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コンテンツ管理はビジネスプロセス全体から見直す

PAGE2001コンファレンス「コンテンツ管理」セッションでは,コンテンツ管理の現状を技術的な側面と企業経営の側面からメスをいれた。
モデレータの富士ゼロックス(株)の軒野氏からは,コンテンツ管理の全体像に関してオリエンテーション的なお話があった。
マイクロソフト(株)の小柳津(おやいづ)氏からは,コンテンツマネジメントに関し,コンテンツ管理を技術的に支える企業として,どういう提案ができるのか,マイクロソフト自身が一企業として,どんな思想でナレッジメント・コンテンツマネジメントに対するアプローチをしてきたか,また現在実践しているのかのお話があった。
最後に,コンサルティング会社を経営される,(株)コラムの紺野社長からは経営側の視点から,コンテンツマネジメントとeビジネスとの関わりについて,ナレッジマネジメントも含めてのお話があった。


「コンテンツ管理」について
(富士ゼロックス(株) ニュービジネスセンター ブックパークプロジェクト リーダ 軒野仁孝氏の講演より)

まずはじめに,欧米のコンテンツ市場動向を紹介された。現在のコンテンツ産業界では,配信業者がコンテンツ業者を買収したり,(例:TIME WARNER)逆にコンテンツ業者が配信業者を買収したり,(例:Bertelsmann)といった垂直統合や,PEARSONのように配信そのものを買収していく方法をとらず,水平統合を行う企業も出てきた。
現在は,デジタル技術による複合メディア化が行われ,コンテンツ,メディア,配信とは簡単に括れない新しい流れの中にある。紙と放送だけであったメディア界に,インターネットが配信メディアとして認知された結果,このような産業構造を決定付けたと言える。

日本でのコンテンツ市場
出版を例にとると,メディアによって異なるプロセスを経ている。サプライチェーンを全てマネジメントしているわけでもなく,それぞれの管理体系を持って,配信だけを変えているわけでもない。常にバーティカルにバラバラになっている状況である。ミックスメディアでの提供の動きは,最近やっと出始めている状況である。日本は米国や欧米に比べ,若干の遅れがある。現在は対応に四苦八苦している状況である。

技術的変化
コンテンツに関わる分野だけでもいくつかの変化が起きている。最近は,PDAでコンテンツを読むことが話題に上がっているが,CRM,サプライチェーンマネジメントが大きく出始めている。マイクロソフトでも商品化されているが,それぞれの情報を個々が使う側の立場でカスタマイズしていく動きが環境として整いつつある。これも一つの大きな流れである。
従来のようにWeb上で誰もが均一に見えるのではなく,利用する側に立ち,目的に応じてデータを加工してしていくという新しい考え方が重要だ。一方,コンテンツを読みやすくするような新しいツールも出始めている。

2001年は,紙のドキュメントの時代から大きく変わる元年になるであろう。動画とプレゼンテーションの同時配信は2001年の目玉になると思う。デスクトップ上でニュースを見るように,動画を見ながら,プレゼンテーションを聴きながらコンテンツを見ることができるようになるだろう。

Making Contents BetterからUsing Contents Betterへ
コンテンツを作る側から使う側の視点に立ってコンテンツそのものを見ていくことが重要である。つまりコンテンツをストック(在庫)として考えていたものを,アセット(財産)化していく時期に来ている。これにより,顧客とのよりよいコミュニケーションの実現を可能にする。

コンテンツマネジメント
コンテンツは,目的によって作ったOne by Oneコンテンツから決別する時期にきているのではないか?作成したコンテンツは全てデータベース化し,利用する側は目的に応じてインターラプションを考えていくべきである。
よって,コンテンツマネジメントのエリアは,配信も含めたメディアのオペレーションからコンテンツそのもののDB,データライズマネジメント(コンテンツの管理)をしっかりしていくという3つのエリアが重要になるだろうと考えている。

into D
アウトソーシングの可能性としては,自社サービスの「into D」を紹介された。「into D」とは,企業内でのコンテンツマネージメントを自社内でやるのではなく,「お客様が望まれるような効果的な情報の共有活用をするためのWebシステムを活用した仕組みそのものを継続的に提供する」サービスである。
インターネットを使い,富士ゼロックスの持つ機能(データセンターなど)をあたかも企業の一組織のように利用できる。セキュリティ等も問題ない。

