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積極チャレンジが続く第5のメディア:Web

PAGE2001コンファレンス「第5のメディア:Web」セッションでは,インターネットを活用したビジネスが今どのような展開になっているのか,ECの最先端では,どのような取り組みがされているのか,をテーマにセッションが進んだ。
モデレータのイプシ・マーケティング研究所の野原社長からは,現在のEC市場を数字から解説,セッションのオリエンテーション的なお話があった。
(株)ベストリザーブの小野田社長からは,ホテル予約サイトというネット上だけに特化したビジネスを展開している立場から,インターネットの属性をどのように捉えているのか等のお話があった。
紙媒体とWeb上での情報提供サービスを展開している(株)インプレスの田村氏からは,その立場からインターネットの特性をどのように考えているのか,iモードでの活用,ブロードバンド化時代に向けてのコンテンツの活用をどのように考えているのか等のお話があった。
最後に,(株)良品計画の松井社長から,実店舗の「無印良品」との連携をめざしたマーケティングサイトとしての「ムジ・ネット」をどのように展開していくのか等のお話があった。


インターネットのビジネス利用動向
(イプシ・マーケティング研究所 代表取締役社長 野原佐和子の講演より)

まずはじめに「平成12年度電子商取引に関する市場規模・実態調査」が紹介された。2000年のBtoC EC市場は8,240億円,モバイルコマースの市場規模はそのうち590億円。その後も市場規模は拡大し,2005年にはBtoC ECは,13.3兆円,モバイルコマースはそのうち2.45兆円まで伸びると予測されている。モバイルコマースについては将来はECの内の2割を占める勢いになると見込まれている。

品目別BtoC EC市場規模は,不動産と自動車で半分を占める。これは購入する段階で商品情報を調べるのにインターネットを利用した場合もECに含めるためである。品目別モバイルEC市場は,iモードの影響を受けて,72%がエンターテイメントが占める。5年後のモバイルEC市場は,エンターテイメントの割合が少なく,現在のBtoC市場に近くなると予想されている。

インターネットのビジネス利用動向は4つに絞られる。特長的な傾向としては,以下を挙げられた。
(1)クリックス&モルタル・・・既存事業でブランド力のある企業がインターネットと連携させ,相乗効果を上げる。(例:ムジ・ネット)
(2)顧客中心ECマーケティング・・・顧客中心主義のマーケティング。ネットコミュニティを重視。(例:ベストリザーブ)
(3)ブロードバンド化・・・xDSL,CATVインターネット,光ファイバー網,FWA(Fixed Wireless Access),IMT-2000,LAN等の広帯域通信回線,双方向放送網により,ブロードバンド化が実現しつつある。(例:インプレス)
(4)モバイルコマース・・・インターネット接続可能な携帯電話によるネットビジネス。ユーザー層も10代〜20代が特徴。


インターネット宿泊予約の開花
((株)ベストリザーブ 社長 小野田純氏の講演より)

まず,インターネットの特長として,(1)オープン,(2)平等,(3)相互扶助 を挙げられた。「インターネット上でお互いが助け合う」。小野田氏はこの思想を信じ,事業を展開しているという。

インターネットにより,ユーザーのニーズは,与えられたものを消費するだけという状況から,自分の欲しいものを要求し,世の中もそれを生み出してくれることを期待できる存在へと変化した。従来から「お客様窓口」はあったが,インターネットが普及してから,この「要求」の動きは加速した。その結果,ものを一方的に売るという状況から,互いに情報をやりとりし,社会的にも快適さを手に入れることが出来るようになった。ビジネスにおいて双方向性,協働,効率化が生まれたのである。

インターネットでのホテル予約は5年前から始まったが,現在ではインターネット宿泊予約文化が定着し,インターネットホテル予約の信頼性も評価されてきた。ユーザーもインターネット上で効率的に,より良い商品を選択したいという意思を明確にし始めた。
各ホテルのHPは,信頼性が高いが,ポータルサイトは利便性が高い。そこでは,信頼性と利便性のトレードオフの状態が生じ,ユーザーは,自分の最も適したソリューションを選択する時代にきたと言ってよい。

