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リサイクル素材としての紙の将来の展望

「2050年に紙はどうなる?」と題して7月25日に開催されたシンポジウムでは,各パネラーの講演に先立って,「紙」についての基本的な情報を確認する意味で,東京農工大学農学部環境資源科学科助教授の岡山隆之先生に基調講演をしていただいた。その内容を紹介する。

紙の消費と製紙用繊維資源の現状

日本の紙・板紙生産量は,この40年間にかなり伸びてきている。これは日本経済の成長の1つの証拠であり,紙の生産量・消費量が,その国の経済あるいは文化のバロメーターであるといわれている所以である。
世界的にみると,日本の紙の消費量はアメリカ,中国に次いで3番目,生産量では2番目に位置している。先進諸国の人口は,世界の総人口の5分の1から6分の1とされているが,この人口で約75%の紙が消費されているというのが現状である。

日本人の1人当たりの紙の消費量はかなりのペースで伸び,オイルショックなど経済的変動によって一時的に減ることはあっても,この40年で全般的には上昇気流にある。ただし,最近10年ほどは比較的スローダウンしてきている。
世界各国の1人当たりの紙・板紙消費量を見ると,アメリカの国民1人当たりの消費量は1年間に350kg近くある。一方日本は,2000年には250kg近くとなっている。上位は先進国に属する国々である。

紙の中でも,新聞用紙の生産量はバブル経済の時期に一気に伸びているが,それ以外は基本的には1つのラインのなかで成長してきている。ただ最近,新聞全体の発行部数が頭打ちということもあり,今後の状況は見えにくい。段ボール原紙であるライナーの生産量の伸びは流通に関係し,その時々の経済的な状況が色濃く反映されるため,多少の変動はあるものの,基本的には生産量は増えている。

次にそれらの原料の調達についてだが,2000年のデータでは,製紙用繊維原料の消費量は約3000万dで,そのうち古紙が1600万dを占め,全体の54%くらいを古紙でまかなっていることが分かる。国産パルプは1070万d前後で全体の35〜36%になる。輸入パルプは260万d前後で全体の8.5%程度。海外の森林資源を切り倒して製紙用繊維原料にしているという社会的批判もあるが,むしろ古紙でまかなってきた部分が多いというのが日本の現状である。

具体的な原料としては,針葉樹および広葉樹の木材が主流であり,日本では,99%を木材に頼っている。その他の原料としては,亜麻のほか,日本では和紙の原料として有名なコウゾやミツマタも使われる。また,コットン,マニラ麻,わら類,竹類,バガスなどが製紙用原料の対象としてあげられる。
東洋の状況をみると,中国や東南アジアは非木材に頼っている部分が多い。ただし,非木材は品質的な問題も多くあり,日本では難しい。最近,ケナフが製紙用原料としてマスコミなどにも報道され注目されている。
日本の場合,非木材資源がなぜ難しいかというと,収穫が1年に1回のため,原料貯蔵の上で問題があり,繊維の劣化や品質低下などが起こったり,柔細胞など繊維以外の細胞要素が多く,パルプ収率が低くなるなどの問題があるからである。

製紙技術の変遷

紙の起源については,西暦105年に中国で蔡倫が麻のぼろや樹の皮,漁網などを原料にして紙を作り当時の皇帝に献上したというのが定説になっている。1986年か7年に,中国の放馬灘で出土した紙(地図)が紀元前のものであるとされ,これが今のところ最古の紙といわれている。当時すでに紙が記録材料として使われていたことが分かり,大きな発見であった。
紙が日本へ伝わったのは,610年が最初とされているが,おそらく実際にはそれ以前に入っていただろうといわれている。ヨーロッパへ伝わったのは,史実では,1144年にスペインで紙が初めて製造されたというのが一番古く,それ以前はパピルスや羊皮紙が記録材料として使われていたとみられる。

紙がヨーロッパに伝わるとすぐにイタリアに製紙工場ができ,1445年のグーテンベルクによる活版印刷技術の発明までは書き写しための記録材料として紙が使われていたことになる。グーテンベルクの活版技術の発明は,紙の消費と生産に非常に大きな寄与をし,これを機に,新しい技術が数多く開発されていくことになる。

