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XMLの印刷

XMLはもともと印刷がターゲットというわけではない。SGMLと同様,印刷も含めた多様な目的に対応できるのが大きな特徴である。したがって印刷側としても,たんにXML文書を印刷するというだけではなく,XMLの特徴や利用方法まで含めた対応が必要である。
印刷側のXML対応においてポイントとなるのはどういう点だろうか。また実際にどのようにXML文書を組版し印刷すればよいのか。T&G研究会では2001年5月に「XMLと印刷」というテーマでtechセミナーを開催した。実際にXMLに取り組んでいる印刷会社やシステム提供側から話をうかがったが,今回はその中から(株)ELDの倭康司氏のお話を報告する。
ELDはコンサルティングおよびソリューション提供を行なっているベンチャー企業である。(株)エルダと結びつきを持ち,その印刷業務のノウハウと組版エンジンを利用して印刷システムの企画・構築を行うのが大きな特徴で,XMLと印刷を組み合わせる試みはELDにとってうってつけのテーマである。すでに官公庁向けの官報システムやデータ管理自動組版システム,XML文書管理システム,大学の教職員名簿データベース自動組版システム,その他XMLマニュアルシステムなどの実績がある。

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印刷に限らず,XMLのビジネスレベルの話題は次の4点に絞られる。
1. なぜXMLなのか。
2. みんなすでにXMLをやっているのか。
3. XMLを使ってほんとうにきれいに出力できるのか。
4. XMLによる組版・印刷の事例にはどういうものがあるのか。

この4点のそれぞれについて考えながらELDからの提案を紹介する。

1. どうしてXMLなのか?

XMLとは,要するにタグとタグに囲まれたテキストの仕様である。そして,そのデータをやりとりするためのルールとして,DTDを始めとしたボキャブラリがある。XMLでは関連する組織や会社がボキャブラリを決めて同じデータを使えるようにしている。ボキャブラリの標準化はいろいろな形で進められているが実際にはいろいろなボキャブラリが混在している。
XMLのデータはテキスト列だから,これを読み取って何らかのアクションを起こさなければならない。重要なのは,目的とする表現形式のそれぞれに対応したプログラムが必要だということである。逆にいえば,いろいろなプログラムを的確に用意しさえすればさまざまなサービスが提供できる。つまり,プログラムさえ用意すれば多様な表現条件を満たすさまざまのサービスが提供できるということがXMLのメリットであり,またなぜXMLかという問の解答でもある。

2. XMLはみんな使っているのか?

XML利用が進んでいるのは官公庁である。電子政府というコンセプトにより,これからも利用はどんどん広がっていくだろう。そういう意味ではこれからみんながXMLに取り組むようになるだろうとはいえる。しかし,官公庁がやるから印刷会社もやるというのはどうだろうか? たしかに電子政府のデータがXMLで入稿されるというメリットはあるだろうが,それでは工数がかかるだけでおもしろくない。よそがやっているかどうかより,そもそもXMLを導入する目的はなにか,また印刷のためのXMLはどんなものなのかを考える必要があるだろう。
いずれにしても,印刷会社がXMLに取り組む場合は,まず,XMLを使っている企業や組織から受注するケースが考えられる。この場合はXMLを受け取って自動組版するのが自然な成り行きである。入稿されるXMLデータはローカルなものや一般的なものなどさまざまだが,そうしたデータを受け取って印刷会社として生産性を上げて対応するには,体裁やデータを見直して機能追加することが必要である。
一方,受注ではなく,自社のデータソースをXML化してサービスを拡充しようというケースもある。みんなXMLをやっているのかという意味では,現在はこのパターンのユーザが多い。たとえば,今は印刷のワークフローしかなくても,XMLによってデータを囲いこむことで,後でさまざまなサービス展開ができる。最初にデータソースさえしっかり作っておけば,サービス展開するときには必要なプログラムだけ作ればよく,データを作り直す必要はない。こういうシステムを一度作り上げてしまえば他社との差別化もできる。
ただし,いずれの場合も気をつけねばならないのは,組版が楽になるからといって組版情報をどんどん付加していくと,それだけXML本来の特徴である流通性や表現の多様性が損なわれるということである。両者のバランスを考えて設計しなければならない。

3. きれいに出力する

XMLではきれいに出力できないと言われることがあるが,きれいに出力するためにはきれいに出力できる組版ソフトを使えばよい。エルダは日本語組版ソフト「Omnicap」の個々の組版命令を標準化して,プログラムのコールインタフェースを開発している。したがってXMLを使うときも,適当なメソッドをコールする仕組みを作れば組版エンジンに自動的に組版を行なわせることができる。これがELDのソリューションの大きな技術基盤である。これによってXMLを使ってきれいに組版して出力することを実現している。
XMLを使うには,必要に応じたプログラムが必要だといったが,この場合はコールインタフェースを使うことによってタグの情報を組版エンジンに渡すという仕組みを作っている。ところで,ここでELD独自のスタイルという概念がでてくる。スタイルとは組版エンジンが認識できるプロパティの集合体である。この集合体とコールインタフェースを合わせることにより,XMLのエレメントとスタイルをエンジンに渡して完璧な組版が実現できるのである。
NeoUniverseというソフトは,以上のような技術基盤に立脚し,きれいに印刷するための具体的な提案である。これは内部形式にXMLを採用したデータベースソフトであり,このソフトウェアの機能を使ってGUIでXMLデータの各ノードとスタイルの結合を行なう。ユーザはデータベースに入力し,スタイルを付ける場合は各ノードにスタイルを結合して最終的な組版を実現する。

4. 事例

すでに実際の利用例がある。まず,NeoUniverseを使った論文の管理と組版の事例である。これはクライアントが自分でデータを管理しつつ最終的に組版を行なうものだ。データの編集とスタイル設定を行ってXMLデータを作り,これを組版エンジンに渡してPSファイルとPDFファイルを出力する。また,これとはべつに,Webアプリケーションによるカタログデータの管理・組版の事例もある。これは,印刷にとらわれずにXMLを使っていろいろなところにデータを使おうというものである。Webサーバの中にデータストアという形でXMLデータを一括管理し,そこに組版エンジンも付いている。

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ELDのシステムは実績のあるエルダの技術を使っているのが最大の特徴である。組版や印刷の品質はそこから推測していただけよう。組版システム側からのXMLソリューションのひとつと考えてよい。
(JAGATinfo 2001年7月号より)

2001/07/06 00:00:00


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