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DTP豆知識(200107)版面の設計,グリッド

本コーナーでは,DTPエキスパートを目指すうえで理解しておきたいことを模擬試験形式で解説します。JAGAT認証DTPエキスパート影山史枝氏に,問題のポイントや重要点を解説していただきます。試験勉強のご参考に,またはDTPに必要な知識の確認にご活用ください。DTPエキスパート認証試験の詳細はDTPエキスパートのページをご覧ください。


問1 版面の設計

次の文の[ ]の中の正しいものを選びなさい。

 造本設計に当たっては,表紙の大きさ/厚さ/背幅などを考慮した[A:(1)組版レイアウト設計 (2)装丁 (3)折丁 (4)サムネイル],本文のページサイズや開き方をベースにした[B:(1)組版レイアウト設計 (2)装丁 (3)折丁 (4)サムネイル]などが必要である。その要素には判型と版面の関係があり,文字サイズ,字詰め(行長),行間,[C:(1)ノンブル (2)行数 (3)ページ数 (4)用紙]などを最適化する。これらの要素は,見て美しいという「美学的側面」と,読みやすいという「可読性」に関係する。

 デザインのベースとして,幾何学的な矩型が使われることが多い。例えば,印刷用紙規格(A判/B判)には短辺を1とすると長辺の値が[D:(1)半分 (2)二乗 (3)√2 (4)π]となる長方形が使われるし,判型や版面などの設計には黄金比の矩型が用いられる。
 判型に占める版面の位置,つまり天地左右に設けるマージンの取り方では,見開きの左ページと右ページの版面の位置関係や面積が考慮の対象になる。書籍の版面は,ひとつのページのなかで[E:(1)文字組みが占有する (2)製本仕上げ (3)図版が占有する]部分のことで,本文部分の各ページの版面は同一である。また,左右両方のページをひとつの図版として捉えるため,判型に対する版面が中央に位置[F:(1)するのが常識 (2)しなければならないもの (3)していることは稀]である。

 マージンと版面の取り方には諸説あるが,判型に対する伝統的な書籍の体裁はのどあきが[G:(1)一番狭く (2)一番広く (3)マージンの平均値となり],次に天,小口,地の順となるのが一般的である。
 行長の上限は,縦組みの場合は40〜45字詰めが一般的であるが,横組みでは[H:(1)15〜25 (2)20〜30 (3)30〜35 (4)45〜50]字詰めが限度で,それ以上は可読性を損ねることになる。

 一方,行長が短くなると視線の折り返しの回数が多くなるから,行長は,常識的には[I:(1)14〜15 (2)15〜20 (3)20〜30 (4)30〜40]字程度が下限とみなされる。文字サイズに関係なくこれ以下の行長で組版すると可読性を低下させる。
 行間の適性値は行長の3%という説がある。行長が増えると行間が増えるが,全角を超えた場合は,全角にして可読性維持を図る。

    ■出題のポイント■
     雑誌や書籍など,出版印刷物の造本設計を行うための基礎知識を問うもの。
     出版印刷物の「顔」である表紙などの装丁と,読みやすさを保持するための組版知識の基礎を理解しておく。

    ■関連項目■
    文字組版・面付け・製本様式・用紙・印刷方法
     出版印刷物の造本設計では,外観の表紙や帯のデザインのために,製本様式・用紙・印刷方式を知ることで,より幅広いデザインが可能となる。また,本の内面を構成する文字を中心としたレイアウトデザインについては,読みやすさを実現するための文字組版知識が重要な要素となる。

    ■問題解説■
     造本設計とは,どのような本にするのか外装と内装を決めることである。外装としては,表紙・帯・外箱・カバーなどが挙げられるが,これらの素材の選定からデザインまで行うのが「装丁」である。装丁では,本の内容・使われ方を考慮して,大きさや厚さを決定する。そのためには,用紙の素材としての特徴,大きさの規格,製本の種類や特徴などを知っておくと良い。その上で,外観としての美しさや,耐久性などを実現する。
     内装としては,ページ内で書体や文字の組み方,図版や写真をどのように配置するかといった「組版レイアウト設計」を行う。組版レイアウト設計では,本文のページサイズや開き方をベースに,本の内容に応じたレイアウト演出や,読者の視線を誘導する文字の基本組体裁(文字サイズ,字詰め,行間,行数)を決める。そのためには,用途に応じたレイアウト手法,組版ルールを知って,レイアウトの美しさや読みやすさを紙面上に展開する。

