今EC(電子受発注)を騒いでもシラけた気分になる人もいるかもしれない。確かに一昨年来のような威勢の良い掛け声はなくなったが、印刷の取引をEC化するというテーマの意味は少しも低くはなっていない。むしろ今まではECに対する誤解が強かったように思われる。印刷の取引をEC化しても、市場全体を考えれば、売るものが増えるわけでもなく、客がどこからか湧いてくるわけでもない。個々の企業の取引先が流動するにしても、全体のパイは変わらないので、間違って仕事が増えるような期待をすると具合が悪い。
どう具合が悪いかというと、EC関連で投資をしても、その効果が把握し難いからである。日本のECの進展が思ったよりもスローペースに見えるのは、ECの前提となる印刷工程および資材に関するデータ管理が印刷会社の中で成熟していないためで、見積も進行管理もオープンシステム+ネットワークに乗せられる状態ではなかったことによる。そのために、EC化に際して社内情報システムの整備が必要になるが、それはEC化でモトをとるという種類のものではなく、たとえECがなくても行うべき経営管理の一環なのである。
つまり印刷業でEC化がうまくいかないということは、得意先との問題ばかりでなく、社内の本社工場間とか同業者協力会社間の情報交換が今日のビジネス水準になっていないことと同じである。この問題は鶏と卵のような関係で突破口が見つけにくいように思えるが、そこのソリューションとしての受発注の間を取り持つECサイトが活躍すべき分野がある。そのECサイトもまだ登場したばかりで、現状のサービスが上記の取り持ちの役割を満たしているとは必ずしもいえない。しかし今後のECサイトの発展の方向は印刷会社の内外のシステムのつなぎ役であり、システムへの投資がバランスのよく行われるようにデータ交換の標準を設定することであろう。
印刷のECの究極の目的は、受発注双方にとって仕事の効率化であり、その実現には双方ともに(今流行の)「痛み」は覚悟しなければならない。印刷側は社内の業務の標準化、管理の向上などであり、発注側も従来のような曖昧な態度が通用しないということはあろう。しかし双方がこれを乗り越えなければ、電子メディアが発達する中での印刷物というメディアのパフォーマンスは落ちてしまう。印刷物を使いたい人と、それを作る人の共同の利益として、業務フローの電子化は必須になるのであろう。
2001/08/12 00:00:00