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DTP時代のレイアウトデザインの継承・発展

DTPの時代は、もう古い言葉であるがWYSIWYGとともに始まった。それは紙面のレイアウトを意のままにしたいという強い要望があったからである。それまでの時代は紙やフィルムを切り貼って紙面を作っていたのだが、紙面デザインをする人と、切り貼り作業をする人が別であったために、なかなか思い通りのものができないとか、時間がかかってしまうとか、誤りが入り込む余地が多くあるなどで、これが印刷物制作の最大のネックとなっていた。

しかしこれは、写植・オフセットの時代になって、活字の時代よりも自由に紙面が組めるようになったからこそ、作業が複雑化したのである。そうしてまで紙面表現を豊かにしたいという要求があったからである。
活版印刷の時代の紙面レイアウトは長らく、余白、文字サイズ、行長、行間、見出しなど工夫すべき点が画一的であった。欧文では、何でもカンでもセンター揃えにするレイアウトが伝統的に永く続いていた。これはこれで確立した美学という域まで達したのだが、それを乗り越えようという動きもでてきた。

それはバウハウスが典型で、その時代には非対象なグリッドを使う理論が提唱され、この斬新な考え方は新風を吹き込んだ。しかし実際に印刷紙面を制作する作業は非常に困難になり、時間と費用を必要としたため一般に広くは普及できなかった。この考え方は,デザイナーがレイアウトを最初に作成して、版下・製版の指定を細かく書き込んで印刷会社に渡すという流れになった。これによって印刷物のデザインに関する決定権は、組版のタイポグラファからデザイナ側に移っていった。

その後ちょうど写植の時代になり,Josef Muller-Brockmannを先頭に、スイスを中心としたデザイナグループが,グリッド問題を理論的に突き詰めていって、1961年に『The Graphic Artist』と『Design Problems』という著書を出した。それをもとに実践的な提唱がされるようになったのは『Grid Systems』が出された1980年代になってからである。

そのころからDTPの動きがでてきて、従来の写植指定と版下校正によるや紙面制作を、個々のデザイナが自分の管理下で行える可能性がでてきた。この考え方はちょうど発展途上であったDTPソフトにも反映されて、マスターページ、テンプレート、スタイルシートなどを使った「フォーマット」作りがされるようになった。
「フォーマット」の考え方は美的な追求と言うだけではなしに、ドキュメントの世界全般に及び、政府関係機関,多国籍企業などの正式書類もグリッドにもとづいたデザインがされるように広がった。

グリッドに関する説明は、『「grid the structure of graphic design」(株)ビーエヌエヌ、4500円』に詳しいので参考にされたい。この本の冒頭では、「グリッドの目的」として、グリッドは応用美学の客観性を表現するプロのツールであり,実践面での目的は反復機能、構図、伝達、の3つに大きく分けられるとしている。 以下にグリッドの目的に関する記述を引用する。

デザイナーが単独で仕事をすることはまずありえない。デザイナーの背後には4000年という連綿とした芸術の歴史があり,業界の考え方や狙い,デザイナーのアイデア,プロジェクトの予算,素材を制作した人の意図など,ありとあらゆる微妙あるいは顕著に何らかの影響を与え合っている。

反復機能
 文章や図版を配置するときに,余白やコラム(段),ベースラインをその都度書き込むことを想像してみよう。うんざりだと思うかもしれないが,ひと昔前ならごく日常的なことだったのだ。
 印刷された台紙,アセテートオーバーレイ,ページレイアウトソフトのテンプレート,文章やイラストの仕様書など,グリッドを応用したツールを使えば同じことを反復できるようになり,複数の紙面に同じように見せたり,復合的なデザインに一貫性を持たせたり,目的の違う多様なデザインに1つの会社の「コーポレートアイデンティティ」を持たせることができる。しかし,うっかり失敗すると,ミスに気がつくまでずっとそのミスが反復されてしまう。従って,基本のテンプレートを完璧に作成するためには,相当な時間を費やさなければならない。
 反復機能はグラフィックデザイナーにとって有益なだけではない。読者にとっても,いつでも期待した場所に探したいものを見つけることができるというメリットをもたらす。反復機能はグリッドの伝達機能の重要な要素と考えられている。

構図
グラフィックデザイナーは,古代ローマの美術学校から連綿と学び継がれてきた構図に対する考え方を習得するように指導を受ける。しかし,日々の実践の中でこうした高尚な原則は大まかなルールとして受けとられ,経験に基づいた改善が加えられてきた。
 グリッドには長い時間をかけて蓄積されてきた構図に関する知識がフォーマットの中に注ぎ込まれている。例えば,大量の文章でむやみに行間を変えるような融通性は慎むべきである,というような知恵である。逆に言えば,自分の独創性やセンスを発揮したい場合には,正確に行間を計るくらいの柔軟性があったほうがよいということだ。
 このような独創的なデザインの例を2つ紹介しよう。
・コンピュータを利用して,かっちりした本文テキストと,イラストや写真,ディスプレイ(見出し)文字をひと並びに合成させる。
・反復性を維持しながらも,相対関係を考えて一部を正確に強調して,読者の理解を助けられるように,エレメントのサイズや形状,バランスに気を配る。

伝達
 グラフィックデザインの目的はメッセージを人に伝達することにある−−肝心なのはこれだけだ。「メッセージ」とは,文章を書いた人間やイラストの制作者が作品に潜ませて,最も強く訴えたい思いである。つまり,そこでグリッドデザイナーの個性が目立ってはいけない。
 グリッドは,デザイナーの個性と読者の間に立つスクリーンのようなもので,メッセージの最終的な受信者にとってマイナスとなる,わずかな集中力の途切れや処理能力の不足を補うものである。グリッドには,意味のない変化や工夫を排除する働きがある。デザイナーが善かれと思ったことでも,それは単に,読者とメッセージの間を邪魔しているにすぎないことがある。
 グリッドに物事を伝達する機能があるとすれば,それは
・「雑誌の〜欄」のように,読者が定位置に同じエレメントを探せること
・デザイナーが構図や文字,空白の配置を工夫することによって,読者の関心を重要なエレメントに誘導できることにある。
 グリッドはヨーロッパ特有の表現方法ではないし,特定の言語と密接に関係するものでもない。グリッドは単なる伝達体系の一部にすぎず,グリッドの応用法は万国共通である。

関連して、レイアウトデザインとDTPというテーマで、DTPはレイアウトデザインの向上にどんな影響を及ぼしたのか、レイアウトデザインの考え方や技法はDTPに生かされているか、DTPでデザインを行う際にもっとも考えなければならないことは何かをとりあげるセミナーを、6月21日に行います。奮ってご参加ください。

2001/05/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会