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普及期を迎えたCTPの効用

日本国内のアルミプレートCTP(半裁以上)は,爆発的な普及には至っていないが,その数は500台を上回り着実に増え続けている。爆発的には普及していない要因としては,企業が

(1)投資の採算性に非常にシビアになっている
(2)平台校正前提のワークフローから脱却できない
(3)導入のために現場の合意をとるのに手間取っている

 などが挙げられる。
 しかし,既にCTPを導入している企業では,顧客を含めたワークフローの再構築や,色校正の合理化などを着実に実現し,電子送稿やリモートプルーフなど,さらに高いレベルへのステップアップを目指し,実行している。この部分が「フルデジタルワークフロー」のメリットであり,CTP化はその入り口となっている。
 一方,今までフィルム出力・色校正を外注に頼っていた小さな印刷会社が,CTPを導入し,うまく活用している例もある。その事例をいくつか紹介する(「業務革新のためのCTP活用セミナー」2000.11.1より)。

小ロットフルカラーに集中化(千葉・社員11人)

 印刷会社,デザイン制作会社を顧客とする下請け専業のD&Pメディアでは,菊半裁と菊全判CTPを千葉と東京に,各1台導入している。商品の90%以上がプロセスカラーで,2000年4月には,東京・秋葉原にCTP出力センターを開設。同時に,平台校正用・本刷用CTP出力,菊半裁4色反転機による本紙・本機色校正,デジタル印刷機(DI機)を使ったオンデマンド印刷サービスを行っている。出力版数は,千葉本社が30〜40版/日(実働50%前後)である。
 同社は,バブル崩壊後の事業展開を模索し,「小ロットフルカラー」に集中化することを決定した。また,新しい事業展開を行う上で,CTPをどう活用するかを考えた。そして,現状を分析し,予測することにより,次の形態が浮かび上がってきた。

(1)CTPを利用した本紙・本機色校正業
・日本の商習慣ではDDCPはなかなか認知されないので,色校正は存続するが,平台色校正の存在意義はなくなった(本機の性能向上)
・小ロットフルカラーの究極は色校正である
(2)CTP出力センター事業の開始
・フィルム出力センターの時と同様に,CTP出力の需要は増える
(3)印刷機の生産効率の大幅向上とコスト削減
・CTP+CIP3で数値による品質管理が実現できる
・デジタル制御による品質安定化と経験の排除

 色校正の約90%はカラーレーザ機を使用しているが,品質の厳しいものについては,本紙本機色校正(有償)を勧めている。

 CTP化による生産高(付加価値)は,対前年同期比115〜120%,仕事量は140%前後となった。CTPの能力からみると,出力オペレータ1人に対し,出力データ処理2〜2.5人が,最も効率的な運用方法だと考えている(データチェック,内校,検版を含む)。4色機4〜5台(16〜20胴)に対して,CTP1台が設置目安だとみている。
 イメージセッタからCTPへと移る段階で,デジタル印刷機を導入し,印刷や製本の「くわえ」や「ドブ」「面付け」の概念を社員に教育して,CTP化に備えた。
 受注の80%が4000通し以下の台数ものであるが,導入後,変わったことがある。印刷機の稼働状況が大幅に向上して,定時間内4色台数ものが,従来の7台平均から10台平均になった。CIP3の活用で,色調整は見当合わせ時にわずかに行うだけ。機上でのゴミ消去はゼロ,焼きボケ,見当不良による再版待ちはゼロ。こうした変化により,印刷機オペレータのストレスは極端に減り,品質面に集中できると好評である。
 しかしその反面,作業者の検版・検査意識が薄れ,元データの不良(客先責任による再生産)を見逃しやすくなった。

CTP+CIP3+本機印刷が武器(東京・同23人)

