけではない。品質よりも迅速な提出が喜ばれる場合もある。簡易校正でも、面付け済みの原寸出力の方が全体の進行が早くなるかもしれない。ソフトプルーフでもOKなのかもしれない。過剰サービスでも過小品質でもなく、顧客の要求に合ったサービスを提供すべきである。

また、費用負担についても、顧客との間で、合理的な了解を取っておくことも肝要である。個別に請求できないからといっても、最終的には顧客に費用転嫁が行われていることには変わりない。
フルデジタルシステムの場合には、本機校正からソフトプルーフまで広範囲な選択が可能になる。デジタルシステムでは一回の修正あたりの作業量が増えるので、経費もずっとかさむことも認識する必要がある。特に訂正要求とその対処、校正内容、受注側での責任範囲、カラー標準と再現、フォント管理、これらの処理で発生した費用負担と納期遅延等については、事前に合意しておく必要がある。
校正は無償サービスという態度では、デジタル化時代を乗り切ることは出来ない。

次回は、 2 自社技術の再確認

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2001/01/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会