本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

キレのよい印刷(CTP News)

VSM-Japan 久米正次(1997)

品質保証と校正
1 印刷における品質保証

2 キレのよい印刷

印刷画像についてはキレのよい仕上がりが喜ばれる。これは世界共通の認識である。 画像の比較試験で喧々諤々の議論の果てに、選ばれる画像は必ずキレのよい印刷物である。これに反し、ネムイ画像が選ばれることは滅多にない。
新規な印刷システム、プロセスが登場すると、みな一様に注目するのは画像の仕上がりが如何にシャープであるかということである。キレがよければ、この新プロセスはgoodと評価される。

「sharper is better」、即ち、切れのよい印刷というのは誰もが認める印刷の標準である。デジタル化がいくら推進されても、フィルムからCTPへ移行しても、この規範は不動である。デジタルシステム、あるいはワークフローに対しては生産性、経済性に立脚した論議は数多くなされている。しかし、キレのよい仕上がりを追及する印刷システムとワークフローはあまり話題にならない。 そもそもキレのよい印刷がなぜよいのかも解明されていない。

「sharper is better」がなぜ問題になるかというと、シャープな印刷を目指す処理工程においては「キレのよい設定」が実行できないからである。印刷物のシャープネスが強調されるのはハイライトと中間領域に対してであり、シャドー部にはかかる要求はありえない。それでいわゆるドットゲインという修正処理が必要になる。

ところが、このシャープネス、ドットゲインが一番要求されている領域はフィルム製版、刷版制作時の現像工程で、その肝心な部分が洗い流されて、ドットロス気味に仕上がることも常識となっている。だから、シャープネスを追及する印刷物では、現像工程におけるドットロスと印刷工程でのドットゲインとの二つの効果を微妙に折り込んだ修正が強いられる。例えばSWOP標準ではドットゲインを20%に設定するのが標準とされているが、これは従来工程でのフィルムと刷版の現像処理を折り込んだ数字である。これに用紙、印刷条件を加味して、最終的にドットゲインを決定している。これは多分にアメリカ的な標準であるから、SWOPインキを使用しない日本では別の設定値を採用しなければならない。

余談:Photoshop 5では、日本のインキに対するDot Gainのデフォルト値が一部変更された。Dot Gainは自社専用のデータを使用するのが建前だからAdobeが勝手に変更したという文句を言う筋合いはない。それにしても日本ではかかる業界標準もないのだから恐れ入る。
また、Photoshop 5ではColor Profileも変更された。V-5.01では再びColorSync標準に戻された。勿論、ICM(sRGB)も使用できる。Color Profileの一件はAdobeの気遣いが感じられ面白かった。 スキャナー処理後の画像データをフィルムに出力し、刷版を焼き、印刷にまわすという処理工程において、画像はかかる摩訶不思議な変遷を遂げている。問題はこれらの変換に際して統一的な、あるいは標準的な管理手法、あるいはワークフローが存在しているのかということである。縦割りの職制の影響もあって、これらの作業単位毎にバラバラに管理されている。そして、最終的な色合わせは印刷担当者にしわ寄せがゆくというのが大方の現状ではないだろうか? 色校を渡して後は宜しくという形態になっているようだ。

最終の成果物:「sharper is better」という印刷仕上がりの責任は印刷担当者だけが頑張れば達成できるというものではない。デジタル/CTP時代では、かかる旧態依然とした無責任な縦割り組織は無益の長物である。
次の各処理段階におけるドットゲイン/色の変化に対して、自社ではどのような標準モデルを想定しているのだろうか?

トーンカーブ
ドットゲイン
カラープロファイル
UCR
Trapping
印刷時のカラー調整
このような様々な調整手段をどのように統合して、一元的に管理しているのか?
印刷物の品質保証、品質管理と色管理はどの部署の責任なのか?
校正出力と印刷物との色再現はどのように保証されているのであろうか?
印刷時の色合わせ時間の管理と解析は実行されているのか?

上記の各種のカラー管理は、夫々の段階で勝手に裁量されているようである。 自社の印刷機を念頭において画像処理をしているスキャナーオペレーターはあまりいない。 「刷版の焼き具合? 自分には関係ない!」とスキャナオペレータはいうだろう。 色再現という印刷会社の重要な保証行為を個々の作業者の裁量に任せておいてよいものだろうか?
これらのカラー管理を面倒くさいといって放り出すのは如何なものであろうか?
こうしてみると、「キレのよい印刷」ということは画像品質の技術的問題ではなく、印刷の品質管理、あるいは工程管理の問題と認識しなければならない。

CTPの世界ではフィルムが介在していない分だけ融通が利かない。画像処理条件と印刷機上での操作条件を統合した画像管理、C, M, Y, Kの各濃度とドットゲイン、あるいは細線再現に関する各種の補正を一回の刷版製作時に実行しなければならない。これはかなり難度の高い条件設定が要求される。

サーマル印刷版のドットゲインは少ないといわれているが、それは従来のフィルム/PS版システムによる色再現とは異なる調子に仕上がることを意味している。 おそらくCTPに切り替えて一番最初に直面するのは色再現の問題であろう。 従来の画像データをそのまま刷版に焼き付けると、従来とは異なる色に仕上がる。 CTPのトーンカーブ、印刷時のドットゲイン、校正システムと印刷システムとのカラープロファイルとを睨みながら色再現を保証ししなければならない。 CTP版のトーンカーブはフラットに設定して、他の変数は全てカラープロファイルに纏める。そして、これらの処理は全てスキャナー操作の段階でインプットするのが最適なルーティンといわれている。標準的なカラープロファイルとして、印刷物ではなく、校正出力を採用している会社もある。

アナログ製版から、フルデジタルのCTPに変わっても、「sharper is better」という呪文からは逃れることはできない。キレのよい印刷は永遠のテーマなのである。 新しい網点技法:FMスクリーン、水なし印刷においても、この評価基準が適用された。この評価基準は常に新規なプロセスのキーポイントなのである。 確かに、多くのカラー印刷の画像評価においてはドットロス気味な画像の方が切れが良く、見栄えが優れていると判定され、上位にランクされる傾向にある。

次回は、 3 カラーマネジメント

CTP News に戻る

2001/02/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会