企業のコンテンツによる改革の事例としては,製造系企業の例と損保系企業の例を挙げられた。特に製造業における研究〜開発〜製造段階におけるコンテンツマネージメントの方向性は,ワークフロー・プロセスのマネジメントが中心であると述べられた。
ドキュメントであるコンテンツは,ワークフローのためのものである。それに対して,販売・情報提供プロセスにおけるコンテンツは,ナレッジ・シェアのためのツールとなっている。これらの全く違うプロセスを効果的にリンクすることによってはじめて,企業全体のコンテンツマネージメントが可能になる。各プロセスのコンテンツマネージメントの統合は,企業存続のポイントとなるだろう。企業の事業構造を変えた上で,コンテンツの仕組みを変えて行くこが必要である。コンテンツを作る側,使う側との2側面から見るだけではなく,全体をビジネスプロセスとして捉えることが重要だ。Eコマースも,コンテンツ管理と接続している。

コンテンツは作り手側のものではなく,使って初めて価値があるものである。利用者,経営,ビジネス全体のプロセスからもう一度コンテンツマネージメントを見直し,連携・統合を計っていくことが必要だ。

最後に「方向性」として,以下の4点を挙げられた。
(1)メディアとコンテンツは別個のものとして考える。
(2)ナレッジマネージメントを前提として,コンテンツマネージメントはどうあるべきかを明確にする。
(3)ビジネスプロセスを見直した上でコンテンツマネージメントそのものを再設定する。
(4)コンテンツマネジメントの具現化に際しては,アウトソーシングを含む企業連携も重要。


マイクロソフトのナレッジシステム
(マイクロソフト(株) 製品マーケティング本部 シナリオマーケティンググループ 部長 小柳津篤氏の講演より)

マイクロソフトの会社概要
全世界で2兆円強の売上(連結決算)を持っているが,日本市場は2000億円程度である。 1998年,1999年,2000年の3年連続で,MAKE(Most Admired Knowledge management Enterprise:最も賞賛されるナレッジマネジメントの実践企業)のAwardを受賞している。中でも1999年にはTop Awardを受賞した。評価は,知的資産価値の活用,継続的に学習する組織文化の確立,ナレッジマネジメントによる株主価値の向上の項目で2位を引き離した結果となった。

ナレッジマネジメント
コンテンツマネジメントを何のためにやるのかを考えていく上では,この「知的資産価値の活用」を最終的なゴールとしてイメージすることが重要である。注意したいのは,「マネジメント=管理」ではないということだ。マネジメントは,継続するために良くしていくためのものである。ナレッジメネジメントも,次にどう良くしていくかをあらゆる観点から分析することが重要である。

マイクロソフトでは,ナレッジマネジメントを未来志向の中で「何のためにやるのか」ということに関して,明確に社員にゴールが設定されている。ナレッジマネジメントは,経営品質および企業価値を向上させるために絶対にやらなければならないものだというルールになっている。企業価値とは,問題解決能力,商品開発能力,顧客対応能力である。このような企業スローガンはなかなか社員には浸透しないが,マイクロソフトの場合は明確に社員に伝えられている。

ナレッジマネジメントは学術的な迷路に迷いこみ,何のためにやるのかよく分からなくなりがちである。ナレッジマネジメントを確立するためには,(1)会社としての戦略を明確化し,(2)実際に運用する人間と組織のコミュニケーションを取り,(3)プロセスの中でどう捉えるか,そしてこれらが3つが出来た上で,(4)情報技術としてツールをどう使うかの視点で考えることが重要である。
コンテンツマネジメントを考える上では,データフォーマット,パフォーマンスだけにとらわれると,ゴールの見えないものになってしまいがちである。

