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枚葉印刷における環境変化への対応

以下は、去る2月22日に行なわれた社団法人日本印刷学会主催の2001年冬季セミナーの講演から、印刷関係の3つのテーマについて、同学会の許可もいただき、予稿集からの抜粋もしながら内容を絞り込んでまとめたものである。

CIMに向う統合印刷システムの現状

三菱重工株式会社の尾崎郁夫氏は、さまざまな機能を分担するコンピュータシステムがネットワークでつながり、データベースを有効に使って熟練作業の軽減と作業の効率化を実現する「統合印刷システム」の現時点での実現レベルを話した。CIM(Computer Integrated Manufacturing)に向う印刷の先端の姿である。
統合印刷システムの中核は印刷機集中制御装置で、これを中心に生産管理装置、色管理装置、プリプレスのコンピュータ、さらにはメーカー等のサービスセンターのコンピュータが繋がっている。
生産管理装置は、複数の印刷機をコントロールする群管理コンピュータである。ここでは、日々、営業が入力した受注伝票の情報の中から仕事1点毎の情報(客先名、納期、部数 予備枚数、紙サイズ等)が引き出され、印刷機への割振りおよびスケジューリング情報が加えられて各機械の印刷機刷機集中制御装置に送られる。
一方、プリプレスの作業が終了した仕事に関しては、CTP制作に使われたデータがCIP3コンバータに送られ、印刷機のインキキーコントロールに使える画線率データに変換される。そして、このデータも印刷機集中制御装置に送られる。

データベースを有効に生かす

各印刷機械は、生産管理装置から印刷機集中制御装置に送られたスケジュールに沿って仕事にかかる。刷版はCTPで刷版自動装着装置を使って印刷機に取り付けられ、見当調整、印圧調整、フィーダ、デリバリ、ローラ等の各部分の調整は印刷機集中制御装置からリモコンで行われる。
インキ量調整は、印刷機集中制御装置に組み込まれたエキスパートソフトウエアとCIP3コンバータから送られてきたデータで、刷り出しから数十枚以内で安定したインキ供給量になるように自動的に行う。再版の仕事の場合には、以前に行った各部分の調整のデータ(インキキー開度、湿しローラ回転量、見当、紙サイズ、印圧等)を呼び出して、前回の調整を容易に再現できる。

オペレータは、印刷開始時に「開始」ボタンを押すが、この情報は工場のマネージャールームにある生産管理装置に送られる。作業が終了すれば、終了報告が送られる。したがって、生産管理装置の情報を営業部門のコンピュータにまで伝わるようにしておけば、営業担当者はいつでも自分の仕事の状況を知ることができる。

僞2以内で色をコントロール

本刷り中は、色調管理装置が活躍する。色調管理装置は、印刷物に刷り込まれたカラーコントロールストリップを自動的に読み取り、あらかじめ入力された目標値(スペクトル)と計測した色の差(スペクトル偏差)を求める。そして、そのスペクトル偏差とプリプレスからネットワーク経由で提供される絵柄の面積率データ、さらに印刷機のインキ応答特性(インキキーやインキ元ローラの調整結果が印刷物上に変化として現れて安定するまでの状況)を加味してインキ量補正データを演算、その結果をネットワーク経由で印刷機の集中制御装置に送信してスペクトル偏差が最小になるようにインキ供給量を補正する。このフィードバック制御を繰り返すことによって、長時間にわたり一定した色再現を保つことができる。現時点では、僞2の範囲にコントロールできるという。

ネットワークを通じてリモート診断

印刷機集中制御装置は、印刷機の印刷状態、エラー状態を常にモニタしており、それを生産管理装置に表示する。電気的に検地可能な故障やトラブルで印刷機が停止したときには、故障診断支援装置にその情報が送られ、問題個所が調べられて印刷機集中制御装置のモニター画面上に結果を表示する。そして、オペレータがその表示箇所を押すと、対処の手順、内容が画面上に示される。

メーカーとリモートメンテナンス契約を結んでおけば、インターネットまたは電話回線を通じてメーカーのサービスセンターのホストコンピュータに印刷機械の状況を示すデータが刻々送られる。機械停止のような異常情報を受け取ると、その状況分析と履歴データのモニタリングから原因究明をして対策指示がなされたり、場合によってはサービスマンが派遣される。この仕組みは予防保全にも使われる。いままでは、一定期間単位でしていた部品交換などを、機械の実際の稼動状況に応じて、きめ細かく伝えることが出来るようになる。

生産管理全般の管理レベルアップ

印刷が終了すると、生産管理装置は各仕事ごとに実績データ(使用機械、印刷機稼働時間、印刷総枚数、製品枚数、準備時間、使用インキ等)をデータベース化して保管する。それらのデータは、期間ごとに機械の稼動分析等の統計データとして利用できるし、リピートデータとして次の生産計画にも使われる。仕事ごとの機械の設定状況も残されてリピートオーダーの場合に有効利用される。
色調管理装置は各仕事ごとの印刷状態のデータ(濃度、色座標値、ドットゲイン、トラッピングなど)を記憶装置に保存、さらに品質保証資料としてプリントアウト、得意先に渡すこともできる。
いま実現されている統合印刷システムは、省力化、作業の効率化を一歩推し進めるとともに、印刷工程における生産管理全般の管理水準を全体として引き上げる機能を持っている。

枚葉印刷機の強みは高付加価値化への対応力

株式会社小森コーポレーションの平田素康氏は、印刷価格の下落とオンデマンド印刷および小ロット対応が進むオフ輪との競合のなかで、さまざまな高付加価値化に対応できる点が枚葉印刷機の強みであるとした上で、高付加価値化には印刷と後加工の「インライン化」が大きな意味を持つと話した。

印刷における高付加価値化は「高付加価値印刷物の生産」、「短納期対応」そして「多様性、柔軟性の発揮」によって具体化できる。高付加価値印刷物の生産では、高品位印刷(高精細印刷等)と表面加工(コーティング)が考えられる。日本では、前者よりも後者の方により現実的な高付加価値化の期待がかかる。しかし、かなり高級なカタログであっても価格が問題にされるのは当然で、コストを抑えた見栄えのするコーティング加工はインラインコーティングにならざるを得ない。それは品質の安定面でも有利である。
環境問題への対応から利用が急増しているマイクロフルートの印刷は、「板紙の印刷」→「合紙」という工程が不要だから枚葉印刷業界が参入がしやすい高付加価値市場であるとの見解も述べた。

従来インキの性能を上回るVOCゼロ%のインキ

大日本インキ化学工業株式会社の寺畑正博氏は、同社が開発したVOC(揮発性有機化合物)含有ゼロ%の枚葉オフセットインキ、NCPナチュラリス100について話した。
同インキは、ビヒクルとして鉱物油は一切使わず、植物油として大豆油のみを使ったインキだが、セット性、光沢、後加工性、そして耐磨耗性において従来の大豆油インキはもとより一般の平版インキと比較しても優れた性能を持っているとのテストデータを紹介した。それは、従来インキのセットのメカニズムと大きく異なるCLS(Cross Linking Structure)という新規技術によって実現したものだが、この技術を使って幅広い適正を持つインキにするために、樹脂と助剤の新しい組み合わせとそれらの微妙な配合がカギであった。
同インキは、既に取扱説明書等の単色印刷物だけではなく、チラシ、カタログ、カレンダーなどの商業印刷物でも実績を積み始め、再生紙への印刷、OPニスやUVニスなどのコーティング適正も良好との結果を得ているという。

(出典:社団法人日本印刷技術協会 機関誌「JAGAT info 2001年3月号」より)

2001/03/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会