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21世紀の印刷業は「コミュニケーション産業」といえるか?

前世紀つまり20世紀の終わりはコンピュータが著しく発達した時代であり、他の産業もそのあおりを受けて大きく変貌せざるをえなかった。このことはITが毎日のニュースになっているように未だに続いているが、その成り行きは大体みな想像がつくようなものとなった。コンピュータの進歩やITが産業を牽引することもだいたい2010年頃には落ちつくのではないかと見る人は多い。

だから2001年正月の特集記事を賑わしていたのはITではなく、それに代わりつつあるものとして、近年何かと世間を騒がすようになったバイオ、アイボや二足歩行のデモで話題性が高まっているロボット、それと産業分野ではナノテク、さらにもっと身近なところで不安が高まっている環境問題のソリューションであった。

これらは一見するとバラバラの現象のようにも思えるが、すべてコンピュータの発達に支えられて成り立つものであり、逆にコンピュータはそれらに奉仕するものへとシフトするだろう。なぜならITではメシ食えないし、ITで病気が癒されるわけでもないように、ITそのものが地球や人類の問題解決には直結しないからである。

だから下支え技術としてのITへの投資は当面は続くものの、次第に産業投資は現実社会で「実を結ぶ」バイオ、ロボット、ナノテク、エコなどに向かうと思われる。今はまだITが社会を変えるという雰囲気の記事も多いが、そのうちコンピュータやITは道具でしかないという認識になるのが必然だ。

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20世紀の終わりから印刷産業の将来ビジョンとして「コミュニケーション産業」と位置付けることが多かった。これはIT化に先行してひらめいた新しいビジネスモデル(のヒント)だったかもしれないが、ひょっとすると根無し草かもしれない。ITやコンピュータが道具でしかないなら、一体印刷業は何のための「コミュニケーション」をするのか? まだその目標について語る段階まで業界は至っていない。それは日本印刷産業連合会が出したPrintingFrontier21を見てもわかる。

ではなぜ印刷業が先走って「コミュニケーション産業」などと言い出したのであろうか? それは実は20世紀末に発達したコンピュータの応用分野というのは、印刷業が元来得意な分野であったから、比較的技術変化に馴染むことができたのであろう。つまり文字も、画像ももともとアナログの時のノウハウがいっぱい蓄積されていたから、コンピュータの応用が速かったのである。

一方、同じコンピュータ技術でも可視化技術から少し離れたところは必ずしも印刷業は得意ではなかったことは、DTPの後にデータベース利用や通信利用が、DTPと同じような速度で進化しなかったことからも明らかである。社会全般にわたるデジタル化のスタートポイントの段階が「文字」「画像」であったことは印刷業にとって幸運だった。しかしデジタルはそこに留まらず、例えば「動画」「音声」などのインテリジェントは処理へ向かいつつあり、そこには印刷業の過去のノウハウはない。

印刷業の先のビジョンを考えるときに、今から次第に旬に向かう技術がどのようなものであるのか、それで産業はどのように変化するのかを捉えておかなければならない。ただ過去に文字や画像をコンピュータで扱えたから、というだけでは将来に対してあまりにもアドバンテージは少ないのであるから…

お知らせ 来る6月13日のJAGAT大会の基調講演において、技術ジャーナリスト/日経BP社編集委員/放送大学客員教授/工学博士 西村 吉雄 氏が、「技術、産業、メディアのパラダイム・シフト」をテーマに基調講演いたします。ぜひご参加ください。
また、経営者対象のPremierProgram2001も参照ください。

2001/06/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会