Info Web
コンテンツマネジメント,ナレッジマネジメントに関連の深い「Info Web」というナレッジセンターを紹介された。Info Webとは情報検索,情報集約の窓口のアプリケーションである。コンテンツを検索する場合,単にキーワードだけでなく,人間の嗜好,住所,職種,関心のあるテーマを登録し,個人に沿った検索ができる。
新バージョンではフィードバック機能がある。例えばサービスに対する評価やシステムに対する質問もできる仕組みなっている。これに対しては,まずシステム側が返せるものは返し,機械で対応できないものに関しては,ナレッジマネージャー(運用する人間)が中身を判断し,最適なプロセスに渡していくような仕組みである。フィードバック トラッキングにより,フィードバックができるだけでなく,自分が出した質問がいまどういう段階で検討されているのかということまで分かる仕組みになっている。

ナレッジセンターシステムモデル
ナレッジセンターでは,コンテンツの出し入れやフィードバック(ナレッジサイクル)の責任者であるナレッジマネージャーがポイントになる。また,ナレッジサイクルの仕組みとなぜそのようなことをやるのかのマインドセットが重要だ。
コンテンツをどう体系化し,構造化し,フラグ立てすれば次の共有と検索につながるのかを学び,ナレッジサイクルだけでなく,これを運用する仕組みも考える。

コンテンツの出し入れ,技術要素だけを見るのではなく,もう少しそれをどう戦略としてとらえるのか,またそれらを使う人達のマインドセットをどう設定していくのか,業務プロセスをうまくミックスさせないと有機的なものとなり得ない。


企業のe戦略の視点から見るコンテント・マネジメント
((株)コラム 代表 紺野登氏の講演より)

コンテンツ管理はプラットフォームであり,いろいろな応用分野がある。企業のeビジネス化が進む現在,技術としてのコンテンツマネジメントが重要になってきている。非出版業のコンテンツマネジメントの取り組みが,既存の出版業に対してもビジネスモデルを革新していくような強いインパクトをもらしている。

まず,「要点」として以下を挙げられた。
(1)業種を問わず,IT化により企業はe戦略化の対応を迫られている。
(2)そこでは企業,商品に対する情報を有効,かつBtoB,BtoCを問わず顧客にリアルタイムに提供できるかが競争力を大きく左右する。外側の領域(BtoB,BtoC)に対応するだけでなく,内側のナレッジマネジメントに連動していかないと勝てない時代になってきた。
(3)単なる情報提供や,過去の著作物のデジタル化ではコンテント・マネジメント足りえない。 (4)コンテントとして価値を認められるには,自社の商品(著作物)に関わる知識と顧客の知識をインタラクティブ,かつダイナミックに結び付ける仕組みがなければならない。これは簡単なようで難しい。
例としては,「built to order」で有名なDELL(http://www.dell.com/)を紹介された。DELLは,実店舗がないためコンテント・マネジメントが確立され,ビジネスが成り立っている。

コンテント・マネジメントというと,デジタルコンテントと考えがちであるが,全く違う。デジタルコンテントとは,既にあるカタログ,商品説明,企業案内,書籍等のコンテントがCD-ROMなど書籍以外のデジタル記憶媒体で提供されるパッケージであり,出版物の一流通形態にすぎない。e-コンテントとは,インターネットを媒介にしてコンテント市場機会の窓を獲得するために利用可能なコンテントの総体(XML技術等がカギになる)であり,顧客の状況に合わせ,コンテントをいかようにも統合した形で提供することができるものである。
e-コンテントは,あらゆる局面でコンテントを提供,活用できるものである。ここではインタラクティブ,かつダイナミックなコンテント・マネジメントを可能とする。

コンテント・マネジメントのプラットフォーム自体で差別化しようとしても差は出ない。それ以上に,自社のコンテンツをどのように配信していくか,顧客の持つ知識をどう提供していくかのモデルを一緒に考えていかないといけない。

2001/03/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会