現在の情報は非対称である。つまり,供給者側と消費者側で情報の保有量が全く違う。消費者間で情報が伝達されることにより,安くてよいものは必ず売れるというような時代が現出するだろう。あくまでも,消費者間での情報共有(相互扶助)により発展していくものである。

インターネット予約もついに花開く時代が来たが,客にとっても最適なソリューションを的確に提供できないサイトは極めて早いスピードでだめになるという世界でもある。
ベストリザーブは,ビジネス向けの宿泊予約に特化するということをコンセプトにしている。代表的なのは,「ベストリザーブ機能」これは,ホテルの部屋をベストリザーブが自ら買い取り,再販する機能である。再販することによってより安く部屋を提供することができる。

その他,「ベストストリーム構想」を立案した。これは,宿泊予約サービスを実現したいサイトとサプライヤー(ホテル)の間で情報をやりとりすることによる,データ集中管理機能サービスである。このサービスにより各販売チャネルからベストな選択ソリューションが客に提供されることになった。

最後に小野田氏は,「お客様にとって一番良いことは何か?を追求し,それをインターネット上で実現する,これからもチャレンジし続けたい」というお話をされた。大企業の非効率化が露呈され始めた現代において,社会の効率化のために事業を展開されるという,小野田氏の強い意思が伺い知れる講演だった。


インプレスにおけるメディア・イノベーション
((株)インプレス 事業開発室室長 田村明史氏の講演より)

インプレスは「マルチメディア出版」をめざして創立した会社である。田村氏はまずはじめに「インプレスのメディア沿革」として,紙媒体とCD-ROMから,電子メール⇒Web⇒EC⇒ストリーミング,衛星データ放送・・・の情報展開の歴史を説明した。

「impress Watch」のブランドパワーを生かしつつ,最近ではブランドの拡張的な発想で,gooと組み,「できるインターネット」(雑誌)とネット(クッリクス&マガジン)をイメージしたものにチャレンジしようと紙の部隊が動き始めている。

電子メールサービスを始めたのは1995年から。専門スタッフを用意し,「INTERNET Watch」を開始した。当時は料金モデルの設定にも悩んだが,300円/月を設定。情報源は,外部ネットワーク組織である「Watcher」を構築し,日本を中心にアメリカ,ヨーロッパに常時50〜60人のメンバーを配置して情報を収集した。外部組織との連携でインプレスの情報を出しているため,情報の信頼性が高い。

Webサービスは1995年から始めた。「impress Watch」を中心に「ITニュース」,「音楽」,「グラフィック」,「金融」をテーマに展開した。月間は8,000万Page Viewとなっている。ビジネスモデルは,広告収入だけである。
ECサイトも1995年から。自社製品,ソフトウェア,パソコン,CD,DVDなどのメディアと連携させたものを販売した。

同じく1995年に,文字〜画像の流れで音声ストリームを始めた。「impress-radio.com」(インターネットラジオ)の開局である。当時は,著作権処理等の問題でサーバはアメリカに設置した。ニッポン放送等と共同で始め,サッカーやバンドのインターネット放送をした。

映像ストリームは,1997年に渡辺プロダクションと共同で「w-vision.com」を立ち上げ,実験をした。2000年10月には「impress.tv」を立ち上げ,IT,音楽系を中心にやっていく方針である。

モバイルインターネットは,ドコモ,J-フォン,KDDI3社の公式メニューで有料購読モデルとして展開をしている。パソコンユーザーに情報を流すのではなく,モバイルらしさを意識し,TPOに合わせた形で情報配信をしている。

今後は,コンテンツの核にアイデア,技術,営業を入れ,コンテンツを変容させながら,ビジネスモデルをどう創造するか,というものが一番重要になってくる。コンテンツを構築する際には,常にさまざまな部隊,機能も一緒に作り上げていかなとビジネスモデルは構築されない。インプレスは,ユーザーも完全にターゲットを絞りこんでいた。イノベーター,オピニオンリーダーを完全ターゲッティングし,ユーザを広げてきた。また,パソコンユーザーの隙間を狙ったコンテンツを充実させ,仕事にも遊びにも興味がもてる内容を貫いてきた。

