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受発注のEC化に備える

印刷業におけるEC化、eビジネスのモデルは、印刷会社の規模や印刷物の性質に応じて異なるものである。それは、eビジネスとは、販売、生産、流通といった経営機能を、IT(インターネットとパソコン)を駆使して統合化、最適化すること、つまり経営システムの再構築だからである。特に、これからその方向への歩みを始めようとしている今現在において、各社がどのような視点からEC化に取り組み、まず最初に何を目指すのかは、それこそ千差万別にならざるをえない。
PageコンファレンスのセッションB6「受発注のEC化に備える」では、EC化の準備を始めた印刷会社、既に実現している印刷会社が、何のために、どのようなEC化を、どのようにして実現していこうと考えているかを聞いた。

現在、出版業界は非常な苦境に立たされている。それは、不景気ということではなく出版の世界の構造的な問題からくるものだから、今後ともその状況は続くと考えざるを得ない。したがって、この市場では、よりいっそうの価格低減要求、短納期要求、そして工業製品としての品質要求が強くなることは明らかである。
三松堂印刷株式会社のEC化への取り組みは、この課題に対して、CTPの導入を核にしてその能力、機能を最大限に発揮させるという視点から始まった。まず最初は生産現場でのLANの再構築を手がけ、営業、生産管理、そしてプリプレス部門の間の密な情報のやり取りが出来る環境を作った。さらに、顧客サービスの向上を目指して既存の得意先からの受注窓口、データ受付機能を持つインターネットでの受注体制を作り始めた。ここでは、XMLを基準とした共通フォーマット化と組み版プログラムの利用によって、顧客側、印刷会社側双方の制作工程の合理化も目指している。

町田印刷株式会社がECへの取り組みを考え始めた理由はコンピュータシステムにかかるコストの削減である。同社では、8年前にパソコンのLANシステムを構築した。しかし、コンピュータ機器の費用、バージョンアップの費用、システム要員などが増大する一方であった。一方、EDI取引やネットワークによるデータ交換、電子メールによる情報交換といった顧客からのニーズへの対応や社外を含む工程作業のコンピュータ化の進展とそれらをネットワークで結んで作業の連携を図って生産性向上を図ることの必要性なども感じていた。そして、これら3つの課題への対応策が、インターネットによる業務処理システムの導入とASPの利用によるシステムの再構築、つまりEDI化になった。
同社では、このシステム再構築によって期待される間接経費低減による利益を、新規設備の投資等による自社のコアコンピタンスの強化に振り向けるという。

株式会社東京印書館のECへの取り組みの目的は、生産にかかわる情報の公開、共有によって、印刷物製作にかかわる煩雑な業務を合理化し、結果として、コスト削減と顧客サービスの向上を図ることである。
同社の協力会社は刷版、印刷、加工関係で23社あり、さらに得意先が手配した加工所が40社程度ある。これら企業との間における発注、進捗管理にかかわる業務は膨大なものになる。したがって、仕様情報データベースと進捗情報データベースに、業務参加者がASPを利用してアクセスしながら、情報の共有と公開をリアルタイムに進めることで、この非能率、コストを削減しようというのが同社のECである。

現在は、協力会社との間のエキストラネットを構築中で、2001年には顧客に対するネット上での情報公開や、同業者(印刷会社)のやり取りの電子化を実験、2002年末までには生産にかかわるすべての業務をインターネット上で統合することを目指している。
同社の取り扱い商品はレディーメイド的な印刷物ではなく、オーダーメイド製品が主体なので、顧客との関係の中で、進捗管理に関しては情報の開示ができるが、見積もりについてはこれを一社で開発するのは難しく、既製品を検討するという。

大日本印刷株式会社の包装事業部のECは、「包装のデジタルコミュニケーション支援」と位置付けられている。その目的は顧客サービスの向上と業務のスピードアップ、合理化であり、そのための仕組みとして情報の一元化とネットワークを通じた情報共有システムを構築、運用する。

大きくは3つの支援分野がある。ひとつは企画デザインネットワークで、包装印刷物の原稿作成から版下製作のプロセスにおいて、パッケージの形態設計から、遠隔デザイン機能の提供、ネットワーク入稿、ネットワーク校正機能を提供する。
販促物ネットワークは同社と得意先とのあいだだけでなく、顧客の顧客にまでかかわる商品情報支援が含まれている。
資材受発注ネットワークは、得意先の営業部門、購買部門、工場、さらに印刷会社の営業部門、生産工場、外部の物流業者までを含む業務関係者が、たとえば包装資材の在庫情報を共有することによって、情報流通のタイムラグによって生じる無駄、非効率を省くことを狙ったものである。
システム構築にあたっては、一つ一つの機能をつくり、それをつなげていくことになるが、重要なことは、自動的にデータが動いていく仕組みにすることである。また、今後このような仕組みをベースとしたコラボレーションは不可避であり、それが出来ない企業は市場からはじかれていくとの見方を示した。

JAGATからは、印刷のeビジネスの全体像を話した。
印刷のeビジネスの最終目標は、コンテンツからメディアに至るプロセスの中に新しい価値を見出してビジネスを拡大していくことである。そのとき、新しいPrinting Interpriseという企業間の関係を創り、企業グループ全体として競争に勝ち利幅の大きなビジネスにしていくこと、というのがpageの基調講演で話したMills Davis 氏の見解である。つまり、印刷のeビジネスとは、いわゆる電子商取引(EC)をすることに留まるものではないということである。
印刷のeビジネスのフロントエンドに当るECは、その機能面からはオークション機能とSCM(サプライチェーンマネージメント)機能に分けられる。印刷業界では、ホームページを開いて印刷物を受注することが印刷のECである、つまり印刷物のオークションが印刷のECであるかのように見る人が多いようだがポイントはSCMにある。

Mills Davis 氏は、印刷のeビジネスは、いきなりホームランを狙うのではなく、狙い球を絞ってまず塁に出て、次々とヒットを重ねていくのがその王道であると述べた。それは、到達点のイメージは描きながら、そこに至るプロセスは、確実にメリットが出せる目標をかかげ、それを一つ一つ達成、積み上げていくべきだということである。
現在、印刷会社の経営管理にコンピュータを使うことは当たり前になっているが、多くの場合、オフコンでスタンドアローン形態のコンピュータシステムになっている。したがって、部門間の情報交換は帳票などの書類やプリントアウトされたリストなどで行なわれ、かなりの手間をかけながらも求められるスピードで業務を進めていくことが出来ない状況にある。 B to BのECが印刷のeビジネスのフロントエンドエンドだが、そのバックエンドは、SCMにおける統一的情報環境でのMIS(Management Information System)である。その第1歩は、各企業内の情報システムのオープンシステム化、LANの構築、そして管理水準のレベルアップである。これができなければ、SCMの実現もeビジネスの最終目標達成もできない。

質疑応答では、EC化に向うための共通課題として以下の2点が確認された。
1. 各社におけるコンピュータとインターネットを使いこなすための環境作りと教育
2. 営業や生産体制の見直し(例えば、24時間稼動体制にすること)
また、顧客、協力会社等、外部に進捗情報データベースを公開するということは、従来営業マンが間に入って言い繕っていたようなことは出来なくなり、従来の習慣から考えると不都合なことが起こるかも知れないが、お互いに腸も見せ合いながらコラボレーションするのでなければ目標は達成出来ないのがSCMであることも確認された。 PAGE2001 報告

2001/02/27 00:00:00


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