製造業である限り、コストダウンをしてより安い価格で製品を社会に提供することは当然である。したがって、製版印刷価格が20%低下したとしても、合理化によってそれ以上のコスト低減ができていれば、それは正当な競争によるものといえよう。しかし、1998年以降の価格低下は、合理化の範囲を超えたものになりつつある。
上場印刷企業の決算数字を見ると、1997年上期までは営業利益率は横ばい、あるいは若干上昇していた。製版印刷価格は、1995年から1997年時点でも低下していた。しかし、営業利益率が横ばいあるいは上昇していたのは、製造分野の合理化によって製造コストを押さえ、売上原価率を抑えることが出来たからである。しかし、1998年以降は、製造原価低減を上回る価格低下となって売上原価率が上昇し、逆に営業利益が低下した。
以上のような状況の中で行うべきことは、受注内容の見直しと今まであまり目を向けてこなかったホワイトカラーの生産性向上である。
しかしながら、仕事を切るという決断は安易に出来ることではない。さまざまな要因を考えての決断になるが、基本的にはそれぞれの仕事からどれだけの利益が出ているのかを明確にし、さらに商品別、得意先別の利益状況を客観的に把握することである。
印刷業界では、従来から売上に関する状況を把握したり、現場の生産量を把握する管理システムはかなり導入、利用されてきたが、これからは一点ごとの利益状況を把握できる管理システムが必要になる。それも、営業部門と生産各部門の利益状況が,それぞれに把握できるシステムであればより望ましい。
印刷業界は、従来から製造原価低減の努力はかなり行ってその成果も出してきた。しかし、営業、管理等のホワイトカラーの生産性向上についてはあまり目が向けられてこなかった。 印刷業界の営業一人当たり売上高はバブル崩壊以降低下しつつある。一方、営業部門の人員構成比は逆に上昇している。営業部門の人員構成比は少なくとも1970年代以降は一貫して増加してきた。それは、顧客からのニーズとしてたとえばデザインなどの印刷付帯サービス機能が求められ、それに対応することが必要になってきたからである。バブル崩壊以前は、市場全体が右肩上がりで拡大してきたので営業マンを増員しても一人当たり売上高も上昇したが、バブル崩壊後はそのような循環が利かなくなってしまったのである。
具体的には、営業マンが単なる原稿や校正の運び屋、あるいは顧客と現場のメッセンジャボーイのような業務に追い廻されている状況を改善して、新規拡大行動や顧客満足度を高めるための業務にもっと時間を割けるようにすることである。印刷会社の営業マンの行動時間を分析すると、その30%〜40%は顧客や外注先、社内各部署とのさまざまな連絡や単なる物の受け渡し業務で占められているという。また、いま盛んに言われる提案型営業を営業マン個人個人の才覚にゆだねるのではなく、組織として質の高い提案をタイムリーに行えるような体制を作り実施することが重要である。
営業活動を組織的に強化するひとつの分野は情報の共有化である。たとえば、顧客への提案というとき、すべての案件についてゼロから考えるのではタイミングの面で機会を逃してしまうだろうし、収支バランスが取れないことの方が多いのではないだろうか。そこで過去の提案案件をデータベースとして活用できるようにしておけば、必要なタイミングで的確な提案を時間とコストをかけずに出来るようになる。
もうひとつは、営業マンが単に運び屋やメッセンジャーボーイのような役割をしている業務をコンピュータと通信システムを使って大幅に削減することである。それは、営業マンにとってメリットがあるだけでなく、顧客にとっても、問い合わせに対する対応の速さや質の改善となって、顧客満足度を上げるものでもある。
IT化する仕組みの基本は、コンピュータ to コンピュータでデータ・情報を受け渡し、必要な処理を自動的に行なえるようにすることであり、人間が介在しなくても済む業務はそのシステムに移していくことである。お互いの間は通信線で繋がれていても、その両端に人間がいるのではSCM(サプライチェンマネージメント)でもEC(Electronic Commerce:電子商取引)でもない。
たとえば、顧客から現在の進行状況についてメールで問い合わせがきて、営業マンがそれを見て工務担当者にメールを転送、工務の担当者は現場の管理職に問い合わせてその結果を逆のルートを通って顧客に戻すというやり方ではダメである。顧客自らが印刷会社のウエッブを開いて、発注印刷物の進行状況をいつでも確認できるようにするのがこれからのITの使い方である。インターネットの先にはさまざまな管理用コンピュータがネットワークで繋がれており、それらのコンピュータ同士が必要な情報を相互に自動的に交換する仕組みがあってできることである。
(出典:社団法人日本印刷技術協会発行「プリンターズサークル 2001年3月号」より)
2001/02/07 00:00:00