固定された人間の余暇をいかに各メディアが取っていくか,ということが今後の勝負になる。この考え方は,今後もイノベーションを起こす上で重要になってくるだろう。今は「メディアが何であるか」が問われる時代である。 メディアとECの間にある代替品のサービス選択を提供したり,メディア発想的な出版社がどう関わっていくかが今後は重要になる。エージャント的な発想が重要だ。

「ブロードバンド=映像」ではない。重要なのはレスポンスであり,レスポンスの早さが上がって,はじめてビジネスが構築できる。コンテンツプロバイダーは,この状況で本当に生き残れるかどうかが問われるだろう。これは出版・印刷業界にも当てはまることで,レスポンスが早くなって,はじめてビジネスモデルができるのではないか。

最後に田村氏は,「マス・メディアは壊れていくのではないか。このままの勢いでインフラが進み,情報が流れていくと,地球上が知識の濫立でパニックになるのではないか。ユーザーが何をどう選択するかということに関与することが,最終的なビジネスモデルに関わってくる問題になる。この辺りは非常にあいまいであるが,知識情報のネットワーク構造の中でコンテンツ・パブリッシャーは,どのポジションで何をするべきかが問われるようになるのではないかと思う」と語った。


ムジ・ネットの設立と挑戦
((株)良品計画およびムジ・ネット(株) 代表取締役社長 松井忠三氏の講演より)

ムジ・ネットは,2000年1月に,「ミレニー・ライフサポートビジネス」を目指すことを目的として開始した。実店舗では売れない商品,サービスをネット上で販売,無印の世界を広げることを目的としている。

1999年9月よりアメリカでネットで無印良品の商品を販売する実験を行った。アメリカには実店舗がないため,インターネット上のみの販売となる。しかし,1億円かけたが売上は600万円ほどの結果であった。このような経緯を踏まえ,さらに新しいビジネスの軸を作る目的で始めたのがきっかけである。

「MUJI.net」は,「無印良品ネットコミュニティー」と「無印良品ネットストア」(販売サイト)で成り立っている。
「無印良品ネットコミュニティー」コーナーは,当初は6社のパートナー企業とスタートした。住空間,旅空間,車空間,ライフサポートのコンセプトでまとめ,現在は12社のパートナー企業とやっている。
特に住空間は,コーポラティブハウスをコンセプトに始めた。車空間は,日産自動車と共同で,極めて「無印良品」的な仕様と内装の車の開発を進めた。既存の車種がベースになるが,これは春先に発売する予定である。これと合わせて,車に乗せる「無印」的な折りたたみ自転車も開発した。

その他,無印良品の顧客からの意見を反映させ,家電・家庭用品などを商品開発に協力したり,独自の保険やMUJICardを作り,インターネットで販売しており,これらはビジネスの柱となっている。

「無印良品ネットストア」は,衣服雑貨,生活雑貨,食品,子供用品で構成した。現在3000アイテム,実店舗の半分をネット販売している。月間で1億円の売上げがある。実店舗の売上と比べると家電,家具は功績が高い。衣料品はベビー用品,子供用品がほとんどでこれは実店舗に行けない若い母親が買っている。食品はネット上では1%しか売れない。店で買ってその場で食べるほうがいいらしい。

混乱もしたが,今のところは落ち着いてきた。現在,実店舗と変わらない売上を目指し,できるだけ使い易いサイトにしようと仕掛けと仕組みを構築中である。無印良品のコンセプトでどう商品やサービスを作るかが,一番の差別ポイントとなってくる。また,パートナー企業とどれだけ太く結べるかが柱になってくると思う。
最後に松井氏は,「立ち上げてから4ヵ月強のビジネスなので,今後はパートナー企業とのビジネスをどうやって作っていくか,どうやってネット内で販売していくかが重要になってくる。」と語った。

2001/02/21 00:00:00


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