本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

動き始めた日本のEC,ASPビジネス

インターネットの普及で,ビジネスの仕組みでもIT化が叫ばれている。このことは,ネットワークを利用したビジネスに変えていくことを意味している。ネットワークを利用した取引では,EDIが昔から行われていた。しかし,これは専用のシステムと専用のネットワークで構成されており,どこの企業でもすぐに行えるものではなかった。

 インターネットの普及とシステムのオープン化により,今ではどこの企業でもビジネスでのネットワーク利用が可能になってきており,ECへの関心が深まってきている。  ECには,一般の最終消費者に物を売るBtoCと呼ばれる分野がある。これは,通販がインターネット上に乗ったような仕組みであるが,なかなかビジネスにはなっていないようだ。このスタイルでは,「クリックアンドモルタル」と呼ばれる,リアルビジネスとネットワークを絡ませる動きがみられつつある。

 また,ECには企業同士のビジネス,BtoBと呼ばれる分野がある。一般的には,SCMと呼ばれる形態と電子調達の形態が出てきている。SCMは原材料から一般消費者までの流れを最適化して,無駄な在庫をやめ,生産効率を上げることを目的としている。この仕組みをネットワークを利用した受発注に置き換えていくもので,各企業の本業の部分に組み込まれる。

 一方,電子調達は,企業が扱う一般資材をネットワークを利用して調達する仕組みである。電子調達市場を作り,そこに皆が接続して,物の発注を行う一般調達となる。  生産の流れに組み込まれた企業同士の受発注であるSCMに対して,電子調達は一般市場を相手にするものである。そして今,このBtoBが非常に注目されている。

 EC,特にBtoBが注目され始めたもうひとつの理由は,ASPと呼ばれるビジネスが登場したことにある。ASP(Application Service Provider)とは,ネットワークを通じて,ソフトウエアアプリケーションの利用をサービスすることである。しかし今では,ASPの範囲はかなり広がり,実際のサービスをネットワークから利用することまで含まれてきている。例えば,チケット予約ができる画面の提供を受け,それを利用するなどである。つまり,今まで代理店やサービス会社が行っていた窓口業務を,パソコンの画面上に貸し出すサービスである。

 ASPにより,注文や見積もり,さらには部門業務そのものまで,サービスを受けることができる。そのひとつが,ASPを利用して,資材発注業務を電子調達に置き換える動きである。必要な部門で資材を発注すると,管理部門でチェックされ,自動的に発注,納品までが行われる。これにより資材発注担当は不要になる。その基本的なインフラとして,EC向けASPが登場している。  昨年から,印刷業界を取り巻く環境でもECの話が増えてきている。ひとつは印刷物のオークションである。見積もりや入札を,ネットワークを利用して行う仕組みである。これは米国で始まったものであり,同国ではドットコム会社がいろいろと出てきた。日本でも昨年ごろから登場している。

 印刷ビジネスは,顧客からの印刷物発注として始まり,印刷物の納品までにいろいろな過程がある。まず見積もりがあり,入札がある。そして原稿入稿から,製作,校正,印刷,納品までのワークフローが存在する。また,製作には外注が絡み,印刷を行うためには紙が必要で,紙の発注があり,最後は納品を含めた配送まである。これらの手配に関して,印刷業ではEC化を望む。また,見積もりから発注まででは,顧客がEC化を求めるだろう。現在,この周りに多くのECビジネスが立ち上がろうとしている。

ネットワークサービスの動向

 ネットワークではブロードバンド化が進行している。これは高帯域ということで,高速なネットワークを意味する。NTTが打ち出したFTTH(Fiber To The Home)は,自宅まで光ファイバーのネットワークを引くものである。実現にはまだ時間がかかるが,ADSLの開始などで,さまざまな高速ネットワークが利用できるようになりつつある。

 ネットワークの速度とは別に,ビジネスを前提としたネットワークサービスが現在,いろいろと始まっている。今,注目されているものはVPN(Virtual Private Network)サービスである。従来は,専用線のサービスしかなかったが,インターネットと対比するものとして出てきた。印刷業向けとしては,富士フイルム,大日本スクリーン,NTTコミュニケーションズの3社で提供するGTRAXが,印刷業向けVPNサービスである。

 BtoBの場合,接続する先は特定の企業が多い。また,かなりの速度を必要とする。そこで,インターネットで問題になりそうなセキュリティと速度の課題をクリアするために出てきたサービスが,VPNである。  NTTコミュニケーションズやKDDI,TTNetなど多くの通信事業者が参入している。また,外資系などのサービスもあり,特に企業が集中する都市部を中心にサービスが開始されている。

 このサービスの特徴はIPネットワークという点である。従来の専用線接続サービスに比べ,導入コストが低価格で済む利点がある。また,社内のLANもIPネットワークとなるため,特別な技術を必要とせずに運用・利用できる。イメージとしては,単にルータでLANを拡張したものであるため,社内情報システムを関連会社を含め,広域で利用できる。インターネットでは,セキュリティ対策があるが,その必要がなくなる。

