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デジタル印刷機と枚葉印刷機の攻防

PAGE2001におけるデジタル印刷機(物理的に固定した版を使わない方式)の出展傾向では,以下のような特徴がみられた。

1.設備の低価格化
2.高速化,耐久性向上による大量処理性能の向上
3.ランニングコストの低減化
4.高品質化,印刷可能な用紙の多様化

ターゲットは一般の枚葉印刷分野

 3〜4年前から,デジタル印刷機は,ラベル・シールなどの分野に対象市場を広げてきた。その一方で,ワンtoワン マーケティングなど,ページバリアブル機能を生かす印刷物市場に狙いを絞るものも出てきた。

 多数の顧客側を対象としたワンtoワン マーケティングの場合,印刷物制作側の体制よりも,データの内容,データ分析,発信するメッセージの内容に対して,顧客の体制と能力が整っていなければ,期待する成果は上げられない。例えばブティックのように,顧客の数が限られ,情報を発信する側が顧客の好みなどの情報を既にもっている場合には,上記のような体制は整っているといえる。必要なシステムも大掛かりなものにならないので,ビジネスになりやすい。しかし,こうしたケースでは大きなビジネスになりにくいといった問題がある。

 従って,従来の一般的な枚葉印刷分野にデジタル印刷機の当面の市場を求めることが,印刷会社側にとってもベンダーにとっても良さそうだと考えられるようになった。  印刷側としては,ページもの印刷物の受注では,収支バランスをとるために必要な点数を確保しやすく,商売としても成立させやすい。一方,コピー,プリンタ関連のベンダーとしては,いまだ未開拓な印刷市場は魅力的である。

攻防の焦点

 デジタル印刷機が既存の印刷物市場を狙う時にクリアしなければならない点は,1枚当たりコストを低減することと,印刷用紙の制約を解消することである。  印刷会社の受注内容は多様である。枚葉印刷市場の印刷枚数ひとつとっても,数百枚から数千枚と幅は広い。そう考えると,200枚,300枚以下だと既存の料金体系に合わなくなるのでは,非常に使いにくいことになる。その場合には,稼働率が低くてもペイできる低価格の設備でなければならない。一方,CTPとメカトロ化した印刷機を組み合わせたシステムによって,従来の印刷システムにおける1枚当たり単価はかなり下がってきている。

 小森コーポレーションとダイヤミックは,フレキシブルCTPプレートセッタ「コムトップ」と枚葉印刷機「リスロン20」(菊4裁),「スプリントGS」(菊半裁)をパック化した「デジタルワークソリューション」を発表した。短納期,多品種小ロット印刷市場の分野で,デジタル印刷機との採算分岐点を100枚以下にまで下げることも視野に入れている。  以上のような背景のなか,小ロットのモノクロページもの市場を狙って,高耐久性をもたせ,1枚当たりコストを下げたモノクロデジタル印刷機の発売が相次ぎ,販売実績も好調のようである。

2円を切る1枚当たりコスト

 設楽印刷機材の「CleverPressMax」は,デジタル印刷機の低価格化,低ランニングコスト化の先陣を切った。CleverPressMaxは75枚/分(A4横)のモノクロオンデマンド印刷機で,MacintoshやWindowsからのデジタルデータ出力に対応する。電子丁合い+中綴じ・中折り,小口断裁,ステイプル製本,自動ノンブル,表紙挿入など,ページもののオンデマンド印刷機能を備えている。用紙斤量は50〜200g/m2,サイズはハガキ,B6〜A3ワイドに対応している。また,反射原稿をスキャンして最大1200ページ相当を保存でき,保存したデータを専用ソフトで追加・修正・結合など操作できる。同システムの最大の特色は,先述したA4横出力で75枚/分の高速出力,月間耐用枚数50万枚という大量印刷を前提とした設定と,本体価格735万円,1枚当たり1.8円というカウント料金である。

500万円を切る低価格機も登場

 日立工機は,オンデマンド出力機「DDP70」を出した。70枚/分を実現,製品寿命も2000万枚の高耐久性をもつ。両面印刷にも対応し,中折り・中綴じ,カラー印刷物の挿入機能を加えた中綴じ製本機がオプションであり(7月ごろ販売予定。価格は420万円前後。反射原稿スキャナはオプション),ブックオンデマンドとしても使える。
 DDP70は,感光ドラムなどの消耗品の長寿命化を図り,カウンタチャージなしで1枚(A4)当たり出力コストを約1.5〜1.7円に抑えている。設備価格は,ステープル綴じ,標準フィニッシャと本体の構成で,498万円である。

 モトヤの普通紙プリンタ「PressCom70」は,2000万枚までの耐刷力をもつモノクロレーザプリンタで,カウンタ料金がない。PressCom70の価格は,本体とフィニッシャおよびPSフォント17書体(モトヤ書体15書体,モリサワ書体2書体)を含めて,550万円である。
 東レ/シンボリック・コントロール(SCI)のオンデマンド印刷システム「TRALIS」(トレリス)は,高耐久性のプリントエンジンを搭載し,70枚/分という高速での大量処理に耐えられる設計で,ランニングコストも抑えている。また,中綴じ製本をインラインで行えるページもの向きの機能も備えている。

高品質で多様な紙が使えるカラーデジタル印刷機

 既存のカラー印刷市場のなかで,デジタル印刷機を安定した商売の道具として使うなら,品質と使用できる紙の多様性において,枚葉印刷機に負けない性能をもつことも重要である。
 富士ゼロックスの「Color DocuTech 60」は,解像度は600dpiで,特別に高いわけではないが,トナー方式やウエットインキによる印刷物の質感と比べても,違和感がない。見当性も向上して,シャープさが増している。文字については,オーバーラップスキャン技術とグレーフォントの組み合わせによって,1200dpi相当の文字品質を実現し,プロの印刷人から高い評価を得ている。

 Color DocuTech 60の大きな特徴のひとつは,CMYK4色の画像を紙にじかに転写するのではなく,いったん中間媒体に4色を重ね合わせた画像を作り,それを紙に転写する方式をとっている点である。これによって,紙への帯電によって引き起こされる問題を解消し,見当性も向上させている。さらに64〜280g/m2までの紙が扱え,アート,コート紙などのほか,塗工紙の印刷も可能にしている。紙サイズは,A3フルトンボ出力が可能である。

 丸紅マシナリーは,米国MGI社が開発したカラーオンデマンドプリンタ「Carte Master 2400D」を販売している。出力解像度は2400dpiの最高水準で,A4サイズ以下のショートラン印刷物(封筒,ハガキ,名刺,チケット,メニューなど)をプリントする。また,厚紙対応の画期的なカラートナー開発技術と,独自のトナー定着技術により,ミラーコート紙やコート紙などの厚紙から薄紙(70〜250g/m2)まで,幅広い印刷用紙に対応できる。

 サカタインクスの「XeikonCSP 320D」も用紙は320×470oまで,80〜300g/m2の上質・コート紙など,一般に使用されるものに適応している。  以上,PAGE2001で見られたデジタル印刷機の傾向と,いくつかの例を紹介した。ここしばらくは,デジタル印刷機と,CTP+メカトロ化した印刷機との攻防から目が離せない。 (山内亮一)

(出典:社団法人日本印刷技術協会発行「プリンターズサークル 2001年4月号」より)

2001/05/11 00:00:00


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