 大手食品メーカーからの直請けの販促印刷物が70%を占めるオーケー印刷社では,菊全判CTP1台を運用している。同業者からの受注が残りの30%であるが,従来はイメージセッタをもたずに,製版・校正はすべて外注していた。しかしCTP導入で,外注費削減とスピードアップが図られた。現在,500版/月(全刷版数1200版/月)を出力している。今まではDTP部門と印刷機のみだったが,CTP化でインクジェット・プリンタと本機校正の2本立てにした。2000年8月に新たに印刷機を導入し,「CTP+CIP3+本機印刷」による本機校正は武器になると考えている。A4で1万2000円,B4で1万4000円(CTP出力代を除く)の価格設定をした。

 大手食品メーカーの仕事は,スピードが最優先されるので,CTPはその要望にもこたえられる。
 CTPのオペレーションは印刷機のオペレータが行うが,それは,ページ面付け指定は印刷以降の工程をよく知っている人間でないと難しいからである。
 「データ入稿→本機校正(翌々日納品)→印刷・製本(校了の翌々日納品)」という流れを想定して,1000版/月の出力を目標としている。課題は営業がデータを渡してからチェックするまでのタイムラグ。プリフライトソフトなどで営業にチェックさせることを考慮中である。

DM圧着ハガキで営業展開(東京・同14人)

 特許を取得した「スターメール」というDM用圧着ハガキ印刷を目玉に営業展開している信行印刷には,菊全判CTP1台が導入されている。制作会社などからのデータ入稿が50%を占めている。以前は,フィルムセッタ,刷版部門とも保有していなかった。CTPの高い見当精度により,印刷機の稼働率が大幅アップし,今ではフィルムからの印刷は外注に出すほどである。
 最近の稼動実績は900〜1000版で,CTP出力は50版/日(約12台)を目標としている。データ入稿・色校なし・表裏4色・5000部の仕事については,従来の4日間を2日間に短縮できた。

 全外注であったフィルム出力と刷版の約60%を,CTPによって内制化することを考えている。当初は,「製版・刷版の外注費−CTP版および現像代−設備費(償却など)−人件費(0.5人分換算)=コストダウン額」と想定していた。しかし現実には,98%が移行できており,大幅なコストダウンとなった。
 CTP専任のオペレータは置いていないため(工場長が兼任),稼動時間は4〜5時間/日。兼任作業のため,プレート自動搬送は必須であった。2%程度のヤレ版はあるが,原因の多くはオートプレートフィーダの搬送エラーである。
 先述のとおり,従来はフィルム出力をすべて外注していたので,「ヤレを出す=コストアップ」という意識を社内に徹底できた。そのため,エラーなしデータを作成するノウハウには自信がある。今後は,刷版出力サービスも視野に入れている。

CTP効果を上げるため8色機を導入(東京・同40人)

 カタログ・ポスターを中心とした中堅印刷会社のオカムラ印刷は,菊全判と菊半裁の計2台のCTPを運用している。製版部門と印刷部門を専用回線でつなぎ,データ転送して印刷機稼働率アップと短納期化を図っている。
 ポスター・カタログを中心としたカラーの商業印刷物が中心で,「色にはうるさい」仕事が多い。出力版数は,90〜100版/日/2台(半裁が多い)。
 短期的な収支計算を行い,「もっと高性能で低価格の機械が欲しい」「プレートの価格が下がってから」などと待っていては,いつまでたっても実行できないと考え,CTP導入に踏み切った。CTPへの速やかな移行のため,アナログ刷版設備を廃棄した結果,2〜3カ月でCTPを完全に立ち上げることができた。
 CTPは小ロットものが多いので,生産性向上に高い効果があるが,さらに効果を出すため,両面8色印刷機を導入した。一度に8枚のプレート供給や,高い見当精度は,CTP導入が前提といっても過言ではない。今では版の供給が追いつかないため,2台目のCTPも導入した。

 制作部(中央区)と工場(江戸川区)の2拠点を専用回線(キャリアネット)で接続している。運用パターンは以下の3種類で,現在はMO利用が主体である。

(1)制作部からDTPネイティブデータを送り,工場で面付け・RIP出力
(2)制作部からPostScriptファイルを送り,工場で面付け,RIP出力
(3)制作部で面付け・RIP済みビットマップデータを送り,工場は出力のみ(利用頻度は最も低い)

