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eBusinesは印刷会社にも適応されるようになった

PAGE2001基調講演より(1)

PAGE2001の展示に関して出展社数が過去最高となったが、会場は例年と同じなので、要するに小規模の出展が増えた。その典型が今回拡張したITソリューションパートナーコーナーで、その中にXML、EC、PODなどなどのゾーンを設けて、小さくてもだいたいどのような出展であるのかわかりやすくしている。現在こういったところに期待が高まっていることが現れたのだが、実際はこの印刷業界全体を見渡すと、期待よりも不安の方が高まっている時代である。

というのは20世紀末にデジタル革命があったものの、その直後に2つの壁にブチあたったようにみえるからだ。第1の壁はデジタル化による生産性とコストダウンにより、かえって仕事の価値のつけどころが激減して、新たにどこに価値付けが可能なのか見えない点である。印刷の取引きをEC化して、安く売ることはあっても、たくさん売れる可能性も見えないので、本腰が入らないという意見も聞く。

第2の壁は、印刷物のプロダクションの生産性は上がったものの、営業、工務、管理などの生産性向上が伴わないので、社内のIT化をしなければならなくなったことである。ここは従来から投資が手薄な部分であり、近年急激にいろいろ模索を始めたところもあるが、業界一般には情報の蓄積も少なく、またITも不得意でなかなか着手できないという壁がある。

PAGE2001ではこういった問題に関してはコンファレンスのセッションで個別に取り上げていて、その内容は追って順次紹介する。それぞれの会社が自分で模索することがすべてのベースになるのだが、営業、工務、管理などが個別に取り組むだけで完成するものではなく、個々のシステムを総合化しなければならない段階にきている。そのためには個別のシステム設計を全部呑み込むような大きなフレームが必要になる。

ちょうど Digtal RoadMap というプロジェクトがそれを示唆するものであったので、そのディレクタをしていたMills DavisをPAGE98の時に呼んで、デジタル化した先にネットワークで何が起るかを話してもらった。その「みんなネットワークの上で協調して仕事をするようになり、それは自動化する」という話はその後Seyboldレポートにも掲載されたし、最近のPIAのVision21にも取り込まれている。その時は概念だけの話であったのが、アメリカではこの1〜2年で現実のものとなって稼動しだしている。

今回PAGE2001でまたMills Davisを呼んで、具体例とそこにいたるステップを基調講演として話してもらった。それは一言で言えば「新しい印刷のInterprise」である。interpriseという造語の説明は後述するが、ネットワークがもたらした新しい仕事のパターンの総称である。以下Mills Davisの基調講演のあらましを紹介する。

interpriseの背景には80年代のEDIの動きがあり、それはビジネス間のコミュニケーションをシステム化しようとしたが、それぞれの相手に個別のシステムが必要で脆いものだった。それに対して今は、誰に対しても、idを示し、何をするのか、インタフェースをどうとるか、などを自動処理することが広く行えるようになった。近年ドットコム企業がたくさん出現し、それぞれバラバラなことをしているが、これはアウトソースもインソースも、どんな形の機能もインターネットで取り込めるから成り立つ。そしてそのドットコムは統合されつつある。

この傾向に対してグラフィクアーツ業界にどんな対応が必要か。Mills Davisは、複数拠点をもつ大手企業に対してグローバルビジネスのインターネット化のコンサルティングをしつつ、印刷業界にinterpriseという新たなコンセプトを理解・普及させることをしている。印刷業界は世界的にみればまだ伸びるが、一部の印刷物は他メディアに置き換えられる。書籍やビジネス用印刷物は縮小する。先進国では印刷会社自体は数が減っていく。今日従来型の印刷会社は差別化が進み、多様化している。一方印刷のドットコム的新たな会社は250ほど出現して、それらが脅威に感じられている。

脅威なのは、ITによる効率化の効用が期待できる反面、追いかけてITシステムやプロセスへ投資することが大変だからである。既に印刷会社を製品分野ごとにみて、トップ25%のグループとそれに続くグループでは、パフォーマンスや収益に5〜6倍の差があり、トップ25%以外は収益が出ないようになっている。トップグループの強みは構造変化もあるが、新たな協調関係のパターンが生まれていることによる。企業間の協調関係自体は新しいものではないが、それがネットワークを通じて行われるのが今日の課題である。これはそのうち業界全体に及ぶ。

このようにネットワークで拡大されたエンタープライズがinterpriseである。従来のエンタープライズは閉じた組織であるのに対し、外部を取り込んで機能するのがinterpriseである。プリントバイヤはいろんな印刷会社と付き合いたい。印刷会社は、バイヤとサプライヤとつながり、代理店を通す場合もある。サプライヤ同士の関係もある。またそれらを含んだより高いレベルの関係として何社か集まってコンソーシアムを作る動きがある。コンソーシアムは今いろんな業界で起きている。共通の利害の調整と、共通のシステムソリューションである。印刷会社はボリュームギャランティや共同発注で安く仕入れるのが共通の利害であるといえる。

これをネットワークで行うには、カスタムソリューションとは異なり、共通のプラットフォーム、共通の技術が必要になる。たとえば広告を出すとしてもデジタル広告なら仕様が必要で、それには知識の共有が前提となる。一緒に仕事をするには、みんながデータベースでアクセスできるようにしなければならない。ネットワークを通じて行うといっても、ネットワークの両端に人間が居て処理をするのではなく、B2Bの自動処理で進むような仕掛けや管理システムを構築するのである。こういったことの積み重ねで印刷物制作のコストを半分にすることも可能であるという。

この仕組みについては次回に述べる。

PAGE2001報告記事

2001/02/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会