 一方,大事な情報を交換するためのVPNに対して,インターネットもADSLやFTTHへの対応で,利用できる帯域が広くなってきた。そのため,VPNサービスの「帯域を保証する」サービスは,徐々に特徴とはいえなくなりつつある。すると,特定の付加価値をつけたネットワークの存在価値は低くなる。VPNはSCMや電子用達などのBtoB利用が中心となるため,特定業種サービスではなく,インターネット同様に,どれだけのASPを実現できるかが問われる時代となった。

ASPとiDC

 インターネットでホームページを立ち上げるために,ISPにディスクを借りるサービスがあった。このメリットは,ISP内で太い回線でつながったサーバにデータを置くことにより,社内に置くよりも外からのアクセスが速くなることである。このサービスの延長線上に出てきたのが,iDCというサービスである。

 インターネットデータセンターという,インターネットで取り扱うサーバを集めて運用できる環境を提供している。iDCの特徴は,建物や電源の安全性や,高速なネットワーク帯域の提供などであり,ECを行う環境を提供する。そして,このiDCの一番の利用者は,各種ASPサービスを提供する企業であり,そこに使用するサーバ群が置かれている環境となっている。

 ECだけでなく,いろいろなアプリケーションの中核にはデータベースが存在する。社内システムではデータベースが社内にあるため,装置が破損しデータを失っても,社内の責任でしかない。一方,ASPでは顧客の情報を扱うため,サーバのダウンもデータの破損も許されない。このため,ASP業者は装置の二重化だけでなく,バックアップアップのためのiDCまで検討している。

 ECでは受発注の帳票がデータベースになり,履歴などすべてがデジタル化される。そのための安全対策はECの一番の課題となっているため,iDCがそろいつつある。  また,インターネットで起こるクラッキングやウイルスなどを考えると,入り口からチェックが可能になるiDCの利用は,セキュリティの面からも重要になってくる。顧客のデジタルデータのデータベース化などにおいて,印刷業のiDC利用はこれからのキーワードになるだろう。

印刷業向けEC,ASP

 印刷業向けのASPには,まず見積もりから入札,受発注までを行うサービスがある。現在,かなりの数のサイトが立ち上がってきている。製作の標準化が可能な商品では,ネットワークによる入札や発注は有効である。これは自動化の対象となり,EC化が要求される部分でもある。  印刷業では,営業が顧客を訪問する回数が非常に多いが,この業務フローを支援するサイトも登場している。進行や指示・変更,連絡などをネットワークで行い,印刷ビジネスのワークフローを支援するサービスである。

 アイフィスジャパンが提供しているEPREXは,印刷物受発注をASPでサービスする仕組みである。顧客との間で,営業が訪問したり,電話を受けるなどの業務を,Webを利用して効率良く行う。印刷発注指示まで行え,24時間どこからでも利用できる。企業内におけるドキュメントの問題では,セグメント化した情報提供が求められている。そのため,バリアブルやワンtoワン,短納期,小ロットカラー印刷などへ対応する必要がある。

 こういった企業ニーズに対し,EPREXは非常に有効となる。顧客と印刷業のコミュニケーション,つまり新規受注から再発注,さらに印刷履歴,原稿の保存,社内の承認などの業務までを,Webを利用して支援する。印刷物を発注する企業,印刷業ともに,メリットがあるシステムである。

 イードックが提供しているi-Pri.net(アイプリネット)は,インターネット,自動組版エンジン,自動HTMLエンジンとデータベースを組み合わせることにより,印刷物の入稿から版下作成,発注までをネット上のシステムで完結するサービスである。その印刷物情報を,ホームページ上の情報と連動させることもできる。インターネット上で入稿された印刷内容はデータベースに蓄積・管理され,ホームページへの自動更新を行う上,ほかの印刷物への再利用をいつでも可能とする。

 このシステムではインターネット上で,顧客自身が入稿を行う。そして,数分後に,PDFによる校正画面がWeb上に表示される。そのため,印刷会社との煩雑なやり取りを減らすことが可能となり,制作時間が短縮され,コストも削減できる。また印刷会社にとっては,余計な営業コストを抑え,印刷物作成工程の短縮化を図ることができる。その上,顧客の印刷データを管理することで,より顧客とのつながりを強化できる。

 印刷業向けとしては,印刷会社が扱う資材の発注をEC化するものがある。主に紙などを中心に,いろいろなサービスが出てきている。入札,見積もりなどの業務から発注までをネットワークで行う,EDIとしてのサービスがある。

 イービストレードが提供しているベイツボ・ドット・コムは,紙の購入に関して,スポットから定期の購入,小口から大口まで,さまざまなメニューをそろえている。例えば「受注します」のメニューでは,Web上で商品を選び見積もりをとって,発注する仕組みとなっている。これは,従来のEDIの仕組みをWebへ移したサービスである。「買います」「売ります」では,eマーケットプレースとしてのサービスを行う。さらに,小口カタログ販売の「揃ってます」もあり,各種サービスメニューをそろえている。

 これらは,基本的にはインターネットを利用したサービスであるが,SCMへの対応に関しては,印刷業でもVPNの検討が必要なこともある。受発注データのみならず,顧客データを預かる印刷ビジネスでは,重要なデータが含まれる場合もあるからである。今後,セキュリティが要求されるようになると,印刷業のシステムや企業向けサービスも,iDCを中心にしたものになってくるだろう。

(Printers Circle 2001年8月号より)

2001/08/21 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会