 セオリーからすると,信頼性の面で(3)のRIP済みデータ転送が優位に立つだろう。しかし,印刷工場における機械取りの都合で,面付けは印刷現場で行いたいので,(1)のパターンが最も多くなっている。通信利用は,現段階では社内便(車で10分ほどの距離)の補助的な役割になっている。


 印刷工場にCTPを設置するので,直しなどに素早く対処できるが,それにはDTP知識と経験が必要となる。ページ面付けには印刷や製本加工の知識が必須であり,DTPオペレータ教育が大変だった。
 検版は必要不可欠であるが,検版システムは工程が1つ増えることになるので,避けたい。現状では,刷り出しと印刷見本とを重ね合わせて,目視でチェックしている。作業性と正確なチェックの意味では,現状の方法(刷り出しでの比較)のほうが良いと考えている。

データ入稿で翌日納品(新潟・同63人)

 「データ入稿されたものを翌日納品」という超短納期対応を実現している吉田印刷所は,菊全判のCTPを3台運用している。同社では,MS Officeデータの出力に強みがある。印刷の標準化にも積極的で,自社のカラーチャートを作成。ポスター,カタログ,パンフレットなどの一般商業印刷が主であり,メールでの入稿も可能である。ハイデルベルグの両面8色機による本機校正を行い,印刷の数値管理によって品質の安定化を図っている。

 出力版数は2500版/月(昨年度平均実績)であり,CTPにより,特に仕事の受注形態が変わった。今までは編集からの仕事が主流だったが,デジタルでのデータ入稿が増えてきた。
 色校は,「CTP+CPC21+SM102-8P(菊全8色反転機)」による本機校正が主流。本機校正では,実際の印刷物と同じものを見てもらえるため,顧客の安心度が違う。従って,直しも少なく,色校の回数も次第に減ってきている。
 稼働状況については,社内制作したものは95%以上,外部からデータ入稿されたものは85%以上がCTPで出力されている。
 営業的な課題は,デジタルデータでの入稿件数拡大の仕掛け作りである。CTPと両面印刷機の使用による,コスト圧縮・高品質化・迅速化と,50部からのフルカラー小ロット印刷をPRしている。
 

バイオレットレーザCTPを導入(千葉・同76人)

 プリプレスから製本・後加工までの自社一貫生産を手掛ける集賛舎では,多品種小ロットのカラー印刷やビジネスフォーム,報告書などのモノクロ印刷などが中心である。
 銀塩バイオレットレーザCTP(菊全判)の国内第一号ユーザであるが,半年前にはコストが合わないと考え,CTP導入は念頭になかった。そのころは千葉支社で受注したカラーの納期短縮策として,千葉,館山間を通信で結び,原稿を電子送稿することを考えていた。それまでは,完成データのMOなどを館山に送り,翌朝からフィルム出力・刷版・印刷・製本にとりかかるため,責了から納品まで3日を要していた。それを,夜中のうちにデータ転送・フィルム出力を行い,2日に短縮することが目的だった。
 通信に適したフォーマットとしてPDF採用を考え,drupa2000を訪れたところ,バイオレットレーザCTPのイニシャルコストや,版材コストが従来よりも大幅に安いことに衝撃を受け,その場で導入を決断した。

 アナログ刷版工程では5〜6版/時の処理量だったが,導入したCTPは17版/時の処理能力である。少なくとも,2倍の生産性が見込める。
 導入したシステムでは,千葉支社から館山工場のCTPをリモコン操作できるので,夜間無人出力も可能で,リードタイム(待ち時間)の減少を期待している。色校正については,自社の印刷機とカラーマッチングさせたインクジェットプリンタなどを使用。要望によっては,本機校正で対応する場合もある。

月刊プリンターズサークル2001年1月号より)


2001/01/26 00:00:00


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