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CTPに向けた、工程標準化状況の確認

VSM-Japan 久米正次(1997)

CTP導入と自社業務の再確認

2 自社技術の再確認

自社技術の現状把握と再確認内容は、以下の3点である。
(1)自社の現状把握
(2)DTP手法の理解度
(3)プリプレス担当者の熟練度

(1)自社の現状把握

意外に自社のことを知らない技術者が多い。自社の経営数字からプリプレス設備、デジタル化の進捗度、さらには印刷版のサイズなどの状況把握は、後でCTPの投資計算に役立つし、自社の得意分野を知るなどの意味で有用である。

(2)「DTP手法」と「プリプレス作業者の熟練度」

CTPあるいはフルデジタルシステムでは従業員の熟練度とDTP手法への理解度が最も重要なファクターである。一般作業員といえどもDTP処理に、ある程度習熟していないと、CTPの運用は難しいかもしれない。特に中軸となる作業者を養成しておくことは必須の経営義務である。単なるDTPの知識だけでなく、自社の技術内容を正確に把握していることが肝要である。CTPを前にして、画像処理が専門なので、印刷は判りませんとか、面付けはどうなっているなどと、うろたえるようでは、見込みない。

そこで、平素からの従業員の教育とトレーニングが重要になる。社内教育と社外でのトレーニング、あるいは各種の資格取得の奨励等も有効な手段と思える。それらの資格に応じた手当ての支給も必要だろう。パソコンの前での作業能率は資質による個人差が大きい。夜遅くまで仕事をしていても、ムダ玉ばかり打っていては困る。このような訓練と教育により従業員の適性を高め、評価することは社業の発展に不可欠である。
かといって、知識偏重でも困る。現場の経験に裏打ちされた知識でなければ、役に立たない。DTP、CTPの運用には自社の印刷ワークフローの理解は必須である。すくなくとも主任クラス以上はこれらの全工程の業務経験があることが望ましい。DTP、CTPにおいても、現場での状況判断が重要であることには変わりない。CTPの管理者はスペシャリストでは勤まらない。広い視野と経験を有するジェネラリストが望ましい。

(3)自社の標準化の進捗状況

自社技術把握の最終段階は自社作業工程の標準化状況の確認作業である。プリプレスには手作業的な要素が多く、データも顧客との間を何回も往復するので生産とか,効率という意識は余りないようである。しかし合理化のためにデジタル化を推進しているのであれば、生産性、運用効率にもっと目を向ける必要がある。その場合、各作業の基準、標準が規定されている必要がある。 例えば、

印刷物の色再現、濃度範囲、文字等に対する自社の品質標準はあるか?
それらとフィルム、印刷版、校正刷りとの相関は調査したか?
また、これらの標準は定期的に見直しがされているか?
校正システムと印刷物とのカラープロファイルは存在しているか?
印刷立ち上げ作業の標準化は完成しているか?

顧客の要求している画像の品質はスクリーン線数、階調、色数のどちらを優先したら再現できるのか?

解像度、線数は印刷物への品質に、どの程度寄与しているのか?、
それらの印刷物に対する顧客の評価はどうであったか?

一律に高解像度指向の画像処理、例えば、すべて200線/二倍データで出力しておけば無難だという思考法が問題になる。最終印刷物上の再現品質を考慮したプリプレス作業、CTP操作、印刷機操作がデジタル時代では極めて重要になる。校正刷りを前にして印刷作業者が色合わせに苦労しているようでは、デジタル化どころか、経営の合理化も見込み無い。まず、自社の印刷物の品質とプリプレス上の品質との相関を正確に把握することが第一歩である。
この評価が出来ていないと、DTPに取り組んでも、CTPシステムを導入しても、効果は挙がらない。CTPは導入することが目的なのではなく、運用して合理化の成果を挙げることが目的なのである。

自社の印刷物の品質評価、保証体制、作業標準などが無い状態でCTPを運用することは無謀である。印刷版上に形成された画像は出力解像度、スクリーン線数といったパラメーターと印刷条件とが完全に顧客の目的に適合していなければならない。
顧客は、自社の技術と資材を駆使した成果である印刷物での品質を求めている。 それが印刷会社の技術であり、使命でもある。フィルム、印刷版上で解像度とか、線数を議論しても、それらと印刷品質との相関を正確に把握してないかぎり、如何に優秀で高価なスキャナー、セッターを導入しても意味がなく、単なる会社資源の無駄使いに終わる可能性がある。

(4) CTP導入による組織改革と再編成

CTPの導入は、従来印刷業務と組織を大きく変革する。まず、プリプレスと刷版制作との間の壁をなくさねばならない。フィルム(データ)を渡して「後は宜しく」では済まなくなる。刷版はプリプレス作業の一部に組み込まれてしまう。印刷条件も把握しておかないと画像処理も刷版焼きも出来ない。従来では刷版作業者が、カラー画像処理と色管理、校正、印刷条件、後工程までを理解したり、議論することは、余計なこと、あるいは、タブーとされてきた。しかし、CTPのようなフルデジタルシステムでは、このような自社の全般的な技術背景を理解しておかないと、作業そのものが不可能になり、また、過剰なコストが発生し、時間の無駄使いとなる。CTP出力はプリプレス工程の総決算である。と同時に、印刷機操作、後工程への理解なしに刷版制作はできない。従って、全社的な制作過程を完全に把握しておかないと、とんでもない刷版ができあがることになる。CTPの運用には、広範囲な知識を必要としているから、作業者の適性評価と配置は重要な経営課題である。

CTP導入時点では全社始まって以来というような組織改革と人員の入れ替えが必要になる。関係従業員の再教育、配転、同時に、新規採用といった諸問題が生じる。再教育等でできるだけ救うべきであるが、時間が足りない、適性不良等の理由で、やむを得ず配転、或いはレイオフという事態が起きる。そのために、米国においても、職能別組合の力が強いところでは、導入を断念した企業もあった。
しかし、進むデジタル化と厳しさを増す競争には勝てず、CTPを導入する企業は増大している。CTPは、このような切羽詰まったぎりぎりの決断と努力の積み重ねで普及してきたことを忘れてはいけない。CTPの導入には一大決心をもって当たらねばならない。CTPは導入しただけで、合理化が推進されるシステムではない。これを有効に使う新しい組織が絶対に必要である。

次回は、企業診断の総括

2001/01/14 00:00:00


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