     判型を決める上で,用紙サイズの規格寸法や規格外の寸法を知っておくと良いが,「JIS P 0138-61紙加工仕上寸法」で規定しているA列・B列の寸法は,短辺の寸法を1とした場合,長辺の寸法は,√2(1.41……)となる長方形になっている。このことにより,A列・B列の用紙に対して2つ折りを繰り返しても相似形が得られる。

     書籍などでは,版面を決める場合,見開きの状態で左右両方のページをひとつの図版として捉え,天地左右のマージンをとる。マージン各部の名称は,ページ上部を「天」,下部を「地」,見開きページの内側を「のど」,外側を「小口」という。その余白配分は,視覚効果を考慮し,左右ページの一体感や連続性を実現するために,「のど<小口」とする。また,安定感を生むためには「天<地」とする。総合して,「のど<天<小口<地」とする説が一般的である。このため,判型に対する版面を見た場合,1ページとしては,版面が中央に位置することは稀である。



     書籍の特徴としては,文字を主体とした読み物が多く,その版面は文字組みが占有する部分となり,ページ単位に見た版面面積は同一となる。版面内の本文組みでは,「文字サイズ×字詰数」により行長が決まる。その上限および下限については,人間の視線の移動を考慮し,可読性を確保する目的から,上限は,縦組みの場合には40〜45字詰め,横組みでは30〜35字詰めとなる。下限については,14〜15字程度となる。これらの限度を超えると,読者は文字を見失うことが科学的にも実証されている。

    ■用語解説■
    造本設計(ぞうほんせっけい) 本の形を決めること。
    装丁(そうてい) 書籍全体に関わるデザイン。外観の素材から表紙・外箱に至る総合デザイン。
    判型(はんけい/はんがた) 印刷物の仕上がり寸法。
    版面(はんめん/はんづら) ページ面に対して,実際に文字や画像が印刷される部分。
    折丁(おりちょう) 製本のための刷り本(刷り上がった印刷物)を通常8/16/32ページ単位に折ったもので,製本の1単位。これを束ねて1冊の本ができる。
    サムネイル デザインを視覚化するためにアイデアを紙の上に試し描きしたもの。
    ノンブル 雑誌や書籍のページの順番を示す番号。ページ番号。
    マージン ページの余白。ページ上部を「天」,下部を「地」,見開きページ内側を「のど」,外側を「小口」という。

    ■解答■
    A:(2)装丁 B:(1)組版レイアウト設計 C:(2)行数 D:(3)√2 E:(1)文字組みが占有する F:(3)していることは稀 G:(1)一番狭く H:(3)30〜35 I:(1)14〜15

問2 グリッド

次の文の[ ]の中の正しいものを選びなさい。

 活版印刷時代の紙面レイアウトは,余白,文字サイズ,行長,行間,見出しなどが画一的なことが多かった。それに対して,非対称なグリッドをベースにした印刷紙面制作の考え方が[A:(1)バウハウス (2)アールデコ (3)アールヌーボー (4)ダダイズム]とともに出現した。時間と費用がかかり広くは普及しなかったが,この考え方により,デザイナーが最初にレイアウトを作成し,印刷に関する詳細な指示を書き込んでから,印刷会社に渡すという流れが生まれた。

 この考え方はDTPソフトにも取り入れられ,文字組みやレイアウトのフォーマットなどをデザイナーが設定し,それを[B:(1)図版化 (2)テンプレートに (3)版下台紙に]して再現できるようになった。
 グリッドはデザインを簡単に反復できる機能をもち,作業者が異なったり,時間が隔たっていても複数の紙面を同じように見せることができる。
 また同じ考えのグリッドを元にすればサイズや印刷様式,色などが異なる多様な印刷物において[C:(1)ひとつの会社の「コーポレートアイデンティティ」 (2)変化 (3)同じコンテンツ]を維持させることができる。

 デザイナーは構図に関する伝統的な美学というルールの上に,個人の経験を蓄積し,そのノウハウをグリッドに注ぎ込むことができる。例えば,大量の文章では[D:(1)なるべく行間に変化をもたせる (2)むやみに行間を変えない (3)行間は一定にする]とか,自分のセンスを発揮したいところは緻密・正確に行間を設計し直したりする。つまり,グリッドベースのデザインをコンピュータを使って徹底すれば,本文テキストとイラストや写真,見出し文字を整列させてかっちりしたイメージにすると同時に,[E:(1)一様な雰囲気をもたせられる (2)独創性を発揮できる (3)一部を強調して読者の理解を助けられる]のである。

 グリッドのデザイナーの立場としては,文章を書いた人間やイラストの制作者が訴えたい思いに対して,[F:(1)大きく変化を演出するべき (2)全く別の立場で仕事をすべき (3)個性が目立ってしまうことは好ましくない]といわれる。

