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カラーマネジメント導入に向けて

カラーマネジメント技術の効用については,至るところで語り尽くされており,今さら述べるまでもないだろう。現時点での究極の応用例がリモートプルーフであり,先のPAGE2001でも多くのブースで提案されていた。しかし,現実の仕事のなかで,カラーマネジメント技術がほとんど使われていないのも事実である。そこで,なぜ導入されないのか,そして導入するにはどこから手をつけたら良いのかを考えていきたい。

入り口から出口までトータルで管理

 カラーマッチングとは,極論すれば「あるものとあるものの色を,多少強引にでも合わせてしまえば良い」という,ある意味で「結果オーライ」の技術である。それはまるで,校正刷りと本機印刷のような関係である。しかし,カラーマネジメントを実現するには,関わりのある人全員が決められたルールを忠実に守らなければならない。入力から出力までの工程で,だれか1人でも「ルール違反」をすると,成り立たない。

 ルールの例を挙げてみよう。デバイスは常に一定の色再現をしていなければならない(キャリブレーション)。日によって,色が変わってしまっては無意味である。また,画像(必ずしも画像だけではないが)ファイルについては,正しいプロファイルが添付されている,もしくは適用されるべきプロファイルが明確になっている必要がある。その情報は,ワークフローの入り口から出口までリレーされることになる。そして,モニタやプリンタで表示・出力する時には,正しくセットされなければならない。

 しかし,カメラスタジオから印刷機まで,一貫した生産設備を備えているならまだしも,分業化が進んでいる場合,すべての工程を監視することは不可能に近い。一方,「ICCプロファイルさえあれば問題ない」と思われがちなことも事実である。しかし,世の中に出回っているICCプロファイルは決して精度の高いものばかりではない。間違って適用すると,かえって逆効果である。

 Photoshop5.5までは,デフォルト設定でプロファイルをエンベッドするようになっていた。そのため,ユーザが無意識に,得体のしれないプロファイルをエンベッドしてしまう危険性が高かった。Photoshop6からは,ファイルを保存する画面で,ユーザがプロファイルエンベッドをチェックしない限り,エンベッドされないようになっている。

 ICCプロファイルの中身を確認するためには,市販のプロファイル作成・編集ソフトウエアを使うことになる。色再現範囲(ガマット)を3Dの色立体で表現できるものや,サンプル画像をモニタの左右に表示させて,プロファイルの適用前後をシミュレーションできるものもある。

始めはデバイスの管理から

 カラーマネジメント技術の導入では,どこから手をつければ良いのだろうか。いきなりトータルなワークフローを考えると敷居が高くなる。一つひとつのデバイスをきちんと管理することから始めたい。

・モニタ
 入り口のデバイスとなるのがモニタである。入り口というと,スキャナをイメージしがちである。カラーマネジメントの入門書でよく見るのは,カラー原稿とスキャナ,モニタ,プリンタの絵が書いてあり,「カラー原稿をスキャニングしてモニタで見ても,プリントアウトしても,原稿と色が合います」といった解説がなされているものである。

 しかしこの例は,製版・印刷業界では当てはまらない。なぜなら,日常の仕事で,「原稿どおり」で済む仕事は少ないからである。ハイキー,ローキー,あるいは色かぶりしている原稿を使う際,印刷物上でいかに調子を整えるのかが,従来からの製版のカラーマネジメントである。スキャナのプロファイルを作成して,原稿どおりに仕上げたとしても,決してクライアントは納得しないだろう。逆に,「CMYKの網点%で色が読めるので,モニタはたとえ白黒でも構わない」という「達人」もいるだろう。

 しかし,今後はデジタルカメラやインターネットなど,RGBデータを扱う機会が急増すると予測される。RGBデータに慣れる意味でも,モニタの色管理は重要であろう。  モニタのキャリブレーションを行う方法は,大きく分けて2つある。測色計で測定したデータをコンピュータに入力して,ビデオカードからの出力信号を調整するソフトウエアキャリブレーションと,ディスプレイ内部の回路を調整して,色を補正するハードウエアキャリブレーションである。

 ソフトウエアキャリブレーションは,ディスプレイの種類を問わず,しかも安価で利用できるメリットがある。しかし,ビデオカードのRGB出力レベルを合わせる際に,輝度が下がったりするなどの弱点がある。一方,ハードウエアキャリブレーションは,価格の高いキャリブレーション機能つきのモニタを使う必要がある。

 Optical(イメージワン)はソフトウエアキャリブレーションのツールであり,PreferVision(中央無線)はハードウエアキャリブレーションのシステムである。両者とも,色温度やガンマの設定などを記述した独自のモニタプロファイルを用いて,色合わせを行う。中央無線は,ソフトウエアキャリブレーションのツールである「カラーナビ」をPAGE2001に出展し,それを用いて,高精細液晶ディスプレイとキャリブレーションモニタのカラーマッチングをデモンストレーションしていた。

 こうしたキャリブレーションのツールを用いれば,離れた場所のモニタ同士や,複数台のモニタ間での色合わせも実現可能である。  また,モニタを見る際には,外光(室内照明)の影響を考慮する必要がある。環境光は,印刷物の色評価用光源と同じく,色温度5000Kの光源を使うことが望ましい。また,遮光フードなどを用いて,外光が直接画面に写り込まないようにしたい。

・プリンタ
 最近,一躍脚光を浴びているのがインクジェットプリンタを利用した色校正である。  カラーマッチング機能をもつ,汎用インクジェットプリンタ用のソフトRIPが数多く販売されている。2001年1月に発行された米国のシーボルトレポートでは,87種類のRIPが紹介されていた。

