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印刷業の吉野屋化が進む

「ネットワークで変わる印刷物制作」と題して2001年7月24日にセミナーを行った。そこで(株)プラネットコンピュータ代表取締役の深澤秀通氏は、インターネットやXML、プリントオンデマンドなどが出てきたポストDTPの技術革新への対応について刺激的な提言をした。プラネットコンピュータはAdobeとともにPDFのシステム的応用を開発・普及を早くから手がけてきた会社で、大手印刷会社、大手企業の印刷発注に関するシステムをPDFの特徴を活かして構築してきた。その深澤氏が、最近の印刷物発注者の動向とPDFの印刷業にもたらすインパクトについて語ったことを紹介する。

一般企業では従来本業の業務部門と印刷物制作は別々の仕事という考えであったのが、特に金融、製造、流通では情報分野と印刷分野の重なりが大きくなって、印刷物の内製化が進んできた。金融や証券は商品を印刷物でみせるので、印刷と本業は密接に関係している。ところがある保険会社は東京ドーム4個分の印刷物倉庫があり、その中に1回も封を開けていないカタログもあり、そのカタログを焼却するだけで年に何億円とかかる。印刷会社は納品をすれば終わりだが、印刷コストは実は在庫のところまでかかっていて、印刷代金の安さだけがニーズなのではない。PDFからのプリントオンデマンドなどでどうやってサービスをするのかが課題になってくる。

印刷の納期は短縮に向かっている。かつてPostScriptやIllustratorのEPSFでDTPをしていた時には出力の工程は一般企業にはあまりなくて意識されなかったが、Adobe AcrobatReaderが世界で3億本もダウンロードされる時代になると、校正の終わったPDFを印刷するのになぜ1週間ほどかかるのか、いうような心理が顧客に生まれてくる。印刷の納期は1週間かかったものは、せめて2日でできないかというように、ある面でPDFは印刷業にとって鬼っ子のような存在になった。

印刷は多品種化してくる。今プリントオンデマンドは定量的または定性的な効果があるのかどうかは悩ましいが、現状でも一部には効果がある。OnetoOneというよりもまだその前の段階で、例えば今まで数万部刷っていたのを数千部にという要望が発生する。それにどう対応するか意見の分かれるところで、特に金融業界など再編が激しいところでは自社で内製化してしまおうというところがある。
ただそうしたところは印刷のノウハウを持っていない。それと印刷の内製化におけるシステム導入の効果が明確かどうか、その基準をどのように設定するのか、印刷費が下がればいいのか、それとも印刷物を作ることによって売上が上がるのが目的か、などがあいまいでは具合が悪いのでまずコンサルティングが必要になる。

印刷会社はそういうシステムを作ることでシステム会社や顧客とコラボレーションできないか。基本的にシステムを作る側は印刷のノウハウを知らない場合が多い。この両者が乖離している点がプラネットコンピュータなどにとって悩ましいところである。最初に必要な要素を全部含んだ全体像を描けないと、本当にそういったシステムを作る効果があるのかどうかがわかりにくい。

汎用機のトップのメーカーが、ミニコンでもデスクトップでもトップになれなかったのは、パソコンなどダウンサイジングしていく時に、限られたリソースの中では同じような仕事をするにしてもニーズの優先順位が変わってしまい、それに対応できなかったからである。
今、ネットワークにかかわる技術というと、PDF、XML、プリントオンデマンド、自動組版、または、ネットワークでの共同生産などの技術などが前提になり、過去と同じような仕事もやり方が変わろうとしている。

DTPというのは基本的に印刷業界の利益となった。ところが、ネットワーク、自動組版、XML、PDFとなると、それはお客様の利益になる。いわゆる価値のネットワークである。今存在するニーズに対して新しい技術を使ってシステムを作ることの利点は、印刷会社よりもお客様の利益の方が多くなるとプラネットコンピュータは感じている。
こういうところに印刷業界の今置かれている苦労があるのではないか。例えば、PDFやXMLでいくと、インターネットで制作物を作るということは、デジタルのコンテンツになる。デジタルのコンテンツにするとネットで送れるし、逆にネットで使う意味がないものはそうする必要もない。

要するに紙に出力するかどうかは利用側の顧客の判断しだいである。顧客は必要なときにオンデマンド印刷をする。あるいは電子文書で配信し、受け取った側が自分でプリントするというようなシステムである。当然ボリュームのあるものはそこから印刷会社が印刷する。
やはり電子文書になっても印刷のテイストが欲しいという方は多いと思う。ただそれだけだと印刷会社にとっては利益が少なく、なかなかビジネスはしにくい。要するに、現状の技術革新というのは、インターネットで電子文書、PDFなどで、それぞれにあったファイルが流せるようにするもので、その中でビジネスを考えなければならない。

こういうインターネットやWebのシステムになると印刷会社は刷るだけになるのか。深澤氏は印刷業の吉野家化あるいはマクドナルド化が進んでいるのではないかという。つまり「早い、安い、うまい」の3要素がキーである。「早い」の要因はPDFが出てきたからだ。ネットがあれば添付ファイルで見られるので、それらを読んですぐに印刷できる。なぜ印刷は1週間もかかるのかという疑問が出てしまう。
顧客は自動組版で「読めればいい」と言いながら、やはり「印刷のテイストは欲しい」とおっしゃる。また印刷前工程から在庫管理までさまざまなサービスがある。どこまでの品質をどの価格で、というのは微妙な問題である。この会社の印刷物は適正価格であると納得させられる会社が伸びるだろう。

まず印刷に対して不満を持っているお客様の声に耳を傾けることが重要で、品質も入るかもしれないが、従来のやり方に対しての不満を知ろう。なぜ営業マンが1回の校正や納品のために走らなければいけないか。在庫が何とかならないのか。これらは発注のしかたで改善できるだろう。ここらまでをキチンとシステム化しなければならない。
その先に印刷の付加価値とは何かが問題になる。喫茶店はある時期は斜陽的な業界かと思ったのだが、ドトール、スターバックスなどの登場で市場自体がかなり活性化してくる。これは少し印刷と似ているところがある。印刷会社が持つデザインセンス、印刷に対するこだわりで、顧客の好き嫌いというのも分かれるだろう。ブランドとテイストというのがいつまでも残る要素であるというコメントがあった。

ところで,PDFの利点はネットワークで利用した場合にもっともよく発揮されるが,デジタルワークフローにおいては,CTPやカラープリンタ利用の広がりとも相俟って,プルーフがもっとも大きなテーマのひとつと考えられている。そこでクローズアップされるのが,PDFによるオンラインプルーフやリモートプルーフである。この問題については,2001年8月21日に「PDFフローにおけるプルーフの現状」で取り上げる。

2001/08/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会