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印刷における品質保証(CTP News)

VSM-Japan 久米正次(1997)

品質保証と校正

1 印刷における品質保証

印刷会社は印刷物を製作して、納入しているので、製造業に入るのだが、業種としての最大の特長は全てOEM製品ということである。殆ど全ての製品は特定の顧客向けにデザインされた製品で、製作された製品の全量は顧客が購入するし、他の顧客への転売はありえない。製品在庫は通常ゼロで操業できるという、他業種からみると、誠にうらやましい業種なのである。その代わり自社ブランドの製品というものは新聞社以外には存在しないという珍しい産業である。

OEM製品であるならば、まず顧客との間で製品、納期、数量、支払い等の一般的な売買契約書が取り交わされ、それに基づき、納入製品に対する品質、即ち規格、保証体制、検査要領、義務条項等を記載している製品規格書が交換されている。 印刷業でも、この手順で運営されている筈であるが、残念ながらかなりなおざりになっている感じがある。できるだけ書面による契約書を交換したいものである。

印刷の品質保証に関する問題点としては校正のあり方と色再現の保証に尽きるのではないか。校正は印刷業の最も象徴的な業務で、技術というよりは伝統的な商習慣に問題がある。もし全ての原稿が一斉に集まり、一挙にプリプレスから印刷まで仕事が流れたら、印刷ほど楽な商売はない。現実には、五月雨的に集まる原稿、止めどもなく出てくる赤字訂正と校正提出、これらの費用は勿論全て印刷側がタダで負担している。こうした長年の商慣習が印刷産業を苦しめている。

カラー校正と印刷品質

承認校正は、印刷物の品質確認を求める作業である。ここでの承認校正見本が印刷立ち上げ時の照合に使用されている。承認校正は見本であって製品ではない。 即ち、校正と印刷物とには品質上の相違があるということと印刷会社と顧客の双方が正確に認識していなければならない。 残念ながら、両者とも承認校正と印刷物との品質の相違を正確に、即ち、定量的に把握していないことが承認校正を複雑にしている。校正刷りには校正の品質、印刷物は印刷の品質があり、校正から印刷品質をどうやって推測するかということを印刷会社は顧客にキチンと説明すべきである。

これを曖昧にしておくものだから、承認校正を顧客に提示しても、印刷物の品質保証ができないという珍事があちこちで発生する。校正を見せて、その印刷仕上がりを正確に見積もり、それを顧客に説明し、納得が得られていれば、承認校正の目的は達成される。平台校正が喜ばれるのは、多分それが印刷に一番近い仕上がりだとの印象を与えるからだろう。それでも印刷物と差はなくならないから、印刷立ち上げ時に時間を使いすぎ、生産性を低下させている。

校正物から印刷品質の推定、評価を可能にするのは、その会社の技術力である。 刷り上げ立会いで、一発で校正物から推論される印刷品質に仕上げることが、印刷会社の技術を実証することになる。校正刷りを印刷担当者に渡して、「後は宜しく」では、その会社の品質保証能力どころか印刷技術も無いに等しい。使用している機器がデジタル化されているとか、高価であるということは技術力の証ではない。

カラ−校正の技術的課題は「校正出力で印刷品質を如何に保証するか」ということに尽きる。早い話、クロマリンとかマッチプリントの出力をみて、自社の印刷品質を保証できれば、なにも平台校正をする必要はない。

つまり、カラー校正で最大の問題は自社のカラー品質の標準が無いことである。 顧客の希望するカラー品質を自社の品質標準に翻訳して理解することが大切である。それには

1) 自社の印刷物の標準品質とカラー再現を把握する
2) 自社の校正の標準レベルを認識する。
3) 校正と印刷との品質の標準的ギャップを把握する。
この標準ギャップは、例えばDelta Eとなる。
4) 顧客が要求している印刷品質と現物とのフレ

顧客の頭にある印刷品質を理解することが最も重要である。しかし、顧客は印刷のプロではないから校正を見て印刷品質を想定することは一般的に不可能であろ。 それで、顧客の要求度をプロの目で翻訳、再確認をして、正確に把握することが重要である。
校正は印刷のシミュレーションなのだから、校正と印刷物との品質の差は色再現の差と定義されている。残念ながら質感重視、即ち、網点付きの校正は費用と時間が掛かりすぎるとの理由であまり推奨されていない。更に問題なのは本機校正、平台校正では運転条件の設定が複雑すぎて、正確な再現は不可能といわれている。

現代では条件設定が容易で正確な色再現が可能であるシステムの方が良いとされている。カラーマネージメント技術が進んできたこともあり、網点なしのインキジェットプリンタで十分に校正の目的:色再現は達成できる。20万円のインキジェットプリンターでも、二千万円もするApprovalでも本質的な差はない。出力標準と品質のバラツキが管理されていれば、ソフトプルーフでも充分に目的は達成される。

カラーマネージメント技術というのは使用している機器とか装置だけで実施できるのではなく、地道な工程管理に裏打ちされている技術なのである。自社の製品の品質とバラツキを確認せずに業務を展開するのは、目をつぶって丸木橋を渡るようなものである。

CTPになったからといって、特別な校正方法とかワークフローがあるわけではない。デジタル時代では「一発校正、一発印刷」が合言葉であ。印刷の短納期と低コストを標榜しながら、アナログ時代と変わらない体制で、無制限な校正と作業者任せの色合わせを繰り返していては、矛盾甚だしいというよりは、会社の浮沈にかかわる問題である。印刷の工程管理、即ち、印刷物の品質のフレは紙へのインキの着肉度を完全に管理すればよいといわれている。用紙、インキ、水等の材料の品質と管理、印刷機上でのインキ、水、紙の管理、版胴と印刷版の温度管理、印刷機の運転条件と環境条件等で、印刷物の品質がフレるといわれている。校正システムについても機器、材料、環境条件といった事柄が列挙されている。

こうした要因の指摘は多分、普通の印刷関係者なら口にできるのだが、だれもそれを定量的に検証していない。これらの工場実験が非常に困難であることは容易に推察できる。しかし、自社の生産システムの確立と合理化にはこれらの検証は欠かせない経営努力である。これらの認識と理解がなければ、CTP、CIP-3なぞ導入しても、なんの役にも立たない。

一度、自社で、校正システムの出力サンプルとそのデータによる印刷物との品質を比較する印刷試験を実施することをお勧めする。まず、顧客との間で問題となった品質を調べ上げる。つぎにその品質とそれに対応する特性値の特定を試みる。
特性値か要因かは後で吟味してもよいだろう。それらに影響を与える(と思われる)要因の数が多くなるだろうが、統計的手法に基づいたデータを集めて、解析してゆけば、品質とそのフレに影響を与えている要因、原因の絞り込みと究明が可能になる。これらの究明は半年とか一年で終わるとはかぎらない。これは永続的な作業で、根気の問題でもある。しかし、第一期としては半年程度で纏められるように目標を設定すべきであろう。

次回は、 2 キレのよい印刷

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2001/02/04 00:00:00


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