 インクジェットプリンタの魅力は,まず機器の価格とランニングコストの安さである。次にデバイスの安定度である。これには,@一紙面内での色安定,A繰り返し出力した時の色安定,B紙やインクの色安定,C温度/湿度の変化に左右されない色安定,D出力後の色安定がある。

 インクジェットプリンタは,@とAについては抜群の安定度をもっている。Bについても,民生用の大規模ロットで,厳しい品質管理の下に製造されているため問題ない。Cについても,常温・常湿の環境であれば問題ない。Dについては,若干問題がある。この点が染料系インクの弱点であるが,これをカバーする顔料系インクを用いるものが,いくつか登場してきている。

 色再現範囲はプロセス印刷よりも大きく,カラーマネジメントのコントロールを行いやすい。また,RIPを利用してカラーマネジメントを行う場合,初期設定をしておくこともできる。その結果,オペレータはDTPアプリケーションや印刷メニューで,カラーマネジメントの細かな設定を気にしなくて済む。一方,EPSファイルは,基本的にDTPアプリケーションではカラーマネジメントが適用されない。しかし,RIPでは問題ない場合が多い。

・印刷機
 最もコントロールが難しいデバイスであり,今でも「勘と経験がものをいう」職人技が残っている。  しかし,CTPをきっかけに,カラーマネジメント技術は印刷工程にまで確実に波及しつつある。
 大日本スクリーン製造のTrueFitは,DI印刷機のTruePress544に搭載されるインライン濃度検出装置で,デリバリ部分で印刷物の濃度を読み取り,その結果と目標濃度とをリアルタイムに表示し,濃度バランスを均一に保つことを可能とした。

 オフ輪のシステムでは,クォードテック社の「CCS(カラーコントロールシステム)」というインラインの装置がある。これは,ビデオ濃度センサーで印刷中のカラーパッチ(2.5o×2o)を測定する。そして,ベタ濃度とシャドウ,中間調,ハイライト,ラッピング情報を瞬時に表示する。

 枚葉機のシステムとしては,ハイデルベルグ社のイメージコントロールがある。分光光度計で印刷物の絵柄のLab値を読み取り,基準値に対する補正値(色のズレ)を算出する。この補正値を,オンラインで印刷機に転送することが可能で,インキ量の調整が自動的に行われる。印刷物の全面を測色するので,コントロールパッチが不要である。

 こうしたシステムは,今後,続々と登場してくるだろう。しかし,全般に高価であり,最新の印刷機とセットでないと使えないことが多いため,普及するには,時間がかかるだろう。また,システムを導入しても,湿し水や仕立ての管理が必要なことには変わりない。  印刷機のメンテナンスの基準を作り,日常管理を徹底するという地道な努力が大切である。

 印刷機のプロファイルを作成したとしても,プロファイルを作成した印刷条件を維持できなければ意味がない。また,日々の仕事をこなしながら,いきなり目視管理から数値管理に切り替えるのはハードルが高い。紙の余白にパッチを入れて印刷し,ベタ濃度を測定して,日々の印刷状態を数値的に把握することから始めてみてはどうだろうか。

 ちなみに,小森コーポレーションのK-Color Profilerは,印刷機のコントロールユニットであるPDC-Sの分光光度計でカラーパッチを読み取り,印刷機のICCプロファイルを作成するものである。印刷機へのフィードバック機能はもっていない。

ワークフローを構築

 一つひとつのデバイスが管理できたら,次はトータルなカラーマネジメントワークフローの構築である。しかし,冒頭にも述べたように,自社の努力だけではコントロールしきれない部分も多くある。
 あらかじめデバイスプロファイルが必要となるCMSの仕組みは,運用を考えると煩わしい面が多い。例えば,デザイナーが手元で印刷の仕上がりをシミュレーションしたい場合には,印刷プロファイルが必要となる。しかし,クリエイティブ作業の段階で,印刷条件(印刷機,紙,インクなど)が確定していることは稀だろう。また,シミュレーションの精度を求めると,さまざまな印刷条件の組み合わせがあるため,そのプロファイルを一つひとつ作成する必要がある。しかし,作成・更新には手間やコストがかかる。作成したとしても,膨大な数のプロファイルの管理を考慮すると,現実的とはいえない。

 カラーマネジメントが幅広く普及するには,ある程度,標準的なプロファイルが必要になるだろう。また,ワークフローの構築に当たっては,デバイスプロファイルと標準化とをうまくミックスさせて,考えなければならないだろう。
 標準化のひとつの考え方として,アドビシステムズ社が提唱するカラーワーキングスペースという概念がある。これは,グループワークでクリエイティブ作業をする時に,ベースとなるカラースペースを共有化しようとするものである。

 Photoshop4では,「RGBのカラースペース=ユーザが使っているモニタのカラースペース」であり,極端なことをいうと,モニタの数だけ固有のカラースペースが存在していた。これでは,グループ間で色を共有化することは難しい。  そこで同社では,デバイスとカラースペースを分離して考え,「カラースペースは全員で同じものを使い,モニタで見る時には,各自が使用するモニタのプロファイルを利用して表示させる」仕組みを提唱している。また,印刷用途向けのカラーワーキングスペースとして,AdobeRGBを推奨している。

(出典:社団法人日本印刷技術協会発行「プリンターズサークル 2001年5月号」より)

JAGATでは2001年6月26日(火)〜6月29日(金)の連続4日間で、カラーマネージメント達成への4日間を開催します。ぜひ、参加をご検討下さい。

2001/05/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会