紙のリサイクル

昨今,紙の原料として,古紙がかなりの比率で使われるようになっている。リサイクルの面から比較的響きのいい言葉として製紙会社の側からも「再生紙」を一つの目玉として推進している状況にある。2000年のデータで古紙回収率が58%,古紙利用率が57%。古紙回収量の総量は約1830万d。古紙の回収量の伸びで見ると,1983年は約900万トンで,現在はおよそ2倍強の回収がなされていることになる。
紙・板紙の消費主要国の古紙利用率と回収率を比較すると,日本は3番目に位置する。利用率は,台湾やスペイン,韓国,イギリス,ドイツがかなり高く,また回収率は,ドイツ,韓国のレベルが高い。ただし,利用率が高い韓国や台湾では,輸入している古紙の量も多く,古紙商品の3分の1が輸入古紙であるといわれている。

リサイクル素材の観点からここ10年余りの再資源化率を他のリサイクル素材と比べると,古紙は,ごく緩やかな伸びをしている。これは回収できる古紙の量が限られていることからと思われる。東京都23区の可燃ごみの組成を見ると,ごみの中の量的な割合として,「紙ごみ」の占める割合が50%を超えている。
製紙原料として回収可能な古紙の量は,全体の65.6%にすぎないといわれている。たとえば,防湿や防水加工された用紙,トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙,建材用紙などは,基本的には繊維原料とならない。

2005年時に紙・板紙の回収量・回収率はどうなるかという予測データ(日本製紙連合会の資料)によると,全体的には,現在の55.9%から62.5%くらいにはもっていけるだろうと予測されている。

紙の保存

紙の保存の観点から,保存媒体の寿命について見ると,紙の寿命は2000年以上の実績がある。ただし,紙が酸性である場合,保存性は悪くなる。この問題が解決される必要性はあるものの,紙としての長期保存の実績はあるといえる。
近年,紙に変わる媒体としてさまざまなものが登場している。保存用途で使用されているマイクロフィルムは,100年くらい前のものが残っていることから類推して100年はもつだろうといわれている。しかしマイクロフィルムの場合,紙から一度撮影する必要があり,作業上の問題点があるが,保存の観点からすると比較的,無難な選択になる。

電子媒体ついては多種多様なものがあり,その寿命については正直いって分かりにくい。たとえば,以前8インチであったディスケットも今は3.5インチになりサイズがどんどん変化する。最近ではDVDやCD-R,MO…と電子媒体はこの10年の間に激しく変遷してきており,またハード自体もそれにともなって変化している。10年前に5インチのフロッピーに貴重な情報を保存しておいたとしても,今となってはその5インチの媒体をかけられるハードがない。仮にあっても壊れてしまうと修理もできない。したがって当然ながら,電子媒体の場合も情報の移し替えが必要になり,作業的な問題も発生する。
電子媒体は一つのディスケットの中に入る情報量が膨大なので,情報量を短期的に使う場合には便利な媒体で,紙は膨大な情報量は扱いにくいが,携帯性では大きなメリットになっている。

最近,再生紙が普及してきているが,これがもう一つの懸念材料となっている。再生紙の保存性への懸念が新たに指摘されてきている。
実験の結果,保存性からみた場合,中性紙であることが重要であり,リサイクル紙であるかどうかは大きく影響しないと考えられる。再生紙の中の酸性紙が保存の上で問題になるだろう。したがって,保存という観点から再生紙における中性紙の比率を上げていくことを考え合わせる必要性がある。

グリーン購入法が2001年4月に施行され,国や地方自治体等の機関では,環境物品等の調達を推進しなくてはいけないことになった。情報用紙,とくにコピー紙は古紙100%,白色度も70%程度以下でなければならないという規定になっている。また印刷用紙も,古紙配合率が70%以上でなければならないということで,品質的な観点からすると厳しい足かせになっている。

最後に,テーマである「2050年に紙がどうなるか」については,紙は今までの歴史的な観点や資源の問題を考えあわせ,それなりの技術的な努力がなされており,そう簡単にはなくならないだろう。むしろ,環境的な視点,資源の調達の問題でどうなるかということが非常に重要なポイントになってくるのではないか,と締めくくった。

報告記事をご覧ください。

2001/08/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会