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紙の消費は善か悪か

名刺,本,新聞,コピー用紙,段ボール箱,ノート,トイレットペーパー…。身の回りをぐるっと見渡してみると,紙の量に改めて気づかされる。1日として紙を使わない日はない。私たちの生活には,あまりにも多くの紙が入りこんでいて,その存在を強く意識することがあまりないのではないだろうか。

紙の歴史をさかのぼると,紀元前150年ころ,中国で発明された4大文明の1つとして登場したのが最初と言われている。日本には聖徳太子が摂政のころの610年,朝鮮の僧侶が紙の作り方を伝えたのが最初で,聖徳太子が紙の製造を奨励し,製紙術を改良し,その後の和紙製造の基礎を作ったことから,日本独特の流しすきによる和紙として発達していった。
中国の製紙術は1000年以上かかりヨーロッパへ伝わり,さらに400年以上もかかってヨーロッパ全土に広がり,その後アメリカへ伝わり発達した。その洋紙の技術を明治初期に取り入れて,日本の製紙産業が始まった。

長い歴史を持ち,今日の文明・文化を支えてきた紙であるが,ここにきて,環境問題,電子化による「ペーパーレス」など,紙の未来が懸念され,紙市場の展望は混沌としてきた。

日本での年間紙使用量は,1人あたり200kgで,これは芽生えてから20〜30年たった木立の約4本分に当たる。その裏返しで,日本全国で捨てられてしまう紙の量は年間約1,800万d(東京ドーム117杯分)にのぼる。紙を焼却するために,年間約150億円もの税金が投入されているという(厚生省調べ)。東京都のゴミの大半は紙である。これは,20世紀から残された大きな課題である。

一方,日本の紙の原料の約56%は古紙である。再生紙は,森林保護につながるだけでなく,紙を作る工程で避けられない汚水など地球環境への影響も少ない。プラスチックと違い,紙はリサイクルが可能だ。21世紀,リサイクルの重要性はますます問われてくるだろう。

視点を変えて,製紙,印刷業界では,オンライン化により「ペーパーレス社会」になると言われつづけ,脅かされてきたが,20世紀後半,eBookの登場により,紙の本が減るだろうという議論が現実味を帯びてされるようになった。Microsoft社の技術開発担当副社長Dick Brass氏は,eBook業界において,2020年には「販売されるタイトルのうち90%が紙ではなく電子媒体となる」と大胆な予測をしている。eBookやe-paper の普及によりペーパーレス社会になれば,紙の消費量が減り,ゴミも減るだろう。

しかしながら,紙による印刷物は,リテラシー向上を支えてきたことは見逃せない。印刷発祥の地ドイツは,ヨーロッパの国々の中で一番読み書き能力が高かった。印刷物の消費量と読み書き能力は,相関関係にあるといわれている。

世界に目を向けると,人口の多い中国やインドなどの国々で紙の消費量が増えてくることは確実だ。

21世紀に掲げられた紙の課題は,代替のデバイスとどう共存させていくか。どのような利用の仕方があるのか。そして,環境問題からのリサイクルをどう進めていくか…。

【関連事業】
JAGATでは,きたる7月25日,発明会館ホール(東京都港区虎ノ門)においてシンポジウム「2050年に紙はどうなる?」を開催する。印刷,製紙,出版物に関わる各界の方々による紙の将来展望の講演とパネルディスカッションを行う。
一緒に,紙の将来を考え,お互いに触発し合える場を持ちませんか?

岡千奈美 2001/6/25

2001/06/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会