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製版フィルム廃棄損害賠償請求事件判決■判決から学ぶべきこと

目次■1.本事件の概要2.裁判所の判断/3.判決から学ぶべきこと



■判決から学ぶべきこと(実務上の留意点)

1. 中間生成物の所有権の帰属
本件判決にも引用されているが、東京高裁は、版下の所有権が争われた事件において、平成2年12月26日に、「印刷の発注・受注の関係は、印刷物の完成を目的とする請負契約の性質を有するものであり、印刷業者としては、注文に係わる印刷物を完成させ、これを注文者に引き渡すことによって、契約の履行を終える。そして、いわゆる版下は、当事者間の合意、商慣習、その他特別の事情の存在しない限り、これを注文者に引き渡す必要はない。」と判示し、印刷取引の法的性格から版下の所有権が印刷会社に帰属することを理論的に導いた。以来、中間生成物についての権利帰属に関し、この考え方がほぼ定着しつつある中で、新たな事件について裁判所の判断が示されるとあって、本件訴訟はその帰趨について大いに注目されていたところであった。

ある程度予想されたたところではあるが、本件判決は、概ね上記平成2年の上記東京高裁の判断を踏襲し、製版フィルムの所有権は印刷会社にあると結論づけている。対象物件は版下と製版フィルムの違いはあるものの、いずれも印刷物を生産する過程で道具として作成される中間生成物としての位置づけは同じであり(本件判決中でも「中間生成物」なる用語を用いてその権利帰属について説明している。)、この点については、その意味で極めて妥当な判断が下されたというべきであろう。


2. 口頭での保管についての約束
所有権の帰属の原則は、上記のようであったとしても、特別の約束(特約)が交わされていると、その約束に従わねばならないことになる。例えば、「印刷会社は印刷終了後も製版フィルムの保管をし、要請があればいつでも注文者に引き渡す。廃棄する場合は発注者の同意を必要とする。」といったような口頭又は書面による約束(契約)があれば、それに反して一方的に廃棄してしまった場合、それによって注文者に生じた損害を賠償する責任が印刷会社に発生する。

今回の場合、口頭で製版フィルムを保管すること等についてのやりとりがあったようであるが、それがあいまいであること、また引渡しのための保管まで含んでいないと思われること、さらには保管の合意があったとしても製版フィルムを作成し直すことを要求するまでの権利は注文者にないと裁判所が判断することによって、幸いにも損害賠償の責任を免れている。

しかしながら、一歩間違えば、このような製版フィルム等の保管や引渡し、又は所有権の移転等に関する約束は、結論を180度変えてしまうことになりかねず、相手はお客様であるということもあり、要請があれば安易に応じてしまいがちであるが、慎重に対応すべきである。


3. デジタルデータの場合はどうか
今回の事件は製版フィルムの廃棄に関するものであるが、製版用のデジタルデータの場合はどうであろうか。
デジタルデータであっても、それが印刷物を製造するための道具として中間的に作成されるものであるかぎり、その性格は製版フィルムと何ら変わらず、最終目的物として注文者に納品すべきものではないので、所有権(デジタルデータは情報であり、所有権という概念がなじまないが、それを記録した記録媒体として捉えるか又は有対物に準じて捉えることが可能として所有権の語を使う)は印刷会社に帰属すると考えてよいであろう。

今後、製版、印刷工程のデジタル化の進展と社会全体のIT化の流れの中で、製版データは、デジタルコンテンツの重要な供給元として今以上に期待されることになろう。印刷会社としては、製版データの取扱いについて引渡し要請があった場合どう対応するのか等、しっかりした社内ルール作りと社員への徹底が求められるところである。

(権利問題研究会)



本裁判事例は、貴重な生きた教材として学んでいきたいと考えて、来る2001年9月14日に緊急特別企画「印刷版所有権は印刷会社にあり」と題して、当事者の印刷会'並びに担当弁護士、大日本印刷梶A凸版印刷鰍フ法務の専門家をお招きし、版権と営業対応などについて学ぶセミナーを開'予定です。経営者'営業幹部、企'・営業担当者のご参加をお待ちしております。
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2001/08/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会