    ■出題のポイント■
     印刷物制作過程でのデザイナーによる紙面デザインにおいて,長く支持されているグリッドシステムの役割を認識するとともに,ページデザインの在り方を考察する。

    ■関連項目■
    レイアウトデザイン・文字組版

    ■問題解説■
     15世紀半ばに活字による印刷が発明されてから,活版印刷時代には,印刷工が長方形内に活字を組版していく方法で文字組版が行われていた。この紙面レイアウトは,安定感のある印象を与える反面,タイポグラフィ(組版技術)の制約を伴い,画一的なことが多かった。
     その後バウハウスの時代に,同校の造形美術手法のひとつである非対称の概念を,タイポグラフィ,グラフィックデザインの考え方に生かしたグリッドシステムが生まれた。

     バウハウス時代のデザイナーたちは,グリッドシステムを利用した正確な紙面レイアウトに,印刷に関する詳細指示を書き込んだレイアウトデザインを作成するようになった。その結果,従来の印刷工による紙面レイアウトからデザイナーによる紙面レイアウトへと,デザインに関する決定権が移行していった。
     グリッドシステムは,レイアウトの要素である行,段,見出し,図版などをユニットとして捉え,任意に組み合わせたり,交換したりすることを可能とする。このことにより,さまざまなバリエーションを作ることができ,機能的かつ合理的なレイアウトが実現する。

     また,実践面では,DTPシステムによるテンプレートとして利用することにより,繰り返し使用する際にデザインに一貫性をもたせることができる。例えば,ひとつの会社が作る目的や種類の異なる印刷物でも,グリッドシステムによるテンプレートを利用することで,その会社のコーポレートアイデンティティを維持させることが可能となる。
     グリッドシステムを利用する目的としては,可読性・読者の視線誘導・一貫性・反復性・構図のバリエーションなどが挙げられる。

     これらを実現するためには,単にグリッドを利用するだけでなく,そのなかにデザイナーの技術的要素や経験を注ぎ込むことが要求される。非対称のグリッドシステムでは,バランスをうまくとらないと不安定な落ち着きのないレイアウトになってしまうこともあり,作成したテンプレートで,もし失敗した場合,ミスが反復されてしまう危険性もあるからである。

     グリッドシステムを利用した完璧なレイアウトを実現するためには,デザイナーのノウハウはもちろんのこと,タイポグラフィに関する知識や依頼主の意図を正確に把握しておくことも重要な要素となる。例えば,可読性の観点から,大量の文章でむやみに行間を変えないなどは,これらの要素に基づくものであろう。行間を利用して独創性を発揮したいならば,全体の構図とタイポグラフィを考慮し,非常に緻密な計算により行間を設計し直すことが必要である。グリッドシステムを利用した独創的なデザインでは,各パーツのサイズや形状・バランスを考慮した上で,一部を強調して,読者の視線を誘導することにより,理解を助ける役割を果たすこともできる。

     このように,グリッドシステムは,デザイナーのノウハウを埋め込むことにより,限られたスペース内で,読者の視線を誘導する手段として,さまざまな応用法が世界で利用され続けている。
     グリッドシステムは,グラフィックデザインの基本である伝達手段としてのレイアウトであり,その役割は,デザイナーの個性を目立たせることではなく,読者の可読性を高め,依頼主の意図を正確に伝達することである。

    ■用語解説■
    グリッド 格子,碁盤目の意味。ページデザインの方法のひとつとして,紙面を格子状に分割し,それをベースに複数の格子状のエリアを文字組みエリア/写真・図版配置エリアとして,割り付けていく方法をグリッドシステムという。


    バウハウス バウ(建築)−ハウス(家)という造語からきている,ドイツの造形美術学校の名称。芸術活動のひとつとして,この学校の芸術教育の理念を引き継いだものについても「バウハウス」と呼ぶ。バウハウスの幾何学的なデザインや非対称の構成理論は,建築・芸術の各方面に受け継がれており,近代デザインの発展の土台を築いたといわれる。グリッドデザインもそのひとつ。
    コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity/CI) 企業のカラーやシンボルなどの統一により,企業特性を認知させること。

    ■解答■
    A:(1)バウハウス B:(2)テンプレートに C:(1)ひとつの会社の「コーポレートアイデンティティ」 D:(2)むやみに行間を変えない E:(3)一部を強調して読者の理解を助けられる F:(3)個性が目立ってしまうことは好ましくない
(出典:月刊プリンターズサークル連載 2001年7月号記事より)

2001/07/20 00:00:00


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